12 / 41
12:ステッキ
しおりを挟む
鋭い爪と太い牙を誇示しながら、獣鬼がミオに向けて突っ込んでくる。
銃器の赤い瞳と目が合うや、殺意みなぎる声が放たれた。
「ギャアアオン!」
口の両端から涎を垂らした獣鬼が、見た目よりもしなやかな動きで跳躍した。
捕食者である獣鬼の姿はおぞましく、観る者を恐怖で委縮させるには充分だった。
しかし――
「せい!」
ミオが弧を描くステップで懐に飛び込むや、半棒術の要領でステッキを振るう。体重が十分の一以下と思われるミオの一撃のより、獣鬼はあっさりと跳ね返されていた。
「ギャワン!」
強打者のバットに捕らえられたボールのような軌道で、獣鬼の身体は壁に叩きつけられた。
ミオに、手ごたえらしい手ごたえはなかったにもかかわらず、効果は絶大だった。
調度品が破壊され、骨の折れる乾いた音が鳴った。
獣鬼の長い胴体部からはみ出す潰れた内臓から、ドス黒い体液がしたたり落ち、口からは血を吐きだしていた。
メイドたちが悲鳴を上げる。
「きゃあ」
「きゃああ」
「きゃあきゃあ」
ミオの一撃を受けた獣鬼は、首は折れ、目玉も飛び出すなど酷い有様だ。
騒ぐメイドも汚らしい獣鬼の死骸にも目をくれず、ミオはステッキを掲げるように持った。
黒い蛇に絡まれたドクロからは、禍々しいオーラが放たれている。ステッキを制御したミオは、恐れよりも、体内に充実する力の存在に、頼もしさを覚えていた。
「力がみなぎってくる。このステッキは業物だな」
「感心している場合か、まだ来るぞ!」
警告を発すると同時に、いつの間にか乱入してきた新手の妖魔に対し、ハイテが軍刀を振るった。
両断された小さな影は、血と内臓をまき散らして室内に落ち、絨毯を汚した。
新手の妖魔は、人の子供程度の大きさしかなかった。
顔の大部分を占める一つだけの目は大きく、頭頂部の角と背中の羽、身体を支える足は貧弱だ。
ミオと同様に細い手には、刃渡り二十センチ程度の黒い短剣があり、薄い瘴気をまき散らしていた。
「小型の妖魔か。色々な種類がいるのだな」
観察し感想を漏らしつつ、ミオは破れた窓や壁から入り込んでくる小型の妖魔を、ステッキでまとめて粉砕していく。紫色の返り血を浴び、黒い服はまだらに汚れていった。
戦闘における返り血は男の勲章なので、ミオは誇らしく思った。
ステッキを振り下ろすたびに汚れていくミオとは対照的に、軍刀で妖魔を切り刻んでいるハイテの服は、なぜかほとんど汚れていなかった。
ハイテは、返り血を避けているようだ。
闘争における価値観の違いに、ミオはなんだか不愉快になった。
ミオの内心を知ってか知らずか、ハイテは淡々と解説をはじめる。
「小腐鬼だな。腐敗の神に仕える低級の眷属だ。あの黒い短剣は、腐敗の神からの祝福が授けられている。カスリでもしたら、たちまち肉が腐敗を始めるぞ。周辺部の肉をこそぎ落とさないと、全身が腐って死ぬ羽目になる。気を付けろ」
「小さいが厄介そうなヤツだ」
「キミのようにかね?」
ハイテのイヤミを受けても、ミオは自信満々な態度で受けて立つ。
「馬鹿な。厄介どころか、俺は素晴らしい淑女になるつもりだ」
ミオは何の疑いも持たずに言い切った。
前世である山田剛太郎だったころは、大抵の努力で困難を克服してきたとあって、上手くやれると確信しているのだった。
道場に通い剣・棒・槍・薙刀などの武器術に加え、唐手や柔道、日本拳法などの徒手格闘術を修め、並行して返済不要の奨学金を獲得して、大学を卒業していた。
睡眠時間をできるだけ確保しつつ、武術の鍛錬と勉学に励み結果を残した。
このわけのわからぬ世界でも、生き抜いていけると、ミオは確信していた。
しかし――
「淑女の一人称が〝俺〟というのは、どうかとおもうぞ」
「なん、だと」
ハイテの口から飛び出した的確なツッコミは、ミオに衝撃を与えた。
「お嬢様、窓に、窓に!」
メイドの一人がが叫ぶや、窓から新手の小腐鬼たちが、手に手に黒い短剣を持って、続々と乱入してくる。
「鬼ッシャ亜ッ!」
小腐鬼たちが飛び掛かってきた。
ミオの反応は遅れた。
銃器の赤い瞳と目が合うや、殺意みなぎる声が放たれた。
「ギャアアオン!」
口の両端から涎を垂らした獣鬼が、見た目よりもしなやかな動きで跳躍した。
捕食者である獣鬼の姿はおぞましく、観る者を恐怖で委縮させるには充分だった。
しかし――
「せい!」
ミオが弧を描くステップで懐に飛び込むや、半棒術の要領でステッキを振るう。体重が十分の一以下と思われるミオの一撃のより、獣鬼はあっさりと跳ね返されていた。
「ギャワン!」
強打者のバットに捕らえられたボールのような軌道で、獣鬼の身体は壁に叩きつけられた。
ミオに、手ごたえらしい手ごたえはなかったにもかかわらず、効果は絶大だった。
調度品が破壊され、骨の折れる乾いた音が鳴った。
獣鬼の長い胴体部からはみ出す潰れた内臓から、ドス黒い体液がしたたり落ち、口からは血を吐きだしていた。
メイドたちが悲鳴を上げる。
「きゃあ」
「きゃああ」
「きゃあきゃあ」
ミオの一撃を受けた獣鬼は、首は折れ、目玉も飛び出すなど酷い有様だ。
騒ぐメイドも汚らしい獣鬼の死骸にも目をくれず、ミオはステッキを掲げるように持った。
黒い蛇に絡まれたドクロからは、禍々しいオーラが放たれている。ステッキを制御したミオは、恐れよりも、体内に充実する力の存在に、頼もしさを覚えていた。
「力がみなぎってくる。このステッキは業物だな」
「感心している場合か、まだ来るぞ!」
警告を発すると同時に、いつの間にか乱入してきた新手の妖魔に対し、ハイテが軍刀を振るった。
両断された小さな影は、血と内臓をまき散らして室内に落ち、絨毯を汚した。
新手の妖魔は、人の子供程度の大きさしかなかった。
顔の大部分を占める一つだけの目は大きく、頭頂部の角と背中の羽、身体を支える足は貧弱だ。
ミオと同様に細い手には、刃渡り二十センチ程度の黒い短剣があり、薄い瘴気をまき散らしていた。
「小型の妖魔か。色々な種類がいるのだな」
観察し感想を漏らしつつ、ミオは破れた窓や壁から入り込んでくる小型の妖魔を、ステッキでまとめて粉砕していく。紫色の返り血を浴び、黒い服はまだらに汚れていった。
戦闘における返り血は男の勲章なので、ミオは誇らしく思った。
ステッキを振り下ろすたびに汚れていくミオとは対照的に、軍刀で妖魔を切り刻んでいるハイテの服は、なぜかほとんど汚れていなかった。
ハイテは、返り血を避けているようだ。
闘争における価値観の違いに、ミオはなんだか不愉快になった。
ミオの内心を知ってか知らずか、ハイテは淡々と解説をはじめる。
「小腐鬼だな。腐敗の神に仕える低級の眷属だ。あの黒い短剣は、腐敗の神からの祝福が授けられている。カスリでもしたら、たちまち肉が腐敗を始めるぞ。周辺部の肉をこそぎ落とさないと、全身が腐って死ぬ羽目になる。気を付けろ」
「小さいが厄介そうなヤツだ」
「キミのようにかね?」
ハイテのイヤミを受けても、ミオは自信満々な態度で受けて立つ。
「馬鹿な。厄介どころか、俺は素晴らしい淑女になるつもりだ」
ミオは何の疑いも持たずに言い切った。
前世である山田剛太郎だったころは、大抵の努力で困難を克服してきたとあって、上手くやれると確信しているのだった。
道場に通い剣・棒・槍・薙刀などの武器術に加え、唐手や柔道、日本拳法などの徒手格闘術を修め、並行して返済不要の奨学金を獲得して、大学を卒業していた。
睡眠時間をできるだけ確保しつつ、武術の鍛錬と勉学に励み結果を残した。
このわけのわからぬ世界でも、生き抜いていけると、ミオは確信していた。
しかし――
「淑女の一人称が〝俺〟というのは、どうかとおもうぞ」
「なん、だと」
ハイテの口から飛び出した的確なツッコミは、ミオに衝撃を与えた。
「お嬢様、窓に、窓に!」
メイドの一人がが叫ぶや、窓から新手の小腐鬼たちが、手に手に黒い短剣を持って、続々と乱入してくる。
「鬼ッシャ亜ッ!」
小腐鬼たちが飛び掛かってきた。
ミオの反応は遅れた。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。


目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう
果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。
名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。
日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。
ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。
この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。
しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて――
しかも、その一部始終は生放送されていて――!?
《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》
《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》
SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!?
暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する!
※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。
※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~
芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。
駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。
だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。
彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。
経験値も金にもならないこのダンジョン。
しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。
――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる