決闘で死んだ俺が凶悪なロリ令嬢として転生してしまったので、二度と負けないために最強を目指して妖魔との戦いに身を投じることにした

呉万層

文字の大きさ
上 下
19 / 41

19:言い方

しおりを挟む
 期せずして声が重なり、ミオと校長は顔を合わせる。



「「ん?」」



 ミオと校長は、互いに気の抜けた表情を一瞬浮かべ、気まずさをかくして目線を交差させた。



 護衛男が一人、すまし顔をする中、護衛女とメイドたちは、校長の態度に目を見張った。



 緊張と弛緩と驚きに、座りの悪い雰囲気が加わり、名状し難い空気が流れ。そんな中、護衛女が重ねて口を挟む。



「愚かとはいったいどういう意味だ! いや、ですか?」



 護衛女は、ミオをねめつけている時は高慢に、校長が生意気な少女と同じ言葉を放ったことに気が付いてからは、やや丁寧に、質問をぶつけた。



「「知れたこと」」



「「ん?」」



 護衛女に対する水戸と校長の回答は、またもやハモった。



 ミオと校長の視線が交差し、互いに同じ思考をしていると、理解した。



 最初に動いたのは、ミオだった。



「譲ろう」



「うむ」



 年長者――あるいは他者――に対する最低限度の敬意をミオが示してやると、校長は当然のような顔をして受け入れた。



 校長は護衛女に向き直る。表情には怒りと部熱の色があった。



「お前がなぜ愚かなのか、教えてやろう」



「は!」



 厳しい教師から怒られるとわかってはいるが、今更逃げられなくなった生徒のような顔をして、護衛女は腰を折った。



「簡単なことだ。アガサ・ノ・ハインリーチ、お前は一対一で負けた。それも少女、いや、幼女と表現してもいいような小さな子供に、たやすく得物を飛ばされて、だ。この時点で無様極まるというのに、次は油断せぬなどと、バカげたたわごとを加えおった。なんたる不見識、戦いに次などあるものか! 武門の家がきいて呆れる」



 校長は、護衛女の放った言葉の問題を指摘しつつ、罵倒して見せた。



 立て板に水とばかりに展開された校長の口撃は、ミオを感心させると同時に、言うべき言葉も奪ってもいた。



「うむ」



 全ての言い分を、校長に言われてしまったミオは、胸を張って頷くしかなかった。



「……もうしわけございませんでした」



 意外にも、いきり立っていた護衛女ことアガサ・ノ・ハインリーチは、素直に頭を下げた。



 先ほどアガサの発言を思い出す。校長は貴族の偉いさんのようなので、正論で怒られれば逆らえないのだろう。



 その分、頭を下げたままミオを睨みつけるアガサの目は、親の仇を見ているかのような、憎々しいものとなっていた。



「ミオ・オスロン。我が部下を許して欲しい」



「許そう」



 ミオは校長の要請を、端的な言葉で受けてやった。。


 
 校長は、相変わらず胸を逸らしているが、偉いさんとはそういうものだと、ミオは納得していた。それに、校長の堂々とした態度は気に入っていた。



 男は、こうでなくてはならない。屋敷で会ったハイテとかいう優男のようではな、いけないのだ。



「でだ、オスロン嬢の実力と精神について、充分な知見を得た。魔法の才能については、未知数だが、魔法学校へ入学を希望してもらえるか」



 校長は、相変わらず頭を下げる気配はない。貴族は、上位者二しか頭を下げない。自身より爵位の低いものに対しては、悪いことをしてさえ頭を下げない。第一、男なら簡単に頭は下げないものだ。



 自分で頭を下げることを要求しておきながら、ミオは勝手に納得していた。



 校長の巌のような視線を受け止めつつ、ミオは答える。



「希望しよう」



「希望を受け入れよう」



 そういうことになった。



「では、こちらへ署名をお願いいたします」



 刺突剣を鞘に納めた護衛男が、書類と筆を差し出してきた。



「よかろう」



 ミオは、書類を一読もせずに署名し、執事に差し出す。書類を恭しく受け取った護衛男が、涼し気な顔に、僅かな困惑を張り付けて、署名欄を指し示す。



「あの、この文字? いや、記号はなんでしょうか」



「む、すまん。つい癖でな」



 ミオは、漢字で〝山田剛太郎〟と書かれた部分を射線で消し、ミオ・オスロンと書き直した。



 カタカナでもアルファベットでもない文字を、ミオは書けていた。



 何が起こったのか、ミオには理解できなかった。



 恐らくこの世界の文字だろうが、この世界に来てまだ三日と経っていないミオに、習った記憶はない。にもかかわらず、当たり前の用に書けてしまった。



 流石のミオも、首を傾げた。



 護衛男が気を配る。



「どうかされましたか? お加減が悪うございますか」



「いや、大事ない」 



 奇妙だとは思ったが、便利なのでよいかと、ミオは受け入れた。



 ミオは、山田剛太郎だったころから、思い切りが良かった。



 悩んだり考えたりして、問題が解けるのなら、悩みも考えもしよう。解決に寄与しないのであれば、悩むも考えるも時間の無駄だ。
 悩みを放棄してしまったほうが、合理的なバイは多いのだ。
 悩むことで賢さが手に入ると思い込んでいるマヌケとは違う。俺は冷静なのだと、ミオは自賛するのだった。



 ミオが自身の判断を自賛していると、署名を確認した校長は、大きく頷いた。



「では、校長たる魔法学部支援魔法科への入学を許可する」



「魔法学部? 支援? なんのことだ?」



 ミオは、そう言えば学校には学部なり学科なりがあったなと、今になってようやく気が付いた。



「はい、魔法学校は、魔法、護衛、栽培、採掘・加工の五学部があり、オスロン様の入部先である魔法学部は、戦闘、召喚、療法、支援、移動、通信、芸術の七つの科に分かれています。それと、もう一つ科はありますが、現在募集を停止しております。支援魔法科は、その名の通り戦闘における支援魔法を学ぶ学科です。主に、味方の能力向上と、敵の能力低下にかかわる魔法習得を主眼としております。定数が少ないので、卒業生は近衛軍、王国軍、地方軍、どこの軍からも引っ張りだこですよ」



 魔法学校の制度について、ミオが無知だと察したか、あるいは元々親切な質なのか、護衛男が説明を始めてくれた。



「説明感謝する。つまり俺は、前に出て戦うのではないのだな。他人を盾にして、自身は後ろに隠れるような臆病者がやる仕事に就くために、支援科とやらに入るのか?」



 ミオのあまりにも酷い言い草に、場の空気は凍り付いた。 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

処理中です...