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14:介錯

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 小腐鬼の黒い短剣で斬りつけられたハイテの腕は、傷を起点として腐敗が進み、薄いピンク色が目に見えて広がっていく。すでに、甘い腐臭を放ち始めていた。


 進行度から考えて、腐敗が心臓に達するまで、二分とかかるまい。



「しくじってしまったよ。キミの手を借りたい。試みて欲しいことがあるんだ」



 死を目前としながら冷静な態度を示すハイテに、ミオはある種の覚悟を読み取った。



 ミオは冷徹な声で返す。



「みなまでいうな。責任は取ろう」



「ほう、流石は初見で、黒き死招くステッキを使いこなしてみせただけはある。話が早くて助かる。では傷を――」



 斬られた腕を差し出すハイテの背後へ、ミオは素早く回り込んだ。



 ミオは、ステッキを大上段に振り上げる。



「わかっている。介錯は任せろ」



「なぜそうなる! 治せ!」



 ミオは、山田剛太郎だったころ祖父から聞かされた、処刑人の先祖を思い出していた。



「俺は医者じゃない。できることをするだけだ。諸行無常、是生滅法、生滅滅已、寂滅為楽」



 涅槃経四句を口ずさんだ。ミオの先祖が、罪人を処刑する際に唱えた経だ。



 ミオはステッキを握る手に力を込める。頭上に掲げ持ったステッキの周囲にドスい気が充満し、殺戮兵器としての威容を示していた。



 得物に頼るなど、三流のすることかもしれないが、強い武器というのは、心が躍るものだ。



 死と破壊の権化となったステッキを、ミオはオモチャを見る少年のような眼差しで見つめる。もはや、同じ首を落とすにしろ、介錯と処刑の間には、大きなちがいがあることなど、気にも留めていなかった。



「待て待て待て、介錯ではなくて、処刑になっているぞ。いや介錯ならいいわけではないが……私の話を聴け!」



 ハイテは片手をせわしなく動かして、今にもステッキを振り下ろしそうなミオを制した。



「おおそうだな。すまなかった」



 ミオは大事なことを思い出し、ステッキを握る手を緩めた。



「良かった。いいか、そのステッキには――」



 ミオは、ハイテが行うべき大切な作業に気が付き、ステッキに込めていた力を緩めた。



「辞世の句がまだだったな」



 介錯をするなどという得難い機会を、ミオは楽しむつもりになっていた。
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