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プロローグ
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冬、月のない深夜、薄暗い路地裏で、青年と少年が顔を近づけて囁き合っている。
「アニキ。マジでやるんすか」
「当たり前だ。俺たちの稼業は、舐められたら終わりだぞ。よそ者のチンピラ相手にイモ引いたら、この街で食っていけなくなる」
緊張と恐怖、興奮がない交ぜになった感情をあらわすかのように、二人の息は荒かった。
青年は二十代前半で、筋肉質な体を、白い糸で刺繍されたアルファベットだらけの黒ジャージに包んでいる。
整った顔には小さな傷がいくつかあり、険しい目つきと相まって、チンピラにしか見えない風体だった。
対して少年は線が細く、少女のような可愛らしい顔立ちをしていた。
声変わりもまだのようで、アニメのヒロインのような甘い声だ。話し方を少し変えただけで、男女問わず誰からも好意を得られるようになるだろう。
ちぐはぐな印象はあるが、街のチンケな不良と子分の年少者といったところだ。
不良とその子分に相応しく、両者ともに小学生用の短い金属バットを持っていた。
大して重くもない金属バットを抱えるように持つ少年には、怯えの色が強くでていた。
「そりゃそうっすけど。ボクらだけはキツイっすよ。誰か呼べないんすか。後輩とか先輩とか」
「心当たりは全員、断られた」
「アニキ人望なさすぎっす」
「違う。他の奴らの勇気がないんだ。よそ者に好き勝手されてたまるか。上等だ」
「二人だけじゃ無理っすよ。今回は見送りましょう」
「静かに、きたぞ」
青年の向けた視線の先に、いつのまにか人影が立っていた。
「本人なんすか?」
「こんな時間にこんなところにくる奴なんて、アイツしかいない」
標的である半グレのリーダーだと、青年は確信した。
女の家に向かうという情報を地元の先輩から得ていた青年は、待ち伏せをしていたのだ。
「やるぞ。別に殺すわけじゃない。痛めつけて警告するだけだ。今更、ビビってんなよ。相手は一人なんだぞ」
「え? いや一人じゃないすよ」
「なにを馬鹿な――」
少年の言う通りだった。
人影は急激に増えていた。
僅か十数秒の間に、人影は十人を超えた。
「よう、月のない良い夜だな。ここじゃ目撃者も現れねえし、いたとしても何も見えねえ」
最初に現れた人影が、青年と少年に対して、口を開いた。
あざけりを込めた口調だった。
当然だった。
待ち伏せをしているはずの青年と少年が、逆に待ち伏せをされていたのだから。
「なんでお前が待ち伏せしてんだよ!」
「お前片倉っつー名前だろ。隣の小さいのは村田とかいったよな。地元の連中に売られたんだよ」
「はあ! そんなわけが」
「あるんだよ。ロクにケツモチもいないってのに、俺らともめようとするバカは、お前らくらいしかいないっつーだけの話だ。じゃあなマヌケ。くたばれ」
人影が腕を振るった。
金属バットや刃物で武装した十数人男たちが、二人に殺到してくる。
「畜生! ミズキ逃げろ」
「イヤっす。アイツ、ボクのことチビっていったんすよ」
身体の小さな少年は、背のことでからかわれると、向こう見ずになるのだった。
金属バットを担いで、少年は男たちを迎え撃つ構えだ。
「この馬鹿野郎が! 兄貴分の言うことを聞きやしねえ」
青年は、弟分を見捨てるような性分ではない。迷うことなく少年に続いた。
二人は十数人の男たちに立ち向かうが、人数差はどうしようもない。二人は、タコ殴りにされた挙句に、ナイフで刺されて路上に転がった。
冷たいアスファルトから、血だまりから湯気が立つ中、二人は顔を近づけ囁き合う。
「……畜生、すまん」
「アニ、キ」
よりそった二人の遺体は、翌日になって通勤途中のサラリーマンに発見されニュースとなり、数日で世間から忘れ去られた。
「アニキ。マジでやるんすか」
「当たり前だ。俺たちの稼業は、舐められたら終わりだぞ。よそ者のチンピラ相手にイモ引いたら、この街で食っていけなくなる」
緊張と恐怖、興奮がない交ぜになった感情をあらわすかのように、二人の息は荒かった。
青年は二十代前半で、筋肉質な体を、白い糸で刺繍されたアルファベットだらけの黒ジャージに包んでいる。
整った顔には小さな傷がいくつかあり、険しい目つきと相まって、チンピラにしか見えない風体だった。
対して少年は線が細く、少女のような可愛らしい顔立ちをしていた。
声変わりもまだのようで、アニメのヒロインのような甘い声だ。話し方を少し変えただけで、男女問わず誰からも好意を得られるようになるだろう。
ちぐはぐな印象はあるが、街のチンケな不良と子分の年少者といったところだ。
不良とその子分に相応しく、両者ともに小学生用の短い金属バットを持っていた。
大して重くもない金属バットを抱えるように持つ少年には、怯えの色が強くでていた。
「そりゃそうっすけど。ボクらだけはキツイっすよ。誰か呼べないんすか。後輩とか先輩とか」
「心当たりは全員、断られた」
「アニキ人望なさすぎっす」
「違う。他の奴らの勇気がないんだ。よそ者に好き勝手されてたまるか。上等だ」
「二人だけじゃ無理っすよ。今回は見送りましょう」
「静かに、きたぞ」
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「本人なんすか?」
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「やるぞ。別に殺すわけじゃない。痛めつけて警告するだけだ。今更、ビビってんなよ。相手は一人なんだぞ」
「え? いや一人じゃないすよ」
「なにを馬鹿な――」
少年の言う通りだった。
人影は急激に増えていた。
僅か十数秒の間に、人影は十人を超えた。
「よう、月のない良い夜だな。ここじゃ目撃者も現れねえし、いたとしても何も見えねえ」
最初に現れた人影が、青年と少年に対して、口を開いた。
あざけりを込めた口調だった。
当然だった。
待ち伏せをしているはずの青年と少年が、逆に待ち伏せをされていたのだから。
「なんでお前が待ち伏せしてんだよ!」
「お前片倉っつー名前だろ。隣の小さいのは村田とかいったよな。地元の連中に売られたんだよ」
「はあ! そんなわけが」
「あるんだよ。ロクにケツモチもいないってのに、俺らともめようとするバカは、お前らくらいしかいないっつーだけの話だ。じゃあなマヌケ。くたばれ」
人影が腕を振るった。
金属バットや刃物で武装した十数人男たちが、二人に殺到してくる。
「畜生! ミズキ逃げろ」
「イヤっす。アイツ、ボクのことチビっていったんすよ」
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金属バットを担いで、少年は男たちを迎え撃つ構えだ。
「この馬鹿野郎が! 兄貴分の言うことを聞きやしねえ」
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二人は十数人の男たちに立ち向かうが、人数差はどうしようもない。二人は、タコ殴りにされた挙句に、ナイフで刺されて路上に転がった。
冷たいアスファルトから、血だまりから湯気が立つ中、二人は顔を近づけ囁き合う。
「……畜生、すまん」
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