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Chapter11(物怪編)
Chapter11-⑫【春が来てぼくら】後編
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三浦は完全に気を失っていた。
「ちょ、ちょっとやり過ぎたかな?」
正気に戻ったリュウヘイの声が震える。
「正当防衛ですから、問題はないと思いますが…。」
中嶋は言葉を濁す。
根掘り葉掘り聞かれるのは間違いない。
その場合、この暴風雨の中、公園に行った理由を聞かれるだろう。
頭の固い警官にどこ迄話すかが問題だ。
「あっ!」
閃きが浮かぶ。
「ど、どうしたんだ?
何か不味い事があったか?」
リュウヘイが見開いた瞳を向けた。
「近くの派出所に上川という知り合いがいます。
彼だったら、話せば分かってくれると思います。
通報して来るので、車を脇に寄せておいて下さい。
それと指紋が流れ落ちない様、これに何か乗せておいて。」
中嶋は雨に濡れるナイフを跨いで歩き出す。
後方からクラクションが鳴る。
振り返ると、リュウヘイが運転席から身を乗り出していた。
「悪いがガソリンの携行缶を買ってきてくれ。
ガス欠なんだ!」
三浦が逃走を止めた理由が分かり、中嶋は笑みを浮かべた。
「ハンドルとナイフから三浦の指紋が出ました。
これで我々に非がない事が証明されました。」
上川からの電話を切った中嶋は安堵の表情を浮かべる。
「ああ、良かったな。」
ナツキが気のない返事をした。
「どうしたんですか?
まだ心配事がありますか?」
それを感じ度った中嶋が聞く。
「ああ、てんこ盛りだ。
臨時休業した上に、ビデオ撮影は中止だぞ。
被害額を考えたら、おちおち眠れねぇんだ。
あー、金が減ってくばかりだ。」
珍しく愚痴を溢した。
「そんなのこれから幾らでもリカバリー出来ます。
皆元気なんですから。
社長から貰った金は元々なかったと、考えればいいだけです。」
中嶋はナツキを宥める。
「はぁ、ポンコツのワタルの所為で大損だ。
あいつは当面タダ働きだ!」
仏頂面のナツキが椅子を蹴飛ばした。
これでは社員旅行の話は出来そうもない。
日本一周は一先ずお預けだ。
夏になったら提案してみよう。
「ちゃんと元に戻しておいて下さい。
店では私の命令に従う約束です。」
「はいはい、分かりました。
支配人様。」
ナツキはおどけて言う。
「そうそう、上川さんが後で顔を出すそうです。」
「何用だ?」
「特に用件は言ってませんでした。」
「ふーん。」
倒れた椅子を元に戻す。
「何か怪しいと思いませんか?」
「何がだ?」
「上川さんの制服って、妙にタイトなんです。
股間をモッコリさせてるし。」
「あの警官がゲイだと言うのか?」
「そこ迄は。
でも興味はありそうです。
ちょっと鎌をかけてみませんか?」
中嶋が悪戯っ子の様な笑みを浮かべた。
「面白そうだな。
で、何をするんだ。」
ナツキは戻した椅子に腰掛ける。
ぐらつく事は黙っておく。
中嶋が顔を寄せてきた。
この男と組んで良かったと、つくづく思う。
自分とは全く真逆な不釣り合いな男だ。
発展場なら一生相まみえる事はない。
だがこの几帳面な男が今は頼もしく見える。
「おい、顔が近ぇよ。
キスすんなよ。」
ナツキは近寄った顔を掌で押し返した。
(完)
「ちょ、ちょっとやり過ぎたかな?」
正気に戻ったリュウヘイの声が震える。
「正当防衛ですから、問題はないと思いますが…。」
中嶋は言葉を濁す。
根掘り葉掘り聞かれるのは間違いない。
その場合、この暴風雨の中、公園に行った理由を聞かれるだろう。
頭の固い警官にどこ迄話すかが問題だ。
「あっ!」
閃きが浮かぶ。
「ど、どうしたんだ?
何か不味い事があったか?」
リュウヘイが見開いた瞳を向けた。
「近くの派出所に上川という知り合いがいます。
彼だったら、話せば分かってくれると思います。
通報して来るので、車を脇に寄せておいて下さい。
それと指紋が流れ落ちない様、これに何か乗せておいて。」
中嶋は雨に濡れるナイフを跨いで歩き出す。
後方からクラクションが鳴る。
振り返ると、リュウヘイが運転席から身を乗り出していた。
「悪いがガソリンの携行缶を買ってきてくれ。
ガス欠なんだ!」
三浦が逃走を止めた理由が分かり、中嶋は笑みを浮かべた。
「ハンドルとナイフから三浦の指紋が出ました。
これで我々に非がない事が証明されました。」
上川からの電話を切った中嶋は安堵の表情を浮かべる。
「ああ、良かったな。」
ナツキが気のない返事をした。
「どうしたんですか?
まだ心配事がありますか?」
それを感じ度った中嶋が聞く。
「ああ、てんこ盛りだ。
臨時休業した上に、ビデオ撮影は中止だぞ。
被害額を考えたら、おちおち眠れねぇんだ。
あー、金が減ってくばかりだ。」
珍しく愚痴を溢した。
「そんなのこれから幾らでもリカバリー出来ます。
皆元気なんですから。
社長から貰った金は元々なかったと、考えればいいだけです。」
中嶋はナツキを宥める。
「はぁ、ポンコツのワタルの所為で大損だ。
あいつは当面タダ働きだ!」
仏頂面のナツキが椅子を蹴飛ばした。
これでは社員旅行の話は出来そうもない。
日本一周は一先ずお預けだ。
夏になったら提案してみよう。
「ちゃんと元に戻しておいて下さい。
店では私の命令に従う約束です。」
「はいはい、分かりました。
支配人様。」
ナツキはおどけて言う。
「そうそう、上川さんが後で顔を出すそうです。」
「何用だ?」
「特に用件は言ってませんでした。」
「ふーん。」
倒れた椅子を元に戻す。
「何か怪しいと思いませんか?」
「何がだ?」
「上川さんの制服って、妙にタイトなんです。
股間をモッコリさせてるし。」
「あの警官がゲイだと言うのか?」
「そこ迄は。
でも興味はありそうです。
ちょっと鎌をかけてみませんか?」
中嶋が悪戯っ子の様な笑みを浮かべた。
「面白そうだな。
で、何をするんだ。」
ナツキは戻した椅子に腰掛ける。
ぐらつく事は黙っておく。
中嶋が顔を寄せてきた。
この男と組んで良かったと、つくづく思う。
自分とは全く真逆な不釣り合いな男だ。
発展場なら一生相まみえる事はない。
だがこの几帳面な男が今は頼もしく見える。
「おい、顔が近ぇよ。
キスすんなよ。」
ナツキは近寄った顔を掌で押し返した。
(完)
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