15 / 41
15:逆の力
しおりを挟む
初めての経験(介錯)に心躍らせるミオを、ハイテが悲鳴のようなーーあるいは悲鳴そのものの――声で制止する。
「介錯から離れろ! そのステッキは呪いをまき散らし、肉を腐らせ、骨を溶かす。だが同時に、呪いを解き、腐敗した肉や溶かした骨を癒す力もあるのだ。ステッキを使って小腐鬼たちを腐れさせた今のキミなら、逆に癒す力を発揮できるはずだ」
腐敗が広がる中、ハイテは必死に説明した。
「なんと! そのような技能がステッキにあったのか。早く言ってくれればよかったのに」
ミオが報連相について教えようとするが、その前にハイテが口を挟む。
「キミが言わせなかったのだ! 早めに頼む。そろそろ腐敗が胴体部へ及びそうだ」
軍服で見えない部分も、腐敗部分からシミだ出した汁によって黄色く変色している。腐敗は、腕の付け根にまで到達していた。
甘ったるい腐臭は、強くなっていた。
「やってみよう」
ミオは、力強く頷いた。
体が小さいので、頼もしさよりも少女の可愛らしさが勝ってはいたが、ミオはいたって真剣だった。
で、これからどうするべきだろうか?
ミオは、改めてステッキを眺める。漆黒のドクロと目が合う。黒光りするドクロは、生命を破壊し蝕む、禍々しさに溢れていた。
ハイテ曰く、ステッキをには癒す力があるそうだが、どうにも信じられなかった。
とはいえ、時間がないので迷ってもいられない。こういった時は思考よりも行動を優先させるミオは、とりあえずステッキに意識を集中させてみた。
すると、自然と腕が、いや、ステッキが動きだした。
主人と違って、ステッキは自らが成すべき仕事を理解しているようだ。
ミオはステッキに身を任せる。すると、ステッキは自然と円を描いて、頭上で一度止まった。次に、親指を支点にして、掌中で軽やかに回転した。
ステッキが纏っていた黒い気は徐々に薄まり、変わって白い光を放ち始めた。
「力を貸してあげましょう」
ミオが光を注視していると、脳内に言葉が響いてきた。
妙に色気のある、端的に言えば若いイケメンな声だった。
「誰だか知らぬが、よかろう。俺に力を貸してみせろ」
「よいでしょう。さあ、心のままに動くのです」
魅力的というより蠱惑的な男の声を聞くや、ミオは深く息を吸い、肺に酸素を取り込んだ。
「癒せ!」
白い光をステッキから放ちながら、ミオは腹からの大きな声を、自然と出していた。
白熱灯のような強い光はがハイテに降り注ぐ。ハイテのピンク色となっていた肌と肉は、あっという間もなく元の健康な状態に戻った。
ハイテの変色した皮膚や筋肉が、急激に回復した様子は、グロテスクな光景だった。
ビデオの巻き戻しのようだなと、ミオに故郷・日本を思い出させた。
初めて録画した映画はなんだったろうか?
「頼んでおいて言うことではないかもしれないが、一発で成功とは、凄いなキミは」
「知っている。俺は大したやつ、だ」
傲然と薄い胸を張るミオだったが、気が付けば、両ヒザを絨毯の上についていた。
乏しい握力がゼロとなり、ステッキが手から零れ落ちた。
「どうしたことだ? 力が抜けていく」
戸惑うミオに、ハイテの冷静な声が投げかけられる。
「活動限界だろうね。キミは動きすぎた」
「このステッキを、使ったせいか? そもそも活動限界などというものが、あるのか?」
「便利なだけのものなど、この世に存在しない。補足すると、ステッキの持つ力には、まだまだ余裕があるぞ」
「なに? と、いうことは」
ミオは、絨毯の上で転がるステッキに視線を向けた。
ステッキにまったく損傷はなかった。
あいも変わらず、執念深い怨霊のように、黒いオーラを周囲に放っていた。
俺が原因か。ミオは、自らの非力さを、今更ながら切実に思い知った。
「理解できたようだね。キミは未熟で貧弱だ。魔法学校へきたまえ。鍛えられるぞ……この辺りが限度か」
ハイテからの説教を受けながら、ミオの意識は闇に落ちた。
「介錯から離れろ! そのステッキは呪いをまき散らし、肉を腐らせ、骨を溶かす。だが同時に、呪いを解き、腐敗した肉や溶かした骨を癒す力もあるのだ。ステッキを使って小腐鬼たちを腐れさせた今のキミなら、逆に癒す力を発揮できるはずだ」
腐敗が広がる中、ハイテは必死に説明した。
「なんと! そのような技能がステッキにあったのか。早く言ってくれればよかったのに」
ミオが報連相について教えようとするが、その前にハイテが口を挟む。
「キミが言わせなかったのだ! 早めに頼む。そろそろ腐敗が胴体部へ及びそうだ」
軍服で見えない部分も、腐敗部分からシミだ出した汁によって黄色く変色している。腐敗は、腕の付け根にまで到達していた。
甘ったるい腐臭は、強くなっていた。
「やってみよう」
ミオは、力強く頷いた。
体が小さいので、頼もしさよりも少女の可愛らしさが勝ってはいたが、ミオはいたって真剣だった。
で、これからどうするべきだろうか?
ミオは、改めてステッキを眺める。漆黒のドクロと目が合う。黒光りするドクロは、生命を破壊し蝕む、禍々しさに溢れていた。
ハイテ曰く、ステッキをには癒す力があるそうだが、どうにも信じられなかった。
とはいえ、時間がないので迷ってもいられない。こういった時は思考よりも行動を優先させるミオは、とりあえずステッキに意識を集中させてみた。
すると、自然と腕が、いや、ステッキが動きだした。
主人と違って、ステッキは自らが成すべき仕事を理解しているようだ。
ミオはステッキに身を任せる。すると、ステッキは自然と円を描いて、頭上で一度止まった。次に、親指を支点にして、掌中で軽やかに回転した。
ステッキが纏っていた黒い気は徐々に薄まり、変わって白い光を放ち始めた。
「力を貸してあげましょう」
ミオが光を注視していると、脳内に言葉が響いてきた。
妙に色気のある、端的に言えば若いイケメンな声だった。
「誰だか知らぬが、よかろう。俺に力を貸してみせろ」
「よいでしょう。さあ、心のままに動くのです」
魅力的というより蠱惑的な男の声を聞くや、ミオは深く息を吸い、肺に酸素を取り込んだ。
「癒せ!」
白い光をステッキから放ちながら、ミオは腹からの大きな声を、自然と出していた。
白熱灯のような強い光はがハイテに降り注ぐ。ハイテのピンク色となっていた肌と肉は、あっという間もなく元の健康な状態に戻った。
ハイテの変色した皮膚や筋肉が、急激に回復した様子は、グロテスクな光景だった。
ビデオの巻き戻しのようだなと、ミオに故郷・日本を思い出させた。
初めて録画した映画はなんだったろうか?
「頼んでおいて言うことではないかもしれないが、一発で成功とは、凄いなキミは」
「知っている。俺は大したやつ、だ」
傲然と薄い胸を張るミオだったが、気が付けば、両ヒザを絨毯の上についていた。
乏しい握力がゼロとなり、ステッキが手から零れ落ちた。
「どうしたことだ? 力が抜けていく」
戸惑うミオに、ハイテの冷静な声が投げかけられる。
「活動限界だろうね。キミは動きすぎた」
「このステッキを、使ったせいか? そもそも活動限界などというものが、あるのか?」
「便利なだけのものなど、この世に存在しない。補足すると、ステッキの持つ力には、まだまだ余裕があるぞ」
「なに? と、いうことは」
ミオは、絨毯の上で転がるステッキに視線を向けた。
ステッキにまったく損傷はなかった。
あいも変わらず、執念深い怨霊のように、黒いオーラを周囲に放っていた。
俺が原因か。ミオは、自らの非力さを、今更ながら切実に思い知った。
「理解できたようだね。キミは未熟で貧弱だ。魔法学校へきたまえ。鍛えられるぞ……この辺りが限度か」
ハイテからの説教を受けながら、ミオの意識は闇に落ちた。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
異世界に転移したけどマジに言葉が通じずに詰んだので、山に籠ってたら知らんうちに山の神にされてた。
ラディ
ファンタジー
日本国内から国際線の旅客機に乗り込みたった数時間の空の旅で、言語はまるで変わってしまう。
たった数百や数千キロメートルの距離ですら、文法どころか文化も全く違ったりする。
ならば、こことは異なる世界ならどれだけ違うのか。
文法や文化、生態系すらも異なるその世界で意志を伝える為に言語を用いることは。
容易ではない。
■感想コメントなどはお気軽にどうぞ!
■お気に入り登録もお願いします!
■この他にもショート作品や長編作品を別で執筆中です。よろしければ登録コンテンツから是非に。
殺伐蛮姫と戦下手なイケメン達
博元 裕央
ファンタジー
乙女ゲー? 恋愛? 悪役令嬢? 逆ハーレム? チェスト異世界恋愛!
地球の歴史における中世と近世が混在するような、しかし同時に地球とは明確に異なる世界、スピオル(現地言語で「あまねく全て」の意)。
祖国を追われた亡国の姫君が異国に逃れ、そこで華やかな大貴族、秀麗な犯罪組織の長、慈悲深い宗教指導者、万能の天才、闘技場の花型と、様々な見目麗しい貴人と出会い、思いも依らぬ運命に巻き込まれていく……
そんな、乙女が好むよくある物語と見せかけて、だがしかし。
見目麗しき貴人達は、貴族も犯罪王も闘技者も、あくまで華麗で文明的だが戦弱き文化国家の住民で。
そして何より。
亡国の姫君は北方の野蛮な祖国で天下統一直前までいった荒々しい猛者、殺伐蛮姫だったのだ!
華やかで、地球のどっかの国で見たような文化的で戦に弱く女性に優しいおしゃれな国レーマリアと、これまた地球上の様々な猛々しく荒々しい国歌や民族の要素を一身に束ねたような恋愛物語に付き合うつもりのない野蛮な国から来た女主人公の「愛とは」「大切なものとは」を問う珍妙なる物語、ここに開幕!
注1.この物語に登場する異世界の国家や民族は地球の様々な国家や民族の歴史等に関するジョークや出来事と類似する要素がありますが、あくまで異世界の国家ですので「いや、あのネタは実際には史実のデータの統計から考えると正しくないよ」という指摘とは一切無縁かつ無関係でそういう国だから仕方ないという事をここで宣言させていただきます。
注2.この物語に登場する異世界のある言語は日本語の方言を思わせる形で描写されていますが、あくまでその言語の雰囲気を伝える為に近い表現をチョイスしているだけですので地球日本の特定の方言に忠実という訳では無く、誇張・簡略化・別方言の混合を含みます。ご了承下さい。また他の言語につきましても一部地球の言語のルビ等を当てたりしていますが、あくまで地球の相当する言語でこの世界はこの世界なので、地球でその単語に最も近い訳語を当てた結果複数の言語や時代が混在する場合もございます、これもご了承の上異世界の雰囲気をお楽しみいただければ幸いです。
【第二部連載開始】転生魔法少女のチート無双! キセキの力でSSS級ならず者チームを結成です?
音無やんぐ
ファンタジー
あなたの心に、魔法少女は届きますか?
星石と呼ばれる貴石に選ばれた者は、魔法の力を手にすることになる。
幼い頃魔法少女に救われ、魔法少女に憧れた女の子は、やがて自ら魔法少女となる。
少女のもとに集うのは、一騎当千、個性的な能力を持つ仲間たち。
そんな仲間と共に戦う少女の手にした力は、仲間――あらゆる人、生物、物体――の『潜在能力強化』。
仲間全員の力を爆発的に底上げするその魔法は、集団を率いてこそ真価を発揮する。
少女は、『ラスボス』にもたとえられて個人として無双。チームとして最強。
チート級の魔法少女たちは自由を駆け抜け、そしてやがて、『ならず者』を自認するにいたる。
魔法少女としての日常に幸せを感じる時、少女は少しだけ、少しだけ、なんだか星石にしてやられたと思うこともある。
そんな魔法少女たちに、あなたもしてやられてみませんか?
魔法少女たちが希い【ねがい】を叶える物語【ストーリー】
ご覧いただきありがとうございます。
【第二部 異世界編】連載開始しました。毎週一話ずつ、木曜日19時頃に公開させていただきたいと思います。
よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる