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2:毒ロリとメイド

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 斬殺されたと思ったら、なぜか美少女になっていた。



 ついでに広い室内のベッドの上にいて、周囲にはメイドらしき女たちまで侍っている。



 意味が分からない。



「いみがわからない」



 剛太郎は、口から出た言葉の拙さに慄然としつつ、鏡を再び凝視する。百二十センチ程度の小さな女の子が映っていた。


 
 ただの少女ではない。白に近い銀髪を腰までたらし、病的に白い肌の矮躯を、黒い衣服で包む、不吉な美少女だ。



 剛太郎の内部で、危機感が醸成された。



 生まれ変わり? あるいは、前に特殊な趣味を持つ先輩の道場生が話していた異世界転生というものだろうか。それで、少女の姿になっているだと? そんな馬鹿な。



「これは、マズいな」


 
 剛太郎の独り言を聞きつけたメイドたちが、歌うような声で反応する。
 



「なにが~マズいのでございますか~?」



「朝食は、まだですが~?」



「が~?」



「「「が~? ホウッホ~ホウッホウッホ」」」




 メイドたちは、奇妙なコーラスを入れ始めた。



 三人のメイドたちは皆、整った顔に無表情を乗せている。いずれも鼻が高く整った顔をしており、なでつけた黒髪も美しく似合っておいた。



 綺麗で知的な外見でありながら、一々鬱陶しいメイドたちを、剛太郎は問いただす。



「おまえたちは、なんだ?」



 メイドたちは、顔を見合わせた。



「お嬢様つきの~」



「メイド~」



「で~す~」



「すまんが、しゃべるのは一人にしてくれるか? ムダにハナシがながくなる」



 剛太郎からの要求を聞くや、メイドたちは顔を見合わせる。




「「「やです」」」



 三人のメイドたちは、見事にハモっていた。



 こいつら、鬱陶しい。剛太郎はイライラをぶつける。



「なんで、だ!」



「「「仕事がなくなっちゃうからで~す」」」



「わかったよ。で、おまえたちはオレつきのメイド? なのだな。オレはダレだ。ジョークでいってはいないぞ。せつめーしろ」



 剛太郎は、厳しい主人のような態度で、メイドたちを詰問する。



 ただし、外見はいかに美しくとも、やせっぽちで舌足らずな少女なので、迫力に欠けていた。



 返事も当然、敬意や真剣味に欠けるものだった。



「お嬢様は~」



「お嬢様なの~」



「デス~」



 メイドたちは、踊りのリズムだけは



「……どこのおじょうさんで、なまえはなんだ」



 鬱陶しさを我慢して、剛太郎は話を促す。三人のメイドたちは、互いに何度か顔を見合わせてから、歌うように答える。



「治癒魔法の権威~オスロン男爵家の御令嬢~」



「名前は~ミオ・オスロン~」



「実は三女~」



「「「末っ子~」」」




「やっぱり一人がしゃべれ」




「「「いやで……」」」」



 またハモらせたメイドたちを、剛太郎は細く短い手で制する。



「ことわったらカイコだ。チョージョっぽいヤツだけしゃべれ」



 俺がお嬢様? とまどいながらも、ならばと、剛太郎は解雇をチラつかせた。



「はい」



 すると、メイドたちはあっさりと引き下がった。



「オレは、ミオ・アスロンといとかいう、オジョウさまなのか」



「そです」



「そうか」



「ちなみに、アスロン家は治癒魔法だけではなく、毒魔法についても権威!。特にお嬢様は毒が大得意なので、まだ十二歳なのに、ミス・ポイズンの異名をお持ちなのです! よ! 毒女。ミス・ポイズン!」


 
 メイドはなぜか得意気で、不躾で失礼だった。



「なんとなくわかった。マホウのくだりはよくわからんがな」



 どうやら、本当に異世界転生とやらになっているようだ。



 これからどうしたものか。考えるが、状況が異常過ぎて思考がまとまらない。



 黙る剛太郎を見たメイドが、仕事を思い出す。



「では、朝食をご用意いたします」



「いや、ねる」



「え?」



 剛太郎は、取りあえず二度寝することにした。



 一度に色々なことが起きすぎている。充分な睡眠をとってから食事もたっぷりと摂取し、風呂につかろう。でなければ、かつて豪胆でなった剛太郎も、落ち着いてものを考えられないというものだ。



 知りたいことも考慮することも多すぎる中、剛太郎は敢えて寝る決断をした。



 しかし――



「ミオ・オスロン。迎えに来た」



 無遠慮に扉をあけ放って侵入してきた、妙に美形な金髪の男によって、剛太郎の二度寝は遮られた。


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