20 / 41
20:特設
しおりを挟む
ミオの酷いい悪罵を聞くや、叱られてから大人しくしていた護衛女ことアガサ・ノ・ハインリーチが、反射的に抗議の声を上げる。
「貴様! 魔法支援科を馬鹿にするか!」
「ミオ・オスロン、今の言葉、校長として聞き捨てならんぞ」
校長も重々しい声で続いた。
どうやら言葉の選択を違えたらしいと、ミオはようやく気が付いた。
トラブルが好きなわけではないので、ミオは誤解を解こうとする。
「なにか、いけなかったか? つまり、失礼を働いたとか」
訳が分からないとばかりにに首をかしげるミオのせいで、場の空気は再び冷たく重くなった。
頭が悪いわけでもないのに、ミオは時折、人の機微に鈍くなることがあった。
「失礼どころの話ではあるまい。支援科について、何と言ったか思い返してみろ」
校長に言われて、ミオは先ほど自身がした発言を思い返す。
「確か……前に出て戦うのではないのだな。他人を盾にして、自身は後ろに隠れるような女子供や役立たずの臆病者がやる仕事に就くために、支援学科とやらに入るのか? っだったかな」
「内容に一部悪化が見えるが、おおむねその通りだ。生徒ミオ・オスロン。明らかに支援科を侮辱しておるではないか!」
校長は、平手で机を叩いた。
重厚な作りの机は、校長の大きな手の平を迎え撃って、大きな衝突音を奏でた。
並みの十代の小娘ならすくみ上るところだ。
が、ミオは前世で、生まれる時代を間違えたとしか思えないような武術家たちと、素手素面の上、木剣などを用いて、怪我や死と隣り合わせの野試合を繰り広げてきていた。
人生の最後には、文字通りの真剣勝負を行ったことさえあった。
校長程度の迫力なら、問題なく受け止められた。
とはいえ、魔法学校への入校は納得している。睨み合ってもしょうがないので、ミオは、大人の態度を示すことにした。
「侮辱したつもりはないぞ」
「なにをいうか! 貴様も女性で子供のくせに、バカにした発言をしていただろう! 他人を盾にするとか、後ろに隠れるような役立たずの臆病者などと言っていたではないか! どこが侮辱でないというのか」
校長の至極まっとうな批判に、ミオは反駁する。
「後方支援と言えば聞こえはいいが、結局他人を前に押しやって、自身は安全な後方にいるのではないか。事実を言ったまでのことだ。それに、俺は役に立つ女で子供なのだ。ただの女子供ではない」
「何をぬかすか! 世間知らずの小娘め! 支援なくして、妖魔と戦う方法などないぞ!」
「世間は知らないのかもしれないが、俺は戦い方は知っている。妖魔など、俺一人で皆殺しにしてくれよう」
ミオは蛮族の戦士のようなセリフを口にした。
本気の言葉だった。
悪い意味でミオの心意気だけ伝わったようで、校長はさらに激昂する。
「やれるものか!」
「やらせてみろ。俺を最前線に出せ」
「対妖魔戦部隊には、魔法学校魔法学部を卒業した者か、特別に推薦のあった者しか配属されないのだ!」
「権限があるのなら、俺を推薦しろ」
「権限はあるが、誰がするものか、小娘!」
厳ついおじいちゃんと、生意気な少女との罵り合いは、真実不毛な時間であり、護衛男、メイドたちを疲弊させた。
涼しい顔をしながらも、周囲の者たちは、戦える姿勢は崩してはいなかった。大した忍耐力と言えた。
アガサは首を巡らせて、ミオと校長の口論に割って入る隙を窺っているが、早口についていけないでいた。
口論は続き、傍観者たちが三十分ほど待つことに耐えぬいたところで、校長は荒い息を吐いた。
「よかろう。そこまで言うのなら、魔法学園で学びながら、前線に行けるようにしてやる」
「推薦してくれるのか」
「誰がするか! 対妖魔部隊んはいらなくても、妖魔と戦う方法があるのだ」
校長は笑った。
ギラつく瞳には、明確に悪意があった。
「閣下まさか」
「あの科は危険です」
護衛男とアガサが校長に驚愕の声を上げ、メイドたちも目を見張った。
緊迫する空気を無視して、ミオは腕を組む。
「ほう、どうするつもりだ。言ってみろ」
「特設戦闘科へ編入させてやる」
ミオを睨みつけながら、校長は笑みを深くした。
マヌケな獲物を前にした、獣のような笑みだった。
「貴様! 魔法支援科を馬鹿にするか!」
「ミオ・オスロン、今の言葉、校長として聞き捨てならんぞ」
校長も重々しい声で続いた。
どうやら言葉の選択を違えたらしいと、ミオはようやく気が付いた。
トラブルが好きなわけではないので、ミオは誤解を解こうとする。
「なにか、いけなかったか? つまり、失礼を働いたとか」
訳が分からないとばかりにに首をかしげるミオのせいで、場の空気は再び冷たく重くなった。
頭が悪いわけでもないのに、ミオは時折、人の機微に鈍くなることがあった。
「失礼どころの話ではあるまい。支援科について、何と言ったか思い返してみろ」
校長に言われて、ミオは先ほど自身がした発言を思い返す。
「確か……前に出て戦うのではないのだな。他人を盾にして、自身は後ろに隠れるような女子供や役立たずの臆病者がやる仕事に就くために、支援学科とやらに入るのか? っだったかな」
「内容に一部悪化が見えるが、おおむねその通りだ。生徒ミオ・オスロン。明らかに支援科を侮辱しておるではないか!」
校長は、平手で机を叩いた。
重厚な作りの机は、校長の大きな手の平を迎え撃って、大きな衝突音を奏でた。
並みの十代の小娘ならすくみ上るところだ。
が、ミオは前世で、生まれる時代を間違えたとしか思えないような武術家たちと、素手素面の上、木剣などを用いて、怪我や死と隣り合わせの野試合を繰り広げてきていた。
人生の最後には、文字通りの真剣勝負を行ったことさえあった。
校長程度の迫力なら、問題なく受け止められた。
とはいえ、魔法学校への入校は納得している。睨み合ってもしょうがないので、ミオは、大人の態度を示すことにした。
「侮辱したつもりはないぞ」
「なにをいうか! 貴様も女性で子供のくせに、バカにした発言をしていただろう! 他人を盾にするとか、後ろに隠れるような役立たずの臆病者などと言っていたではないか! どこが侮辱でないというのか」
校長の至極まっとうな批判に、ミオは反駁する。
「後方支援と言えば聞こえはいいが、結局他人を前に押しやって、自身は安全な後方にいるのではないか。事実を言ったまでのことだ。それに、俺は役に立つ女で子供なのだ。ただの女子供ではない」
「何をぬかすか! 世間知らずの小娘め! 支援なくして、妖魔と戦う方法などないぞ!」
「世間は知らないのかもしれないが、俺は戦い方は知っている。妖魔など、俺一人で皆殺しにしてくれよう」
ミオは蛮族の戦士のようなセリフを口にした。
本気の言葉だった。
悪い意味でミオの心意気だけ伝わったようで、校長はさらに激昂する。
「やれるものか!」
「やらせてみろ。俺を最前線に出せ」
「対妖魔戦部隊には、魔法学校魔法学部を卒業した者か、特別に推薦のあった者しか配属されないのだ!」
「権限があるのなら、俺を推薦しろ」
「権限はあるが、誰がするものか、小娘!」
厳ついおじいちゃんと、生意気な少女との罵り合いは、真実不毛な時間であり、護衛男、メイドたちを疲弊させた。
涼しい顔をしながらも、周囲の者たちは、戦える姿勢は崩してはいなかった。大した忍耐力と言えた。
アガサは首を巡らせて、ミオと校長の口論に割って入る隙を窺っているが、早口についていけないでいた。
口論は続き、傍観者たちが三十分ほど待つことに耐えぬいたところで、校長は荒い息を吐いた。
「よかろう。そこまで言うのなら、魔法学園で学びながら、前線に行けるようにしてやる」
「推薦してくれるのか」
「誰がするか! 対妖魔部隊んはいらなくても、妖魔と戦う方法があるのだ」
校長は笑った。
ギラつく瞳には、明確に悪意があった。
「閣下まさか」
「あの科は危険です」
護衛男とアガサが校長に驚愕の声を上げ、メイドたちも目を見張った。
緊迫する空気を無視して、ミオは腕を組む。
「ほう、どうするつもりだ。言ってみろ」
「特設戦闘科へ編入させてやる」
ミオを睨みつけながら、校長は笑みを深くした。
マヌケな獲物を前にした、獣のような笑みだった。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!


玲子さんは自重しない~これもある種の異世界転生~
やみのよからす
ファンタジー
病院で病死したはずの月島玲子二十五歳大学研究職。目を覚ますと、そこに広がるは広大な森林原野、後ろに控えるは赤いドラゴン(ニヤニヤ)、そんな自分は十歳の体に(材料が足りませんでした?!)。
時は、自分が死んでからなんと三千万年。舞台は太陽系から離れて二百二十五光年の一惑星。新しく作られた超科学なミラクルボディーに生前の記憶を再生され、地球で言うところの中世後半くらいの王国で生きていくことになりました。
べつに、言ってはいけないこと、やってはいけないことは決まっていません。ドラゴンからは、好きに生きて良いよとお墨付き。実現するのは、はたは理想の社会かデストピアか?。
月島玲子、自重はしません!。…とは思いつつ、小市民な私では、そんな世界でも暮らしていく内に周囲にいろいろ絆されていくわけで。スーパー玲子の明日はどっちだ?
カクヨムにて一週間ほど先行投稿しています。
書き溜めは100話越えてます…

婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。

目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。
卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。
理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。
…と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。
全二話で完結します、予約投稿済み

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる