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21:罠
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特設戦闘科という、校長から放たれた聞きなれない単語に、ミオは眉を寄せる。
「特設戦闘科? さっきの説明では、そんな科はなかったぞ……いやまて、新入生の募集を停止している科があるといっていたな」
ミオが護衛男から受けた説明を思い出すや、当の護衛男が、無表情で前に出てくる。
「左様です。特設戦闘科は、三年前のあの事件後に、臨時で設けられた科でございますから」
「三年前の、あの事件、だと?」
この世界についてほとんど知識のないミオが問うと、護衛男は無表情のまま説明を始める。
「ご存ではありませんか。王国軍対妖魔部隊の正規隊員に三百人、補助部隊に二千人もの人的損害を出し、壊滅した事件です。世間的にはレドックス山事件と呼ばれております」
護衛男の声には、恐れと嫌悪の響きがあった。
「対妖魔部隊にとって、三百の損害は大きいのか?」
「それはもう。当時の王国軍対妖魔部隊の正規隊員は、千人程度でした。その上、王府や地方にも散らばっていましたから」
「補助部隊とはなんだ?」
「簡単に言えば後方支援部隊です。隊員は二種類で、魔法力のある一級補助隊員と、魔法力がほぼない二級補助隊員に分かれます。一級補助隊員は、戦闘向きでない者は、能力向上や低下魔法、治療魔法、通信魔法で正規部隊に貢献します。二級補助隊員は、物資の輸送や管理、防御施設や宿舎の建築設営はもちろん、家畜の世話や、馬車の整備、食事の提供や掃除洗濯などなど、あらゆる雑務を担います。ちなみに、事件当時の補助部隊の総員は一万人でした。つまり、レドックス山事件では、妖魔討伐隊の約三分の一にあたる人員が失われたのです」
護衛男は、丁寧に教えてくれた。
いいやつだ。
「町民も農民はもちろん、野蛮な高地人とて知っている事件だぞ。小娘はなにも知らぬのだな」
校長がまぜっかえす。
ミオは即座に反撃する。
「知らぬなら学ぶなり、聞くなりすればよいことだ。知らぬことを恥とは思わん。俺は自分が全能の神ではないと知っているのでな」
「本当に、口の減らぬ小娘だな」
「校長殿にお褒めにあずかり、光栄だな。で、そのレドックス山事件と、特設戦闘科とやらは、どう関係するのだ?」
校長の嫌味を軽く受け流し、ミオは執事に疑問を呈した。
護衛男は説明を続ける。
「特設戦闘科は、その名の通り〝特別に設けられた戦闘要員を要請する科〟として誕生いたしました。つまり――」
「なるほどな。減少した戦闘要員を確保しようというわけだ」
「そういうことだ。対妖魔部隊は、事件の前から人手不足だったからな。特に戦闘要員は、いくらいても足らんのだ。特設戦闘科の在校生は、授業の一環として、対妖魔部隊に協力している。近隣に現れる妖魔を相手に、治安戦を実施しておるぞ。つまり……」
校長の解説を、ミオが引き継ぐ。
「戦闘が授業に含まれていて、妖魔との戦闘で単位が取れるわけか。良いな」
「で、あろう。それ、転科許可証だ。書いておいてやったぞ」
納得し関心もするミオに、校長が書類を差し出した。
護衛男が説明している間に、机から書類を取り出し、校長は署名を済ませていた。
ミオに差し出された書類の上部には、〝転科届〟と黒いインクで書かれており、下段には、転科の許可を示す校長の名――オスカ・ノ・グリンヒル――が署名されており、さらに下には、下線が引かれた空欄があった。
「ここに署名しろと」
「そうだ。特設戦闘科は、お前の望む、妖魔と最短で戦える科だぞ。嬉しいだろう」
校長は顎を上げて、口だけの笑顔を作った。
「ああ、嬉しい限りだ」
ミオも笑顔で応えた。
表情も言葉のトーンも好戦的だった。
「ならば、さっさと署名するがいい」
校長自ら硬筆を差し出す。
ミオは無言で受け取り、転科届に向かう。署名欄に筆を走らせるようとして、手を止めた。
「どうした、臆したか」
校長の挑発的な言葉を無視して、ミオは笑みを不的なものに変化させる。
「馬鹿を言うな、確認しておこうと思ってな」
「いまさら何を確認しようというのだ。ミオ・オスロン」
「特設戦闘科とやらは、ロクデナシの集まりで、教育もまともにしない最低な場所だろってことをだ」
ミオは、校長よりも大げさに、挑発的な笑みを作っていた。
「特設戦闘科? さっきの説明では、そんな科はなかったぞ……いやまて、新入生の募集を停止している科があるといっていたな」
ミオが護衛男から受けた説明を思い出すや、当の護衛男が、無表情で前に出てくる。
「左様です。特設戦闘科は、三年前のあの事件後に、臨時で設けられた科でございますから」
「三年前の、あの事件、だと?」
この世界についてほとんど知識のないミオが問うと、護衛男は無表情のまま説明を始める。
「ご存ではありませんか。王国軍対妖魔部隊の正規隊員に三百人、補助部隊に二千人もの人的損害を出し、壊滅した事件です。世間的にはレドックス山事件と呼ばれております」
護衛男の声には、恐れと嫌悪の響きがあった。
「対妖魔部隊にとって、三百の損害は大きいのか?」
「それはもう。当時の王国軍対妖魔部隊の正規隊員は、千人程度でした。その上、王府や地方にも散らばっていましたから」
「補助部隊とはなんだ?」
「簡単に言えば後方支援部隊です。隊員は二種類で、魔法力のある一級補助隊員と、魔法力がほぼない二級補助隊員に分かれます。一級補助隊員は、戦闘向きでない者は、能力向上や低下魔法、治療魔法、通信魔法で正規部隊に貢献します。二級補助隊員は、物資の輸送や管理、防御施設や宿舎の建築設営はもちろん、家畜の世話や、馬車の整備、食事の提供や掃除洗濯などなど、あらゆる雑務を担います。ちなみに、事件当時の補助部隊の総員は一万人でした。つまり、レドックス山事件では、妖魔討伐隊の約三分の一にあたる人員が失われたのです」
護衛男は、丁寧に教えてくれた。
いいやつだ。
「町民も農民はもちろん、野蛮な高地人とて知っている事件だぞ。小娘はなにも知らぬのだな」
校長がまぜっかえす。
ミオは即座に反撃する。
「知らぬなら学ぶなり、聞くなりすればよいことだ。知らぬことを恥とは思わん。俺は自分が全能の神ではないと知っているのでな」
「本当に、口の減らぬ小娘だな」
「校長殿にお褒めにあずかり、光栄だな。で、そのレドックス山事件と、特設戦闘科とやらは、どう関係するのだ?」
校長の嫌味を軽く受け流し、ミオは執事に疑問を呈した。
護衛男は説明を続ける。
「特設戦闘科は、その名の通り〝特別に設けられた戦闘要員を要請する科〟として誕生いたしました。つまり――」
「なるほどな。減少した戦闘要員を確保しようというわけだ」
「そういうことだ。対妖魔部隊は、事件の前から人手不足だったからな。特に戦闘要員は、いくらいても足らんのだ。特設戦闘科の在校生は、授業の一環として、対妖魔部隊に協力している。近隣に現れる妖魔を相手に、治安戦を実施しておるぞ。つまり……」
校長の解説を、ミオが引き継ぐ。
「戦闘が授業に含まれていて、妖魔との戦闘で単位が取れるわけか。良いな」
「で、あろう。それ、転科許可証だ。書いておいてやったぞ」
納得し関心もするミオに、校長が書類を差し出した。
護衛男が説明している間に、机から書類を取り出し、校長は署名を済ませていた。
ミオに差し出された書類の上部には、〝転科届〟と黒いインクで書かれており、下段には、転科の許可を示す校長の名――オスカ・ノ・グリンヒル――が署名されており、さらに下には、下線が引かれた空欄があった。
「ここに署名しろと」
「そうだ。特設戦闘科は、お前の望む、妖魔と最短で戦える科だぞ。嬉しいだろう」
校長は顎を上げて、口だけの笑顔を作った。
「ああ、嬉しい限りだ」
ミオも笑顔で応えた。
表情も言葉のトーンも好戦的だった。
「ならば、さっさと署名するがいい」
校長自ら硬筆を差し出す。
ミオは無言で受け取り、転科届に向かう。署名欄に筆を走らせるようとして、手を止めた。
「どうした、臆したか」
校長の挑発的な言葉を無視して、ミオは笑みを不的なものに変化させる。
「馬鹿を言うな、確認しておこうと思ってな」
「いまさら何を確認しようというのだ。ミオ・オスロン」
「特設戦闘科とやらは、ロクデナシの集まりで、教育もまともにしない最低な場所だろってことをだ」
ミオは、校長よりも大げさに、挑発的な笑みを作っていた。
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