上 下
10 / 41

10:襲撃

しおりを挟む
「入室を許可する」



 ミオは、身に着けたもろもろの重さに負けぬよう気を張りつつ、ハイテに入室を許可した。
 


「失礼する。準備はおわった。ならば出発だ。急げ、妖魔が迫っている」



 ハイテは片足をせわしなく動かしながら言った。



 意外に落ち着きのないヤツだ。そう言えばアイツもやたらと短気だったな、俺を殺した後、警察に捕まっていなければいいのだが……ミオは前世について思いを馳せた。
 それも、しばしのことだった。



「妖魔とやらがどんなモノかはしらんが。敵なのだろう?」



「そうだ。敬意も払えず、尊敬もできず交渉も不可能ない敵だ。殺すか逃げるしかない」



 ハイテは断定した。


 
 妖魔とは、話し合いの余地がある存在ではなさそうだ。



 知性やコミュニケーション能力に問題があるのかもしれない。



 妖魔について考えてミオは、ハイテが出発を急がせる意味に、気が付く。



「まさか、逃げるのか?」



「そうだ」



 ハイテはやはり、きっぱりと答えた。



 闘争ではなく逃走を主張するハイテに、ミオは蔑みの視線を送る。



「一戦もせずにか?」



 ミオの非難を聞くや、ハイテの声に険がこもる。



「少数ならともかく、妖魔は大群のようでね、キミの家が抱える騎士団が迎撃に出ているはずだ。任せればいい。第一、私は足手まといを抱えている身だ。退かざるを得ないのだよ」



「足手まといだと? 誰のことを言っている」



「キミのようなか弱い少女を意味するに、決まっているだろう」



 途端、ミオの感情は沸騰した。


 
 武術家相手に、か弱い、などと侮辱するとは許せん。ミオはメイドたちに向けて手を伸ばす。



「武器を持て! 軽いものだ!」



 部屋にミオの怒りと決意のこもった声が響き渡った。



 つい先ほどの敗北した事実を、ミオは忘れていなかった。


 
 素手ではなく武器で、軽い武器で勝負することを画策した。



 ミオは、凛とした声を発したつもりだったが、幼さと可愛らしさの成分が多分に含まれており、周囲を威圧する効果は全くなかった。



 二人のメイドは首を振り、肩をすくめる。



「ございません」



「ありません」



「こちらに」



 が、最後の一人が、恭しい態度で、五十センチほどの筒を差し出す。



 筒は、前世でも見た例のない、全てを吸い込むような、深い黒色をしていた。



「中身はなんだ?」



「わかりませんが、重いので、お嬢様には無理かと」



「とあえず寄こせ」



「ああ、ご無体な」



 ミオは、メイドから黒い筒をひったくり、中身を確認する。ステッキが入っていた。それも、女児向けのアニメに登場するおもちゃ然としたステッキでは、なかった。


 
 邪教の司祭が持つ、悪魔の力を得た杖のようなステッキだった。



 五十センチほどのステッキは、黒と銀色を基調とし、コブシ大のドクロに、鈍色のヘビで装飾が施されていた。全体を薄紫色のオーラが揺らめいており、禍々しい力を放っていた。



 冒涜的な薄紫色をした力の奔流は、恐れを知らぬ山田剛太郎を前世とするミオですら、戦慄を覚えるほどの圧力があった。



「軽いな」



 非力な体のミオが、羽毛を持っているかのように感じられるほどに、ステッキは軽かった。

 

「「え? ステッキがあるの!!」」



「そうなのよ! 御当主様に、お前が持っていろっていわれれ、ずっと隠し持っていたのよ」



「「気づかなかった!」」



「わたしも! 今まで忘れていたの!」



 二人のメイドだけでなく、ステッキを差し出したメイドも目を見開き叫んでいた。


 
 一人ハイテは、驚きよりも興味の勝った視線を、ステッキに注いでいる。ステッキの禍々しさに、興味がそそられたわけでもないようだ。



「取り出しておいて驚くのか……まあいい。オスロン家の黒き死招くステッキ、使いどころだ。キミ、用意をしたまえ。心の準備だ」



 腰の軍刀を引き抜きながら吐いては促し。ほぼ同時にミオはメイドからステッキを奪い取っていた。



 外見こそ禍々しさに加えて重々しいステッキは、小枝よりも軽く、ミオの小さな手に良くなじんだ。



「心得ている」



 ミオがステッキを握って感触を確かめるや、窓が破られ、異形の者が現れた。



「キッシャアっ!」



 誰から説明を受けなくとも、妖魔であるとミオは理解した。



 こいつとは交渉などできないだろうな。覚悟を決めるやステッキを握りしめ、ミオは妖魔に向けて駆けだした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

朝起きたら幼女になっていたのでVtuberをやることにした。

夢探しの旅人
ファンタジー
とある青年が朝起きると幼女に!? とりあえずVtuberになって配信します。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

オタク教師だったのが原因で学校を追放されましたが異世界ダンジョンで三十六計を使って成り上がります

兵藤晴佳
ファンタジー
 30代の国語教師・仮屋真琴は中国兵法に詳しいTRPGオタクである。  産休臨時任用で講師を勤める高校の授業で、仮屋はそれを隠すどころか、思いっきり晒していた。  報いはてきめんに表れ、「兵法三十六計」を使った授業を生徒に嫌われた彼は契約更新を断られてしまう。  むくれる彼は田舎へ帰る次の朝、寝ぼけ眼で引っ越し屋を迎えに出た道で、行き交うダンプカーの前に歩み出てしまう。  遠のく意識のなか、仮屋の目の前に現れたのはTRPGのステータスとパラメータだった。    気が付くと、掟破りの四畳半ダンジョンの中、ゴブリンに囚われた姫君が助けを求めてくる。  姫君の名は、リントス王国の王女ディリア。  亡き先王から王位継承者として指名されたが、その条件となる伴侶のあてがないために、宰相リカルドの妨害によって城内での支持者を得られないでいた。  国内を荒らすモンスターの巣食うダンジョンを自ら制圧することで女王の器を証明しようとしていたディリアは、王家に伝わる呪文で仮屋を召喚したのだった。  その健気さに打たれた仮屋は、異世界召喚者カリヤとして、ダンジョン制圧を引き受ける。  仮屋は剣を振るう力のないオタクなりに、深いダンジョンと無数のモンスター、そして王国の内乱へと、ディープな雑学で挑んでゆく。  授業でウケなかった「兵法三十六計」は、ダンジョンのモンスターを倒すときだけでなく、ディリアの政敵への牽制にも効果を発揮するのだった。  やがて、カリヤのもとには2回攻撃の騎士団長、宮廷を追放された魔法使いと僧侶、暗殺者、街の悪党に盗賊、そしてエルフ娘にドワーフ、フェアリーにレプラホーンと、多くの仲間が集う。  いつしかディリアの信頼はカリヤへの恋に変わるが、仮屋誠は自分の齢と職業倫理で自分にブレーキをかける。  だが、その一方でエルフ娘は自分の巨乳を意識しているのかいないのか、何かというとカリヤに迫ってくる。  さらに宰相リカルドに仕える万能の側近カストは忌々しくなるほどの美少年なのに、不思議な色香で夢の中にまで現れるのだった。  剣と魔法の世界に少年の身体で転移した中年教師。  兵法三十六計でダンジョンを制圧し、王国を救えるのだろうか?    王女の恋に巨乳エルフの誘惑、美少年への劣情というハーレム展開に始末がつけられるのだろうか? (『小説家になろう』様、『カクヨム』様との重複掲載です)

【第二部連載開始】転生魔法少女のチート無双! キセキの力でSSS級ならず者チームを結成です?

音無やんぐ
ファンタジー
あなたの心に、魔法少女は届きますか?  星石と呼ばれる貴石に選ばれた者は、魔法の力を手にすることになる。  幼い頃魔法少女に救われ、魔法少女に憧れた女の子は、やがて自ら魔法少女となる。  少女のもとに集うのは、一騎当千、個性的な能力を持つ仲間たち。  そんな仲間と共に戦う少女の手にした力は、仲間――あらゆる人、生物、物体――の『潜在能力強化』。  仲間全員の力を爆発的に底上げするその魔法は、集団を率いてこそ真価を発揮する。  少女は、『ラスボス』にもたとえられて個人として無双。チームとして最強。  チート級の魔法少女たちは自由を駆け抜け、そしてやがて、『ならず者』を自認するにいたる。  魔法少女としての日常に幸せを感じる時、少女は少しだけ、少しだけ、なんだか星石にしてやられたと思うこともある。  そんな魔法少女たちに、あなたもしてやられてみませんか?  魔法少女たちが希い【ねがい】を叶える物語【ストーリー】  ご覧いただきありがとうございます。  【第二部 異世界編】連載開始しました。毎週一話ずつ、木曜日19時頃に公開させていただきたいと思います。  よろしくお願いいたします。

処理中です...