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31 王現る
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ミオが自らに放った一撃は、強力だった。
衝撃が頸椎を経て脳に達し、視界にカスミがかかる中、ミオは笑う
「ヨシ」
意識を朦朧とさせながらも、正気を取り戻したミオは、満足して頷いた。
口の端から血が垂れていても気に留めない。自力で、ステッキに宿っていると思われる名状し難い邪悪な意思を、退けてやったのだ。
精神はともかく、ミオの身体を構成するパーツは、細いか薄いかだ。
例外は、繁茂する髪の毛だけであり、同世代ではトップクラスに貧弱な子供の身体をしていると確信できた。
貧弱で貧相な幼女と少女の中間に位置する体で、恐るべき黒き死呼ぶステッキの支配を打ち破ったのだ。
電撃の障壁を張り続けながら、ミオは自賛した。
「妖魔たちを先日のように沼に引き込まずに、電の力を俺に使わせたのか疑問に思っていたが、得心がいったぞ。俺が電を操っている間に、俺の精神を飲み込もうとしたな」
ステッキを睨みつける。黒いドクロが、小刻みに震えた。
怯えているかのようだ。
生き物のような動揺を示した禍々しい杖に、ミオは勝者としての笑みを浴びせた。
勝利というのは、老若男女も時代背景も関係なしに、嬉しいものだ。
「自分で顔を殴るなんて、キミは何を考えているんだい。もっと自分を大事にしないといけないよ。女の子なんだし。あとね、ボクは女装とか嫌いだよ」
自分の顔面を殴っておきながら得意になってるミオに、ニコラスがつまらない正論で諭してきた。
ニコラスの言葉には、小賢しくも自己防衛の言葉がプラスされていた。
機嫌がいいのでニコラスの不作法を聞き流し、心配顔で自分を見つめる赤毛の女に、ミオは声をかける。
「アニータ」
「は、はい」
顔を引きつらせるアニータに、ミオは笑みを浮かべる。アニータの瞳に映るミオの姿は、先ほどよりマシな顔をしていた。
肌は青白く、目のクマは濃い。切れた口の端からは、血が一筋流れている。ゆるく上がる口角は、占師がネガティブな予言をする前段階を想起させた。
相変わらず不吉な外見だが、まだ女児の範疇であり、許容できた。
「もう大丈夫だ。あとは俺に任せろ」
「正気に戻ったんですね。姐さん」
「攻撃に出る」
〝正気〟という単語を聞き流したミオから放たれた端的な言葉を聞くや、アニータの顔が陰った。
攻撃策が勇気から出ているのではなくて、ミオの精神が内包する狂気と錯乱によって産み落とされたのではないかと、疑う表情だった。
電撃の壁によって、襲い来る妖魔たちを撃退している最中とあって、アニータの反応は当然と言えた。
「攻撃って、打って出るんすか? こう森が深いと、視界が利きません。どこにどれだけ妖魔が潜んでいるのかもわからないんですよ。大物だっているかもしれない。時期尚早ではありませんか」
「心配するな。安全圏から攻撃を加えるだけだ」
「そんなことが、できるのですか?」
「俺は、オスロン家の黒き死招くステッキを、支配してやった。今なら能力を最大限に引き出せる。小さな妖魔の群れなど、千体いても敵ではない」
確信はあっても、ミオに確証があるわけでもなかった。
それでもミオが堂々と自信を表明すると、アニータは決意と喜びの笑みを浮かべた。
「お任せします」
「周囲を沼に沈めて、妖魔と森を一掃する。それまで障壁から出るなよ」
「沼、ですか」
アニータの頬が再び引きつる。
沼に沈められそうになった過去を、思い出したのだろう。
「不満か」
「いえ、了解です! 全員聞きな。これから姐さんが周りを全部ぶっ飛ばすから、大人しくするんだよ!」
アニータが叫ぶや、ミオはステッキに意識を集中させる。
電撃による障壁をはりつつ、黒土が沼となるビジョンを思い浮かべた。
ついで、沼に引き込む黒い手たちを、脳内の光景に加えた。
これで先日、特設戦闘科の不良生徒たちを沼に引きずり込んだ状況を、再現できるはずだ。
どうしてか確信したミオは、ステッキへの意識集中を強くしていく。脳にしびれるような感覚が走ると、視界が赤黒く染まった。
心臓は早鐘を打ち、胸は詰まり呼吸は荒くなる。発熱し、小さな体を悪寒と震えが襲う。関節部は痛み、肋骨を鈍いかゆみが這い回った。
今になって、ミオはステッキの力が禍々しい代物であると理解した。
本当に、今更の話だ。
ミオは手の中にある、黒き死招くステッキを見やる。自然、口の端が自然と上がった。
五十センチほどのステッキは、黒と銀色を基調とし、複数のドクロが並んでいる。コブシ大のドクロに、鈍色のヘビで装飾が施されていた。
全体を茫洋とした黒紫色のオーラが揺らめいており、冒涜的で禍々しい力を放っていた。
邪悪そのものの外見と、不吉で不穏な雰囲気を放つステッキが、尋常なもののはずはない。なぜ今まで、警戒をしなかったのだろうか。
強さこそ正義という信念が、ミオの目を曇らせたのか。
いや、違うな。黒き死招くステッキは、人の心を犯す作用がある。ならば、ミオが手に取った時点で、精神を汚染されていたのかもしれない。
きっとそうだと、ミオは決めつけた。
この世界に来て色々あったところで、ステッキに出会ったとはいえ、修行が足らんな。
まあいい。切り替えよう。ミオは反省を切り上げると、ステッキに語り掛ける。
「俺の力となれ、逆らうことは許さん。沼と、ついでに電撃の力で周囲一帯を殲滅する。貴様の力を使わせろ!」
ミオが傲慢さに暴力性と凶暴性を加えた命令を発すると、周囲は黒紫色の閃光に包まれ、地鳴りと轟音、破壊音が木霊した。
「うわああ!」
「っ……」
ニコラスは狼狽え、アニータはくいしばって耐えた。
「芽メッタ!」
「キュール」
妖魔たちは各々断末魔を上げ、沼に飲まれるか電撃にからめとられるかして、絶命していった。
閃光と破滅の共演は数十秒続き、不意に終わった。
あとに残ったのは、肉と木々が燃える音、高温で固まった黒土が割れる音、様々なものが一緒くたに燃えた際に出る臭気だけだった。
「終わったのかな?」
首を巡らせるニコラスの声には、期待の成分が多く含まれていた。
周囲の生徒たちも同様で、顔を見合わせながら喜びの声を上げる。
「え、勝ったの」
「やった。オレ生き残っちゃったよ」
「そもそも死傷者ゼロじゃね」
能天気な声が沸き上がった。
「姐さん。やっと一息つけそうですね。アタシが周囲を警戒するんで、大休止なり小休止なりを――」
「静かに」
アニータの喜びと疲れが滲んだ声を遮って、ミオは耳を澄ました。
何かの気配を感じるが、耳に新しい音は入ってこない。
「姐さん、どうしたんです」
「臭うな」
「そりゃあ、小腐鬼とウサギの死体もあるんだし、当然でしょう」
「違う、もっと濃いやつだ」
ミオが言葉を放ち、アニータが首を傾げると同時に、風が吹いた。
途端、今まで嗅いだことのない腐敗臭が、顔面に叩きつけられた。
ミオは前世で、本格派の道場通いをしていた。
道場にはむさくるしい道場生たちと、その汗を吸った防具の匂いが充満しており、ミオは臭気に慣れていた。
「ウプ」
が、それでもえずく声が漏れた。
牛乳に浸した雑巾を一ヶ月放置してから角砂糖とハチミツをまぶし、サラダ油とごま油をかけたかのような臭いに襲われたとあっては、ミオでも耐えきれなくて当然だった。
「ゲェ!」
「エロエロエロ」
ミオの反応はまだいいほうで、周囲は生徒たちの吐瀉物で地獄絵図となっていた。
素早く布で顔の半分を覆ったアニータに向けて、ツバと胃液を飲み込んだミオが尋ねる。
「この臭いの元は、妖魔か草木か」
「こんな臭いを放つ草や木は、この非常識な森でもありはしません。並みの腐鬼が放つ臭気じゃありません。上位の腐鬼がいるかもしれません。撤退しましょう」
腐鬼の上位となれば、単純に考えて中腐鬼のといったところか。どれほど強いかは知らないが、今のミオはステッキの力を使いこなしている。小腐鬼よりも大きく強いだろうが、一戦もせずに撤退するような相手とは思えなかった。
ミオがアニータの怯懦を叱責しようとしたとき、足元が少しずつ揺れ始めた。
「地面が揺れているぞ」
「駄馬を落ち着かせろ!」
「助けてお母さま」
「一々慌てるな! 全周警戒を維持しろ!」
生徒たちが慌て、駄馬がいななき、ニコラスが祈る。アニータが怒鳴る中、地震に慣れている元日本人であるミオは、冷静さを保っていた。
そのせいか、慌てるニコラスと生徒たちを他所に、ミオは一人、揺れる視界の違和感に気が付いた。
遠くで、黒い木々の塊が動いていた。
風が吹いたとはいえ、強風というほどでもなかった。
森が目に見えて、しかも上下に動くはずがなかった。
ミオは目をこらす。
巨大な黒い森の上方で、複数の何かが動いた。
前後左右に動いたものは、大小複数の目だった。
森ではない。巨大な妖魔だ。
状況を理解すると、流石のミオも驚愕を隠せなかった。
ミオは息をのみ、口を結んだ。
敵前で感情を、それも負に属するものを露わにするなど、武術家の示す態度としては失格だった。
自覚と恥の概念がミオの理性をつなぎ留める。ミオは浅く長い呼吸をして落ち着きを取り戻してから、アニータに視線を向けた。
「あれは……中、いや大腐鬼か?」
「どちらでもありません。アレは、腐鬼たちを生み出すモノ。妖魔の王に位置する個体です」
凶敵を評するアニータの声は、震えていた。
衝撃が頸椎を経て脳に達し、視界にカスミがかかる中、ミオは笑う
「ヨシ」
意識を朦朧とさせながらも、正気を取り戻したミオは、満足して頷いた。
口の端から血が垂れていても気に留めない。自力で、ステッキに宿っていると思われる名状し難い邪悪な意思を、退けてやったのだ。
精神はともかく、ミオの身体を構成するパーツは、細いか薄いかだ。
例外は、繁茂する髪の毛だけであり、同世代ではトップクラスに貧弱な子供の身体をしていると確信できた。
貧弱で貧相な幼女と少女の中間に位置する体で、恐るべき黒き死呼ぶステッキの支配を打ち破ったのだ。
電撃の障壁を張り続けながら、ミオは自賛した。
「妖魔たちを先日のように沼に引き込まずに、電の力を俺に使わせたのか疑問に思っていたが、得心がいったぞ。俺が電を操っている間に、俺の精神を飲み込もうとしたな」
ステッキを睨みつける。黒いドクロが、小刻みに震えた。
怯えているかのようだ。
生き物のような動揺を示した禍々しい杖に、ミオは勝者としての笑みを浴びせた。
勝利というのは、老若男女も時代背景も関係なしに、嬉しいものだ。
「自分で顔を殴るなんて、キミは何を考えているんだい。もっと自分を大事にしないといけないよ。女の子なんだし。あとね、ボクは女装とか嫌いだよ」
自分の顔面を殴っておきながら得意になってるミオに、ニコラスがつまらない正論で諭してきた。
ニコラスの言葉には、小賢しくも自己防衛の言葉がプラスされていた。
機嫌がいいのでニコラスの不作法を聞き流し、心配顔で自分を見つめる赤毛の女に、ミオは声をかける。
「アニータ」
「は、はい」
顔を引きつらせるアニータに、ミオは笑みを浮かべる。アニータの瞳に映るミオの姿は、先ほどよりマシな顔をしていた。
肌は青白く、目のクマは濃い。切れた口の端からは、血が一筋流れている。ゆるく上がる口角は、占師がネガティブな予言をする前段階を想起させた。
相変わらず不吉な外見だが、まだ女児の範疇であり、許容できた。
「もう大丈夫だ。あとは俺に任せろ」
「正気に戻ったんですね。姐さん」
「攻撃に出る」
〝正気〟という単語を聞き流したミオから放たれた端的な言葉を聞くや、アニータの顔が陰った。
攻撃策が勇気から出ているのではなくて、ミオの精神が内包する狂気と錯乱によって産み落とされたのではないかと、疑う表情だった。
電撃の壁によって、襲い来る妖魔たちを撃退している最中とあって、アニータの反応は当然と言えた。
「攻撃って、打って出るんすか? こう森が深いと、視界が利きません。どこにどれだけ妖魔が潜んでいるのかもわからないんですよ。大物だっているかもしれない。時期尚早ではありませんか」
「心配するな。安全圏から攻撃を加えるだけだ」
「そんなことが、できるのですか?」
「俺は、オスロン家の黒き死招くステッキを、支配してやった。今なら能力を最大限に引き出せる。小さな妖魔の群れなど、千体いても敵ではない」
確信はあっても、ミオに確証があるわけでもなかった。
それでもミオが堂々と自信を表明すると、アニータは決意と喜びの笑みを浮かべた。
「お任せします」
「周囲を沼に沈めて、妖魔と森を一掃する。それまで障壁から出るなよ」
「沼、ですか」
アニータの頬が再び引きつる。
沼に沈められそうになった過去を、思い出したのだろう。
「不満か」
「いえ、了解です! 全員聞きな。これから姐さんが周りを全部ぶっ飛ばすから、大人しくするんだよ!」
アニータが叫ぶや、ミオはステッキに意識を集中させる。
電撃による障壁をはりつつ、黒土が沼となるビジョンを思い浮かべた。
ついで、沼に引き込む黒い手たちを、脳内の光景に加えた。
これで先日、特設戦闘科の不良生徒たちを沼に引きずり込んだ状況を、再現できるはずだ。
どうしてか確信したミオは、ステッキへの意識集中を強くしていく。脳にしびれるような感覚が走ると、視界が赤黒く染まった。
心臓は早鐘を打ち、胸は詰まり呼吸は荒くなる。発熱し、小さな体を悪寒と震えが襲う。関節部は痛み、肋骨を鈍いかゆみが這い回った。
今になって、ミオはステッキの力が禍々しい代物であると理解した。
本当に、今更の話だ。
ミオは手の中にある、黒き死招くステッキを見やる。自然、口の端が自然と上がった。
五十センチほどのステッキは、黒と銀色を基調とし、複数のドクロが並んでいる。コブシ大のドクロに、鈍色のヘビで装飾が施されていた。
全体を茫洋とした黒紫色のオーラが揺らめいており、冒涜的で禍々しい力を放っていた。
邪悪そのものの外見と、不吉で不穏な雰囲気を放つステッキが、尋常なもののはずはない。なぜ今まで、警戒をしなかったのだろうか。
強さこそ正義という信念が、ミオの目を曇らせたのか。
いや、違うな。黒き死招くステッキは、人の心を犯す作用がある。ならば、ミオが手に取った時点で、精神を汚染されていたのかもしれない。
きっとそうだと、ミオは決めつけた。
この世界に来て色々あったところで、ステッキに出会ったとはいえ、修行が足らんな。
まあいい。切り替えよう。ミオは反省を切り上げると、ステッキに語り掛ける。
「俺の力となれ、逆らうことは許さん。沼と、ついでに電撃の力で周囲一帯を殲滅する。貴様の力を使わせろ!」
ミオが傲慢さに暴力性と凶暴性を加えた命令を発すると、周囲は黒紫色の閃光に包まれ、地鳴りと轟音、破壊音が木霊した。
「うわああ!」
「っ……」
ニコラスは狼狽え、アニータはくいしばって耐えた。
「芽メッタ!」
「キュール」
妖魔たちは各々断末魔を上げ、沼に飲まれるか電撃にからめとられるかして、絶命していった。
閃光と破滅の共演は数十秒続き、不意に終わった。
あとに残ったのは、肉と木々が燃える音、高温で固まった黒土が割れる音、様々なものが一緒くたに燃えた際に出る臭気だけだった。
「終わったのかな?」
首を巡らせるニコラスの声には、期待の成分が多く含まれていた。
周囲の生徒たちも同様で、顔を見合わせながら喜びの声を上げる。
「え、勝ったの」
「やった。オレ生き残っちゃったよ」
「そもそも死傷者ゼロじゃね」
能天気な声が沸き上がった。
「姐さん。やっと一息つけそうですね。アタシが周囲を警戒するんで、大休止なり小休止なりを――」
「静かに」
アニータの喜びと疲れが滲んだ声を遮って、ミオは耳を澄ました。
何かの気配を感じるが、耳に新しい音は入ってこない。
「姐さん、どうしたんです」
「臭うな」
「そりゃあ、小腐鬼とウサギの死体もあるんだし、当然でしょう」
「違う、もっと濃いやつだ」
ミオが言葉を放ち、アニータが首を傾げると同時に、風が吹いた。
途端、今まで嗅いだことのない腐敗臭が、顔面に叩きつけられた。
ミオは前世で、本格派の道場通いをしていた。
道場にはむさくるしい道場生たちと、その汗を吸った防具の匂いが充満しており、ミオは臭気に慣れていた。
「ウプ」
が、それでもえずく声が漏れた。
牛乳に浸した雑巾を一ヶ月放置してから角砂糖とハチミツをまぶし、サラダ油とごま油をかけたかのような臭いに襲われたとあっては、ミオでも耐えきれなくて当然だった。
「ゲェ!」
「エロエロエロ」
ミオの反応はまだいいほうで、周囲は生徒たちの吐瀉物で地獄絵図となっていた。
素早く布で顔の半分を覆ったアニータに向けて、ツバと胃液を飲み込んだミオが尋ねる。
「この臭いの元は、妖魔か草木か」
「こんな臭いを放つ草や木は、この非常識な森でもありはしません。並みの腐鬼が放つ臭気じゃありません。上位の腐鬼がいるかもしれません。撤退しましょう」
腐鬼の上位となれば、単純に考えて中腐鬼のといったところか。どれほど強いかは知らないが、今のミオはステッキの力を使いこなしている。小腐鬼よりも大きく強いだろうが、一戦もせずに撤退するような相手とは思えなかった。
ミオがアニータの怯懦を叱責しようとしたとき、足元が少しずつ揺れ始めた。
「地面が揺れているぞ」
「駄馬を落ち着かせろ!」
「助けてお母さま」
「一々慌てるな! 全周警戒を維持しろ!」
生徒たちが慌て、駄馬がいななき、ニコラスが祈る。アニータが怒鳴る中、地震に慣れている元日本人であるミオは、冷静さを保っていた。
そのせいか、慌てるニコラスと生徒たちを他所に、ミオは一人、揺れる視界の違和感に気が付いた。
遠くで、黒い木々の塊が動いていた。
風が吹いたとはいえ、強風というほどでもなかった。
森が目に見えて、しかも上下に動くはずがなかった。
ミオは目をこらす。
巨大な黒い森の上方で、複数の何かが動いた。
前後左右に動いたものは、大小複数の目だった。
森ではない。巨大な妖魔だ。
状況を理解すると、流石のミオも驚愕を隠せなかった。
ミオは息をのみ、口を結んだ。
敵前で感情を、それも負に属するものを露わにするなど、武術家の示す態度としては失格だった。
自覚と恥の概念がミオの理性をつなぎ留める。ミオは浅く長い呼吸をして落ち着きを取り戻してから、アニータに視線を向けた。
「あれは……中、いや大腐鬼か?」
「どちらでもありません。アレは、腐鬼たちを生み出すモノ。妖魔の王に位置する個体です」
凶敵を評するアニータの声は、震えていた。
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