妄想日記5<<DISPARITY>>

YAMATO

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Chapter11(物怪編)

Chapter11-⑪【Lemon】前編

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「何か、あったんですかね?」
助手席のランマが眉間に皺を寄せた。
反対車線の右折レーンのミニバンがクラクションを鳴らし続けている。
ハイビームになっている為、車内の様子は分からない。
引っ切りなしに動くワイパーが『ゴキッ』と耳障りな音を立てる。
強風で飛ばされた枝が引っ掛かっていた。
「見てきます。」
ランマがドアを開けようとした時、前方の信号が青に変わった。
クラクションの止まったミニバンが強引に突っ込んでくる。
スリップしたミニバンがフロントをギリギリに通過して行った。
「ドライバーを見たか?」
運転席側のワイパーは枝が邪魔をして、クリアにならない。
「ええ、先日、ワタルを襲った奴を迎えに来た男です。」
ランマの答えを聞き、左折ウインカーを出す。
『キッキッキー!』
タイヤを軋ませて追走する。
 
一般道路で100キロを越えてる。
歩行者がいたら一溜まりもない。
視界がままならぬ中でハンドルを持つ。
こんなに手汗を掻いたのは初めてだ。
『ワタルの為にここ迄する必要はあるのか?』
片道一車線の道路だ。
「一か八か、反対車線から追い抜くぞ。」
答が出る前に、右足へ体重を乗せていた。
ベンツの加速はミニバンの比ではない。
瞬く間にミニバンのテールランプが鼻先に追い付く。
車体が右に寄せてきた。
ハンドルを切り、一気にミニバンと並ぶ。
もし接触すれば、どちらかがすっ飛ぶだろう。
「しっかり掴まってろ!
どうせ貰いもんだ!」
中嶋は更にアクセルを踏み込むと、ゆっくりとハンドルを回した。
 
当たると思った瞬間、ミニバンは急速に減速した。
ドアミラーに上を向いたライトが浮かぶ。
どうやら停車した様だ。
ベンツをセンターラインに停め、進路を塞ぐ。
ミニバンではUターンは無理だ。
「見てくる。」
「一緒に行きます。」
「いや、ランマは車に乗ってろ。
万が一、バックで逃げたら追ってくれ。」
中嶋はどしゃ降りの雨の中、表へ出た。
ライトを正面に浴び、目を細める。
男が車外に出てきた。
「中嶋さんですね?」
上半身裸の男が聞いてきた。
「ええ、そうです。
ワタルを返して貰いましょう。」
中嶋は自分が丸腰な事に気付く。
「どうしてあなたは私の邪魔をするのですか?」
男が光の輪の中へ入ってきた。
 
「難癖を付けて、強引に人気モデルを引き抜く。
迎えに行った助手には怪我をさせる。
そして今、危険な運転で危うく事故を起こす所でした。
非道極まりないとは思わないのですか?」
シルエットが徐々に大きくなる。
言葉巧みに中嶋の非を突いてきた。
確かにその言葉を額面通りに受け取れば、自分が酷く倫理観に欠如した人間に思えて
くる。
「欲望を満たす為なら、他人を踏みにじる事も厭わない。
牛は牛連れ馬は馬連れ、上手く例えたものだ。
何と欲深い奴等なんだ!」
振り上げた手に持つナイフが背後から照らされた。
「あっ!」
視線を上げるだけで、避ける暇はない。
咄嗟に左腕で頭をガードする。
『腕一本なら安いもんか。』
 
 
(つづく)
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