決闘で死んだ俺が凶悪なロリ令嬢として転生してしまったので、二度と負けないために最強を目指して妖魔との戦いに身を投じることにした

呉万層

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19:言い方

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 期せずして声が重なり、ミオと校長は顔を合わせる。



「「ん?」」



 ミオと校長は、互いに気の抜けた表情を一瞬浮かべ、気まずさをかくして目線を交差させた。



 護衛男が一人、すまし顔をする中、護衛女とメイドたちは、校長の態度に目を見張った。



 緊張と弛緩と驚きに、座りの悪い雰囲気が加わり、名状し難い空気が流れ。そんな中、護衛女が重ねて口を挟む。



「愚かとはいったいどういう意味だ! いや、ですか?」



 護衛女は、ミオをねめつけている時は高慢に、校長が生意気な少女と同じ言葉を放ったことに気が付いてからは、やや丁寧に、質問をぶつけた。



「「知れたこと」」



「「ん?」」



 護衛女に対する水戸と校長の回答は、またもやハモった。



 ミオと校長の視線が交差し、互いに同じ思考をしていると、理解した。



 最初に動いたのは、ミオだった。



「譲ろう」



「うむ」



 年長者――あるいは他者――に対する最低限度の敬意をミオが示してやると、校長は当然のような顔をして受け入れた。



 校長は護衛女に向き直る。表情には怒りと部熱の色があった。



「お前がなぜ愚かなのか、教えてやろう」



「は!」



 厳しい教師から怒られるとわかってはいるが、今更逃げられなくなった生徒のような顔をして、護衛女は腰を折った。



「簡単なことだ。アガサ・ノ・ハインリーチ、お前は一対一で負けた。それも少女、いや、幼女と表現してもいいような小さな子供に、たやすく得物を飛ばされて、だ。この時点で無様極まるというのに、次は油断せぬなどと、バカげたたわごとを加えおった。なんたる不見識、戦いに次などあるものか! 武門の家がきいて呆れる」



 校長は、護衛女の放った言葉の問題を指摘しつつ、罵倒して見せた。



 立て板に水とばかりに展開された校長の口撃は、ミオを感心させると同時に、言うべき言葉も奪ってもいた。



「うむ」



 全ての言い分を、校長に言われてしまったミオは、胸を張って頷くしかなかった。



「……もうしわけございませんでした」



 意外にも、いきり立っていた護衛女ことアガサ・ノ・ハインリーチは、素直に頭を下げた。



 先ほどアガサの発言を思い出す。校長は貴族の偉いさんのようなので、正論で怒られれば逆らえないのだろう。



 その分、頭を下げたままミオを睨みつけるアガサの目は、親の仇を見ているかのような、憎々しいものとなっていた。



「ミオ・オスロン。我が部下を許して欲しい」



「許そう」



 ミオは校長の要請を、端的な言葉で受けてやった。。


 
 校長は、相変わらず胸を逸らしているが、偉いさんとはそういうものだと、ミオは納得していた。それに、校長の堂々とした態度は気に入っていた。



 男は、こうでなくてはならない。屋敷で会ったハイテとかいう優男のようではな、いけないのだ。



「でだ、オスロン嬢の実力と精神について、充分な知見を得た。魔法の才能については、未知数だが、魔法学校へ入学を希望してもらえるか」



 校長は、相変わらず頭を下げる気配はない。貴族は、上位者二しか頭を下げない。自身より爵位の低いものに対しては、悪いことをしてさえ頭を下げない。第一、男なら簡単に頭は下げないものだ。



 自分で頭を下げることを要求しておきながら、ミオは勝手に納得していた。



 校長の巌のような視線を受け止めつつ、ミオは答える。



「希望しよう」



「希望を受け入れよう」



 そういうことになった。



「では、こちらへ署名をお願いいたします」



 刺突剣を鞘に納めた護衛男が、書類と筆を差し出してきた。



「よかろう」



 ミオは、書類を一読もせずに署名し、執事に差し出す。書類を恭しく受け取った護衛男が、涼し気な顔に、僅かな困惑を張り付けて、署名欄を指し示す。



「あの、この文字? いや、記号はなんでしょうか」



「む、すまん。つい癖でな」



 ミオは、漢字で〝山田剛太郎〟と書かれた部分を射線で消し、ミオ・オスロンと書き直した。



 カタカナでもアルファベットでもない文字を、ミオは書けていた。



 何が起こったのか、ミオには理解できなかった。



 恐らくこの世界の文字だろうが、この世界に来てまだ三日と経っていないミオに、習った記憶はない。にもかかわらず、当たり前の用に書けてしまった。



 流石のミオも、首を傾げた。



 護衛男が気を配る。



「どうかされましたか? お加減が悪うございますか」



「いや、大事ない」 



 奇妙だとは思ったが、便利なのでよいかと、ミオは受け入れた。



 ミオは、山田剛太郎だったころから、思い切りが良かった。



 悩んだり考えたりして、問題が解けるのなら、悩みも考えもしよう。解決に寄与しないのであれば、悩むも考えるも時間の無駄だ。
 悩みを放棄してしまったほうが、合理的なバイは多いのだ。
 悩むことで賢さが手に入ると思い込んでいるマヌケとは違う。俺は冷静なのだと、ミオは自賛するのだった。



 ミオが自身の判断を自賛していると、署名を確認した校長は、大きく頷いた。



「では、校長たる魔法学部支援魔法科への入学を許可する」



「魔法学部? 支援? なんのことだ?」



 ミオは、そう言えば学校には学部なり学科なりがあったなと、今になってようやく気が付いた。



「はい、魔法学校は、魔法、護衛、栽培、採掘・加工の五学部があり、オスロン様の入部先である魔法学部は、戦闘、召喚、療法、支援、移動、通信、芸術の七つの科に分かれています。それと、もう一つ科はありますが、現在募集を停止しております。支援魔法科は、その名の通り戦闘における支援魔法を学ぶ学科です。主に、味方の能力向上と、敵の能力低下にかかわる魔法習得を主眼としております。定数が少ないので、卒業生は近衛軍、王国軍、地方軍、どこの軍からも引っ張りだこですよ」



 魔法学校の制度について、ミオが無知だと察したか、あるいは元々親切な質なのか、護衛男が説明を始めてくれた。



「説明感謝する。つまり俺は、前に出て戦うのではないのだな。他人を盾にして、自身は後ろに隠れるような臆病者がやる仕事に就くために、支援科とやらに入るのか?」



 ミオのあまりにも酷い言い草に、場の空気は凍り付いた。 

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