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15:逆の力

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 初めての経験(介錯)に心躍らせるミオを、ハイテが悲鳴のようなーーあるいは悲鳴そのものの――声で制止する。



「介錯から離れろ! そのステッキは呪いをまき散らし、肉を腐らせ、骨を溶かす。だが同時に、呪いを解き、腐敗した肉や溶かした骨を癒す力もあるのだ。ステッキを使って小腐鬼たちを腐れさせた今のキミなら、逆に癒す力を発揮できるはずだ」



 腐敗が広がる中、ハイテは必死に説明した。



「なんと! そのような技能がステッキにあったのか。早く言ってくれればよかったのに」



 ミオが報連相について教えようとするが、その前にハイテが口を挟む。



「キミが言わせなかったのだ! 早めに頼む。そろそろ腐敗が胴体部へ及びそうだ」



 軍服で見えない部分も、腐敗部分からシミだ出した汁によって黄色く変色している。腐敗は、腕の付け根にまで到達していた。
 甘ったるい腐臭は、強くなっていた。



「やってみよう」



 ミオは、力強く頷いた。



 体が小さいので、頼もしさよりも少女の可愛らしさが勝ってはいたが、ミオはいたって真剣だった。



 で、これからどうするべきだろうか? 


 
 ミオは、改めてステッキを眺める。漆黒のドクロと目が合う。黒光りするドクロは、生命を破壊し蝕む、禍々しさに溢れていた。



 ハイテ曰く、ステッキをには癒す力があるそうだが、どうにも信じられなかった。



 とはいえ、時間がないので迷ってもいられない。こういった時は思考よりも行動を優先させるミオは、とりあえずステッキに意識を集中させてみた。



 すると、自然と腕が、いや、ステッキが動きだした。



 主人と違って、ステッキは自らが成すべき仕事を理解しているようだ。



 ミオはステッキに身を任せる。すると、ステッキは自然と円を描いて、頭上で一度止まった。次に、親指を支点にして、掌中で軽やかに回転した。



 ステッキが纏っていた黒い気は徐々に薄まり、変わって白い光を放ち始めた。



「力を貸してあげましょう」



 ミオが光を注視していると、脳内に言葉が響いてきた。



 妙に色気のある、端的に言えば若いイケメンな声だった。



「誰だか知らぬが、よかろう。俺に力を貸してみせろ」



「よいでしょう。さあ、心のままに動くのです」



 魅力的というより蠱惑的な男の声を聞くや、ミオは深く息を吸い、肺に酸素を取り込んだ。



「癒せ!」



 白い光をステッキから放ちながら、ミオは腹からの大きな声を、自然と出していた。



 白熱灯のような強い光はがハイテに降り注ぐ。ハイテのピンク色となっていた肌と肉は、あっという間もなく元の健康な状態に戻った。



 ハイテの変色した皮膚や筋肉が、急激に回復した様子は、グロテスクな光景だった。
 ビデオの巻き戻しのようだなと、ミオに故郷・日本を思い出させた。



 初めて録画した映画はなんだったろうか?



「頼んでおいて言うことではないかもしれないが、一発で成功とは、凄いなキミは」



「知っている。俺は大したやつ、だ」



 傲然と薄い胸を張るミオだったが、気が付けば、両ヒザを絨毯の上についていた。



 乏しい握力がゼロとなり、ステッキが手から零れ落ちた。



「どうしたことだ? 力が抜けていく」



 戸惑うミオに、ハイテの冷静な声が投げかけられる。



「活動限界だろうね。キミは動きすぎた」



「このステッキを、使ったせいか? そもそも活動限界などというものが、あるのか?」



「便利なだけのものなど、この世に存在しない。補足すると、ステッキの持つ力には、まだまだ余裕があるぞ」



「なに? と、いうことは」



 ミオは、絨毯の上で転がるステッキに視線を向けた。



 ステッキにまったく損傷はなかった。
 あいも変わらず、執念深い怨霊のように、黒いオーラを周囲に放っていた。



 俺が原因か。ミオは、自らの非力さを、今更ながら切実に思い知った。



「理解できたようだね。キミは未熟で貧弱だ。魔法学校へきたまえ。鍛えられるぞ……この辺りが限度か」



 ハイテからの説教を受けながら、ミオの意識は闇に落ちた。

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