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13:湧き出す力

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 スキを突かれ、ミオの動作は、一瞬遅れてしまう。


 
 小腐鬼の振りかざす黒い短剣が三本本。目の前に迫る。


 
 ミオは、咄嗟にその場に沈み込みつつ、ステッキを素早く左右に振るう。一体の首を折り、一体の腹を破った。



 が、最後の一体には、ミオのステッキが届かない。ミオはとっさに、その場に伏せる。



「危ない!」



 ミオの頭上でハイテの声がした。



 ハイテはネコ科の動物のように素早く動き、軍刀で小腐鬼の首を刎ね飛ばした。



 危機から救われたミオは、傲慢に礼を言う。



「ご苦労」



「ん? ああ――」



 納得のいかなそうな返事をしたハイテが、ミオに向き直った。



 次の瞬間――



「雑ッ死アー!」



 獣鬼の死体から一体の小腐鬼が這い出るや、黒い短剣を振りかぶった。



 今度はミオが叫ぶ番だった。



「危ない!」



「微ミャッ!」



 ミオは素早くステップインしつつ、ステッキを突出して小腐鬼の首をへし折った。



 ほっと息を吐くが、休んではいられない。すぐに窓から新手がやってくる。



「偽ッ社ー!」



「芽ッ木ー!」



 黒い短剣を振りかざし、押し合いへし合いして、小腐鬼はやってくる。



「甘いわ!」 



 溢れるように現れる小腐鬼を、ミオは小刻みなステップを踏んで間合いを調整しつつ、ステッキを上下左右に振って撃退する。小腐鬼の頭を叩き潰し、首の骨を折り、内臓を破裂された。



 振るうたびに、小腐鬼を斃すたびに、ステッキはミオの手に馴染んでいった。



 全身に力がみなぎり、ミオの手がステッキと同化しているように感じた時、変化が起きた。



 ステッキの内部で名状し難い力がうごめく。得体のしれない力の奔流が、ステッキから解き放たれようとしていた。



 何かとてつもない力が、ステッキに充填されていく感覚がする。戦いが生み出した高揚した精神のままに、ミオは力を受け入れ、高ぶりを開放した。



「体が熱い……滾るぞ! 喰らえ!」



「亜ッ偽ァー!」



「メメッ太ー!」



 ミオが雄たけびを上げるや、ステッキからどす黒い〝気〟とも〝オーラ〟とも判別できない得体のしれない力が、間欠泉のように飛び出して、窓から躍り出てきたり窓に取りついたりしている多数の小腐鬼たちを、あっという間に飲み込んでいった。



 たちまち、獣鬼の死骸も小腐鬼の群れも互いに溶け合い、極彩色のドロドロの腐肉となった。



 ミオがステッキの力を使ってから二秒とかからずに、室内は静寂に包まれた。



 破れた窓から外を見やる。もはや妖魔はいなくなっていた。



「勝ったぞ」



 ミオは勝ち誇った。



 しかし――



「流石は、オスロン家の、黒き死招くステッキ、恐ろしい威力だ、な」



 ステッキを恐れつつも褒めたハイテの前腕には、黒い切り傷ができていた。
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