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Chapter7(Dies Irae編)
Chapter7-⑤【スターライトパレード】
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「しつこい奴ですね。」
手を振り解くと、何度も腹を蹴り上げる。
どす黒く腫れた口から血飛沫が飛んだ。
「汚らしい。」
岩佐は一歩退く。
その時、影が動いた。
不意を突かれ、強烈なパンチを喰らう。
身体が後方に下がったが、左足で踏ん張る。
常夜灯の明かりの下にいるのはスタバにいたドラッグクイーンだった。
ドラッグクイーンはタイ式ボクシングの使い手らしい。
顔の前で拳を構え、いつでも蹴りが出来る体勢をとっている。
『どうして?
何故ここに?』
狐に抓まれた思いが強い中、ニヤリと笑う。
顔面にパンチを喰らったのは選手時代以来だ。
闘争心に火が点いた。
自然と身体が臨戦モードとなる。
ドラッグクイーンはヒールを脱ぎ捨てると、同時にリズミカルなフットワークを見せ
た。
岩佐は無駄に動かず、間合いを詰めていく。
思考が徐々に機能し始めた。
常夜灯の下にドラッグクイーンと岩佐が向き合う。
「タカユキ、心配スルナ。
直グ、仲間ガ来ル。」
ドラッグクイーンがウインクした。
「あっ!」
ドラッグクイーンがノイだとやっと分かった。
右手に力を入れ、立ち上がろうとする。
しかし肘が曲がって、それが出来ない。
仲間が来ると聞き、岩佐が木戸を見た。
ノイのハイキックが首筋を狙う。
岩佐は左手でガードすると、右ストレートを放つ。
顔面を掠め、ノイがよろけた。
怒涛のパンチが襲い掛かる。
ノイは両手で顔をガードするのが精一杯だ。
岩佐が思い切り右手を引いた。
ラストに決めるつもりだ。
その拳を両手で掴む。
「もう止めろよ。」
しゃがれ声で訴えた。
「これがアンタの思い描いたシナリオか?」
倒れているケンゴに視線を向ける。
ジェームスは両手でバッグを抱え、狼狽えていた。
岩佐もその光景を目にして、冷静さを取り戻した様だ。
「確かに…。」
振り上げた右手を静かに下ろす。
ジェームスは早口に捲し立てると、木戸から出て行った。
開いた戸からか風が抜けていく。
「話が違うか…。
タカユキさんの言う通りですね。」
失笑した岩佐は乱れた髪をかき上げた。
祭の様な賑やかな声が近付いてきた。
木戸からカラフルなドラッグクイーンやニューハーフが、ドタドタと入って来る。
最後に入って来た一番大柄なニューハーフがジェームスを放り投げた。
青痣を作ったジェームスが転がる。
憎らしく思うが、暴力では解決しない。
10人近い彼女達が岩佐に詰め寄る。
「好きにしなさい。
警察を呼ぶなら、それでもいい。」
打ち拉がれた岩佐が吐き捨てた。
ケンゴに駆け寄る。
息はしているが、弱々しい。
一面に広がる赤い海が出血の多さを物語っている。
「だったらジェームスにケンゴの手当をするように言え!」
振り向いたタカユキが吠えた。
暗い部屋でケンゴの寝顔を見守る。
「明日、ポスピタル行コウ。
フレンドガ、イル。」
肩に手が置かれた。
ノイの部屋だ。
狭い一間に裸電球がぶら下がっている。
「ありがとう。
ノイのお陰だよ。」
肩に置かれた手に掌を重ねる。
「タカユキ、ケンコガ、好キナンダ…。」
その呟きに頷く。
ノイの顔も紫色に腫れ上っていた。
濡れタオルで冷やしているが、直ぐに引くとは思えない。
ホテルとショーの仕事に支障を来す事は明白だ。
申し訳ない想いで一杯となり、深々と頭を下げる。
「少シ、寝マス。
タカユキモ、寝タ方ガイイ。」
ノイは部屋の隅で横になった。
ケンゴの額に手を置く。
尋常ではない熱さに不安が募る。
早く朝が来る事を切実に願う。
水道水でタオルを洗う。
蛇口の前に立つと、ガラス向こうに白みがかった空が見えた。
それに希望を見出す。
額のタオルを乗せ替える。
「下がれ、下がれ、下がれ…。」
呪文の様に何千、何万と繰り返す。
『うるせぇな!おちおち寝てもいられねぇよ。』
声に出せば、その内ケンゴが文句を言い出しそうな気がした。
隣で横たわり、耳元で唱え続ける。
何時しか瞼が重くなり、微睡みの中へ落ちて行った。
(つづく)
手を振り解くと、何度も腹を蹴り上げる。
どす黒く腫れた口から血飛沫が飛んだ。
「汚らしい。」
岩佐は一歩退く。
その時、影が動いた。
不意を突かれ、強烈なパンチを喰らう。
身体が後方に下がったが、左足で踏ん張る。
常夜灯の明かりの下にいるのはスタバにいたドラッグクイーンだった。
ドラッグクイーンはタイ式ボクシングの使い手らしい。
顔の前で拳を構え、いつでも蹴りが出来る体勢をとっている。
『どうして?
何故ここに?』
狐に抓まれた思いが強い中、ニヤリと笑う。
顔面にパンチを喰らったのは選手時代以来だ。
闘争心に火が点いた。
自然と身体が臨戦モードとなる。
ドラッグクイーンはヒールを脱ぎ捨てると、同時にリズミカルなフットワークを見せ
た。
岩佐は無駄に動かず、間合いを詰めていく。
思考が徐々に機能し始めた。
常夜灯の下にドラッグクイーンと岩佐が向き合う。
「タカユキ、心配スルナ。
直グ、仲間ガ来ル。」
ドラッグクイーンがウインクした。
「あっ!」
ドラッグクイーンがノイだとやっと分かった。
右手に力を入れ、立ち上がろうとする。
しかし肘が曲がって、それが出来ない。
仲間が来ると聞き、岩佐が木戸を見た。
ノイのハイキックが首筋を狙う。
岩佐は左手でガードすると、右ストレートを放つ。
顔面を掠め、ノイがよろけた。
怒涛のパンチが襲い掛かる。
ノイは両手で顔をガードするのが精一杯だ。
岩佐が思い切り右手を引いた。
ラストに決めるつもりだ。
その拳を両手で掴む。
「もう止めろよ。」
しゃがれ声で訴えた。
「これがアンタの思い描いたシナリオか?」
倒れているケンゴに視線を向ける。
ジェームスは両手でバッグを抱え、狼狽えていた。
岩佐もその光景を目にして、冷静さを取り戻した様だ。
「確かに…。」
振り上げた右手を静かに下ろす。
ジェームスは早口に捲し立てると、木戸から出て行った。
開いた戸からか風が抜けていく。
「話が違うか…。
タカユキさんの言う通りですね。」
失笑した岩佐は乱れた髪をかき上げた。
祭の様な賑やかな声が近付いてきた。
木戸からカラフルなドラッグクイーンやニューハーフが、ドタドタと入って来る。
最後に入って来た一番大柄なニューハーフがジェームスを放り投げた。
青痣を作ったジェームスが転がる。
憎らしく思うが、暴力では解決しない。
10人近い彼女達が岩佐に詰め寄る。
「好きにしなさい。
警察を呼ぶなら、それでもいい。」
打ち拉がれた岩佐が吐き捨てた。
ケンゴに駆け寄る。
息はしているが、弱々しい。
一面に広がる赤い海が出血の多さを物語っている。
「だったらジェームスにケンゴの手当をするように言え!」
振り向いたタカユキが吠えた。
暗い部屋でケンゴの寝顔を見守る。
「明日、ポスピタル行コウ。
フレンドガ、イル。」
肩に手が置かれた。
ノイの部屋だ。
狭い一間に裸電球がぶら下がっている。
「ありがとう。
ノイのお陰だよ。」
肩に置かれた手に掌を重ねる。
「タカユキ、ケンコガ、好キナンダ…。」
その呟きに頷く。
ノイの顔も紫色に腫れ上っていた。
濡れタオルで冷やしているが、直ぐに引くとは思えない。
ホテルとショーの仕事に支障を来す事は明白だ。
申し訳ない想いで一杯となり、深々と頭を下げる。
「少シ、寝マス。
タカユキモ、寝タ方ガイイ。」
ノイは部屋の隅で横になった。
ケンゴの額に手を置く。
尋常ではない熱さに不安が募る。
早く朝が来る事を切実に願う。
水道水でタオルを洗う。
蛇口の前に立つと、ガラス向こうに白みがかった空が見えた。
それに希望を見出す。
額のタオルを乗せ替える。
「下がれ、下がれ、下がれ…。」
呪文の様に何千、何万と繰り返す。
『うるせぇな!おちおち寝てもいられねぇよ。』
声に出せば、その内ケンゴが文句を言い出しそうな気がした。
隣で横たわり、耳元で唱え続ける。
何時しか瞼が重くなり、微睡みの中へ落ちて行った。
(つづく)
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