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10:終了の兆し
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一郎が焦燥にかられる中、籤屋と秋山、二人の話は進む。
「なるほど、なるほど。籤を引く前に、ちゃんとわからないところを聞いておこうというわけね。いいよ、教えてあげる。ま、難しい話じゃないから、気楽に聞いてね」
秋山は、家族を張った賭け事に、いつの間にか参加させられる羽目になった小学校中学年児童、つまるところ犠牲者でしかなかった。
そんな哀れな立場の秋山に、籤屋は、ちょっとした遊びのルールを教えるかのように――実際に、籤引は本来、ただの遊びでしかないはずだが――取り扱う籤について説明を始めた。
「まずは、籤の種類ね。当たりに、大当たり、ハズレ、大ハズレ、その他の五種類よ。今の状況だと、当たりが出れば、秋山君の怪我が綺麗さっぱり治るけど、賭け録は没収。大当たりなら、なんと、怪我が治る上に、賭け録も戻ってくる素敵な結果に!」
「ホント!」
秋山は、肩の怪我を忘れたかのように叫び声を上げ、すぐに痛みで顔を歪めた。
ただし、瞳には、つい先ほどなくしたばかりの光が戻っていた。
希望を見出した秋山の顔を見て、一郎は、どうしてか不愉快になった。
どうせ、また絶望するに違いない。一郎は気を取り直そうと、努力した。
「嘘……なんて冗談よ。大当たりを引けば、誰でも幸せになれるのが私の籤なんだから」
籤屋は、相変わらず機械的な不気味さを、声と動作に乗せて、秋山に答えていた。
「あ、でも、ハズレと大ハズレと……その他って?」
都合の悪そうな単語を思い出したようで、秋山の瞳に宿った光が、大きく揺れた。
どうやら、一郎が不愉快になる必要は、なさそうだった。
「ハズレは怪我が治らない上、賭け禄も取られるっていう、ありふれたハズレね。大ハズレは、追加で賭け録をいただきます。内容は気分次第ってところね。後、その他を引いちゃうと、それどころじゃないの。最高で最悪な結果が秋山君を待っているわよ」
「え、具体的には、どうなるんですか?」
「ないし・よ」
奇妙なところで言葉を区切ると、籤屋は漫画のキャラクターがするように、悪戯っぽく舌を出した。
一郎は無性にイライラとしていた。
標的が完全に秋山に行っていると安心したせいかもしれない。
ちょっと文句でも言ってやろうかと、口を開きかけて、慌ててやめた。
一瞬、複数の視線で、上下左右から射抜かれたような、非現実的であるような、奇妙な感覚を覚えたからでもあった。
加えて、籤屋出した舌は蛇のように長く、駄菓子のような毒々しい赤色をしていると気がついたからだ。
さらに、籤屋の長い舌には、大小の顔が存在していた。
イボのように隆起した舌の表面に浮かぶ顔は、男女の区別がつかないのっぺりとした代物で、喜怒哀楽は窺えなかった。
大小の顔は、無表情のまま一郎を見据えていた。
やはり、気軽に抗議するなんて考えられない相手だ。
一郎は何故か、忘れそうになっていた。
緊張しすぎて、集中が続かなくなっているのかもしれない。一郎は、唇を噛んで正気を保とうと努め、推移を見守った。
「……あの、できれば詳くお願いします。それと、大当たりと当たりとハズレと大ハズレ、その他の出る確率は?」
「四の五の言わずに、引くなら引きなさい」
さらに質問を続けようとする秋山に、籤屋は機械的な朗らかさを捨て、早口に合成音のような声で冷徹な命令を下した。
秋山終わったなと、一郎は冷静というより冷徹に判断した。
「なるほど、なるほど。籤を引く前に、ちゃんとわからないところを聞いておこうというわけね。いいよ、教えてあげる。ま、難しい話じゃないから、気楽に聞いてね」
秋山は、家族を張った賭け事に、いつの間にか参加させられる羽目になった小学校中学年児童、つまるところ犠牲者でしかなかった。
そんな哀れな立場の秋山に、籤屋は、ちょっとした遊びのルールを教えるかのように――実際に、籤引は本来、ただの遊びでしかないはずだが――取り扱う籤について説明を始めた。
「まずは、籤の種類ね。当たりに、大当たり、ハズレ、大ハズレ、その他の五種類よ。今の状況だと、当たりが出れば、秋山君の怪我が綺麗さっぱり治るけど、賭け録は没収。大当たりなら、なんと、怪我が治る上に、賭け録も戻ってくる素敵な結果に!」
「ホント!」
秋山は、肩の怪我を忘れたかのように叫び声を上げ、すぐに痛みで顔を歪めた。
ただし、瞳には、つい先ほどなくしたばかりの光が戻っていた。
希望を見出した秋山の顔を見て、一郎は、どうしてか不愉快になった。
どうせ、また絶望するに違いない。一郎は気を取り直そうと、努力した。
「嘘……なんて冗談よ。大当たりを引けば、誰でも幸せになれるのが私の籤なんだから」
籤屋は、相変わらず機械的な不気味さを、声と動作に乗せて、秋山に答えていた。
「あ、でも、ハズレと大ハズレと……その他って?」
都合の悪そうな単語を思い出したようで、秋山の瞳に宿った光が、大きく揺れた。
どうやら、一郎が不愉快になる必要は、なさそうだった。
「ハズレは怪我が治らない上、賭け禄も取られるっていう、ありふれたハズレね。大ハズレは、追加で賭け録をいただきます。内容は気分次第ってところね。後、その他を引いちゃうと、それどころじゃないの。最高で最悪な結果が秋山君を待っているわよ」
「え、具体的には、どうなるんですか?」
「ないし・よ」
奇妙なところで言葉を区切ると、籤屋は漫画のキャラクターがするように、悪戯っぽく舌を出した。
一郎は無性にイライラとしていた。
標的が完全に秋山に行っていると安心したせいかもしれない。
ちょっと文句でも言ってやろうかと、口を開きかけて、慌ててやめた。
一瞬、複数の視線で、上下左右から射抜かれたような、非現実的であるような、奇妙な感覚を覚えたからでもあった。
加えて、籤屋出した舌は蛇のように長く、駄菓子のような毒々しい赤色をしていると気がついたからだ。
さらに、籤屋の長い舌には、大小の顔が存在していた。
イボのように隆起した舌の表面に浮かぶ顔は、男女の区別がつかないのっぺりとした代物で、喜怒哀楽は窺えなかった。
大小の顔は、無表情のまま一郎を見据えていた。
やはり、気軽に抗議するなんて考えられない相手だ。
一郎は何故か、忘れそうになっていた。
緊張しすぎて、集中が続かなくなっているのかもしれない。一郎は、唇を噛んで正気を保とうと努め、推移を見守った。
「……あの、できれば詳くお願いします。それと、大当たりと当たりとハズレと大ハズレ、その他の出る確率は?」
「四の五の言わずに、引くなら引きなさい」
さらに質問を続けようとする秋山に、籤屋は機械的な朗らかさを捨て、早口に合成音のような声で冷徹な命令を下した。
秋山終わったなと、一郎は冷静というより冷徹に判断した。
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