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5:拒絶

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「なぜ立てる。さいこうのタイミングで突きを入れたはずだぞ」



 右こぶしを抑えつつも、次は足技を試すつもりの剛太郎に、金髪男の冷ややかな声がかけられる。



「仕留めるつもりだったのか? タイミングも姿勢も良かったが、体重が軽すぎたな。握力もたりないから、こぶしを充分に握れてもいない。手が短いのだから、もう一歩接近して突くべきだったな。いや、その様子では踏み込みが足りなくてよかったというべきか。もし踏み込んでいたら、こぶしだけでなく、手首も折っていただろう」



 正論だった。



 充分に踏み込んだつもりでも、やはり間合いが変化し、筋力が大幅に低下した影響が強すぎて、意味をなさなかったようだ・



「話を聴こう」



「ケガをして、ようやく力の差を理解できたのか」



 鼻で笑う金髪男に、剛太郎は平静に返事をする。



「ちがう。今のうごきとかいせつで、お前がつよい武術家だとりかいできた。だから、魔法などというウソを並べるお前のはなしをきいてやるのだ」



 剛太郎にとって、善悪の基準は単純だ。強ければ正しく、弱ければ間違っている。金髪男の動きは、本気でない割には、鋭かった。
 合格点だ。



「呆れたな。わたしが強いから話を聞くというのか。その外見で脳筋とは、キミは、かつての友人によく似ているようだ。魔法は存在する。ちょうどいいから、証拠をもう一度見せよう」



 金髪男は、不機嫌さを隠しもせずに、流れるような動きで剛太郎の右手を取った。



 武術家である剛太郎の手首を、金髪男は自然な動作で掴んでいた。



 激痛が走るが、どうでもいいことだ。



 実戦において、手首なり肘なりを取られるなど、武術家にとって恥辱だ。
 手首の関節を固定しながらの投技げや、脇固めのような立ち間接技を極めらてしまうこともあるからだ。


 
 痛みと羞恥で、剛太郎の顔は熱くなった。



「なにを――」



「スグに終わる。動くな」



 金髪男のいう通り、手首が薄緑色に一瞬光ると、金髪男はスグに手を放した。



「なにが、おこった」



 剛太郎は右手を眺めつつ、左手で叩いて感触を確かめる。こぶしは元に戻り、痛みはほとんどなくなっていた。



 右手の指を閉じたり開いたりする剛太郎の横で、メイドたちが騒ぎ始める。



「まあ治癒魔法よ」



「治癒魔法ね」



「治癒魔法とは、そもそもなんでしょう? フフフ、わかるかしら」



 一拍置いて、三人のメイドは答える。



「「「「イケメンのように、人を癒す魔法」」」



 一拍置いて、三人のメイドは叫ぶ。



「「「「なるほどな~」」」」



 ちょっと大人しくしていたとおもったら、メイドたちのウザさは激増していた。



「お前たちクビな」



「「「なんで~!」」」



 崩れ落ちるメイドたちを無視して、金髪男が口を挟む。



「雇用関係の話は、後にしてくれないか。先ほど言ったように、危機的状況なのだかからね」



「よかろう。いや魔法もしんじよう。じっさい、オレの手がなおったのだからな」



 剛太郎が素直に応じると、金髪男は肩をすくめた。



「話が早くて助かる。とてもな」



「うむ」



 嫌味を聞き流して腕を組む剛太郎に、金髪男はため息を吐く。



「まあいい。ミオ・オスロン。魔法学校へ入学させるために、キミを迎えに来た」



「名は?」



「は?」



 金髪男は片眉を上げた。



 剛太郎は金髪男の目を見ながら、再び問う。



「お前の名だ」



「……名乗っていなかったか。それは失礼した。こちらではハイテ・フォン・トレスコフと呼ばれている。男爵だ。見知りおけ」



 金髪男ことハイテは「呼ばれている」などと、奇妙な言い草で自己紹介をした。



 名前にも身分にも興味がなかったので、剛太郎はスルーし、勝手に話を進める。



「学校といっていたな。入ってどうする」



「魔法学校だ。魔法を覚えて、妖魔と戦ってもらう」



 妖魔? 魔法のある世界なら、そういう存在がいてもおかしくないか。もし本当に存在するのなら面白い。



「ことわる」


 剛太郎は、迷いなく言い切った。
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