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30:狂気と正気
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ミオがステッキを振るうや、緑の地獄を、百足の形をした禍々しい電撃が束となって吹き抜け、黒土を巻き上げた。
黒紫色をした電気の奔流が示す勢いは、見る者に虫の大群が地を這うさまを想起させた。
「……気持ちわりぃ」
誰かが呟き、同意の頷きが続々と続いた。
おぞましい光景を前にして、他の者が怖気を振るう中、一人ミオだけが楽しんでいた。
「腐、フヒヒ、発ッハー!」
腐鬼の上げるような、音階の狂った笑い声を吐き続けながらも、ミオはステッキの力を操りつづけていた。
力を使う反動なのか、ミオの身体は徐々に重くなっていく。細い足もステッキを振るう腕も機敏に動かせるが、身体は熱病にでも罹患したかのように重くなっていた。
ステッキにも変化が訪れた。
黒紫色の電撃を放つステッキは、ところどころに施されたドクロの装飾から、赤黒い煙を噴き出していた。
「姐さん、ドレスが」
アニータから警告を受け、ミオは着衣を改める。
ステッキから噴き出す煙に触れた部分が、ドス黒く変色して、ドレスから剥離していた。
「裸になっちゃうよ!」
「かまうか」
ニコラスの叫びを男らしくあしらい、ミオは黒い感情に導かれるまま、ステッキを振るう。と、障壁を前に攻めあぐねる妖魔たちに向けて、空中を這いまわっていた黒紫色の奔流が、無数の鞭のようになって飛び込んでいった。
ムカデ形の電光が、妖魔たちを捕らえていく。黒紫色の光が閃き、妖魔たちの腹部が裂ける。焦げた妖魔の身体から、破裂した臓器と、白煙を上らせる体液がまき散らされた。
「偽ニャ!」
「っ女ぶちゃ」
妖魔たちは、死を約束されながらも即死を免れる羽目となっていた。
奇怪で醜い妖魔たちの断末魔を、美しい旋律のように楽しむミオの顔には、朗らかとは程遠い笑みが浮かんでいた。
無残な死の量産速度は、好景気における自動車工場のように増加していった。
同時に、築かれる死体の山は、ニュータウンのマンションのように増え続けている。黒土を染める血の量は、堤防が決壊した後の河を思い起こさせた。
生徒たちの周囲は、死肉とドス黒い血で満たされていく。
「姐さんが、味方で良かった」
「本当に味方なんだよね?」
青ざめた顔で呟くアニータに、ニコラスの震え声がかけられた。
他の生徒たちは、弓や槍を持ったまま立ち尽くしていた。
勝っている戦闘中に肝を冷やす仲間たちを他所に、ミオの精神は加速して過熱していく。
肉塊となった妖魔たちが放つ悪臭を、ミオが気にならなくなったころ、喉の奥から笑いが漏れた。
「クックク。フハッ」
ミオの陰気な外見に見合う禍々し笑みは、児童の心理に詳しくない者でも危機感を抱くほど、心に潜む深い闇を表現していた。
アニータなど、青くした顔を引きつらせている。ミオよりも顔を白くしたニコラスなどは、失神寸前の有様だ。
至近距離で悪霊の王と行き会ったかのように恐怖する妹分と弟分を他所に、ミオは喜びの感情を爆発させていた。
楽しい、癖になりそうだ。
ミオが楽しく妖魔を屠っていると、恐怖するアニータと目が合った。
アニータの瞳に、ミオの姿が映りおんでいる。
悪魔の眷属がいた。
甦りたての死者よりも青白い顔には、赤く光る瞳が並び、目の下のクマはメジャーリーガーのアイブラックよりも濃くなっている。波打つ黒い長髪はヘビのようにうごめき、怪しい艶の輝きが周囲を圧していた。
幼女と少女の間に位置していたミオの姿は、少女と妖女から出来上がっているかのように、変化していた。
傍から見れば、ミオが奇怪なステッキに操られていというより、ミオが力を持つステッキを操っているように見えているだろう。異常な言動をとり、死と呪いを司る悪魔の眷属を連想させる姿を、ミオはしているのだから。
ミオは驚きも委縮もせずに、今の自分を受け入れ、相応しい態度を取り始めた。
「ああ、そうだ。ニコラスの、いや、ニコラスちゃんのためにも、妖魔どもを皆殺しにしないといけないなぁ。他人を守りながらだと面倒だ……よし、この辺り一帯を、全て腐らせてしまおう! このステッキがあれば、俺は無敵――ムゴッ!」
おぞましいなにかにより、精神が決定的に汚染される寸前、ミオの頬に痛みが走った。
ミオの頬を殴りつけた者がいた。
強烈な打撃を受けたミオだったが「誰だ」とは問わなかった。
理由は二つあった。
一つは、打撃で受けた衝撃のお陰で、正気に戻ったから。もう一つは、ミオを殴った者が、ミオ自身だったからだ。
黒紫色をした電気の奔流が示す勢いは、見る者に虫の大群が地を這うさまを想起させた。
「……気持ちわりぃ」
誰かが呟き、同意の頷きが続々と続いた。
おぞましい光景を前にして、他の者が怖気を振るう中、一人ミオだけが楽しんでいた。
「腐、フヒヒ、発ッハー!」
腐鬼の上げるような、音階の狂った笑い声を吐き続けながらも、ミオはステッキの力を操りつづけていた。
力を使う反動なのか、ミオの身体は徐々に重くなっていく。細い足もステッキを振るう腕も機敏に動かせるが、身体は熱病にでも罹患したかのように重くなっていた。
ステッキにも変化が訪れた。
黒紫色の電撃を放つステッキは、ところどころに施されたドクロの装飾から、赤黒い煙を噴き出していた。
「姐さん、ドレスが」
アニータから警告を受け、ミオは着衣を改める。
ステッキから噴き出す煙に触れた部分が、ドス黒く変色して、ドレスから剥離していた。
「裸になっちゃうよ!」
「かまうか」
ニコラスの叫びを男らしくあしらい、ミオは黒い感情に導かれるまま、ステッキを振るう。と、障壁を前に攻めあぐねる妖魔たちに向けて、空中を這いまわっていた黒紫色の奔流が、無数の鞭のようになって飛び込んでいった。
ムカデ形の電光が、妖魔たちを捕らえていく。黒紫色の光が閃き、妖魔たちの腹部が裂ける。焦げた妖魔の身体から、破裂した臓器と、白煙を上らせる体液がまき散らされた。
「偽ニャ!」
「っ女ぶちゃ」
妖魔たちは、死を約束されながらも即死を免れる羽目となっていた。
奇怪で醜い妖魔たちの断末魔を、美しい旋律のように楽しむミオの顔には、朗らかとは程遠い笑みが浮かんでいた。
無残な死の量産速度は、好景気における自動車工場のように増加していった。
同時に、築かれる死体の山は、ニュータウンのマンションのように増え続けている。黒土を染める血の量は、堤防が決壊した後の河を思い起こさせた。
生徒たちの周囲は、死肉とドス黒い血で満たされていく。
「姐さんが、味方で良かった」
「本当に味方なんだよね?」
青ざめた顔で呟くアニータに、ニコラスの震え声がかけられた。
他の生徒たちは、弓や槍を持ったまま立ち尽くしていた。
勝っている戦闘中に肝を冷やす仲間たちを他所に、ミオの精神は加速して過熱していく。
肉塊となった妖魔たちが放つ悪臭を、ミオが気にならなくなったころ、喉の奥から笑いが漏れた。
「クックク。フハッ」
ミオの陰気な外見に見合う禍々し笑みは、児童の心理に詳しくない者でも危機感を抱くほど、心に潜む深い闇を表現していた。
アニータなど、青くした顔を引きつらせている。ミオよりも顔を白くしたニコラスなどは、失神寸前の有様だ。
至近距離で悪霊の王と行き会ったかのように恐怖する妹分と弟分を他所に、ミオは喜びの感情を爆発させていた。
楽しい、癖になりそうだ。
ミオが楽しく妖魔を屠っていると、恐怖するアニータと目が合った。
アニータの瞳に、ミオの姿が映りおんでいる。
悪魔の眷属がいた。
甦りたての死者よりも青白い顔には、赤く光る瞳が並び、目の下のクマはメジャーリーガーのアイブラックよりも濃くなっている。波打つ黒い長髪はヘビのようにうごめき、怪しい艶の輝きが周囲を圧していた。
幼女と少女の間に位置していたミオの姿は、少女と妖女から出来上がっているかのように、変化していた。
傍から見れば、ミオが奇怪なステッキに操られていというより、ミオが力を持つステッキを操っているように見えているだろう。異常な言動をとり、死と呪いを司る悪魔の眷属を連想させる姿を、ミオはしているのだから。
ミオは驚きも委縮もせずに、今の自分を受け入れ、相応しい態度を取り始めた。
「ああ、そうだ。ニコラスの、いや、ニコラスちゃんのためにも、妖魔どもを皆殺しにしないといけないなぁ。他人を守りながらだと面倒だ……よし、この辺り一帯を、全て腐らせてしまおう! このステッキがあれば、俺は無敵――ムゴッ!」
おぞましいなにかにより、精神が決定的に汚染される寸前、ミオの頬に痛みが走った。
ミオの頬を殴りつけた者がいた。
強烈な打撃を受けたミオだったが「誰だ」とは問わなかった。
理由は二つあった。
一つは、打撃で受けた衝撃のお陰で、正気に戻ったから。もう一つは、ミオを殴った者が、ミオ自身だったからだ。
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