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Chapter11(物怪編)
Chapter11-⑨【台風】後編
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「くそっ!」
三浦は駐車場へ車を入れると、思い切りドアを蹴飛ばした。
後方に回り、ナンバープレートを確認する。
煤で汚れていて読み取り難い。
『警官が事前にナンバーを控えていなければいいが。』
一抹の不安は残る。
しかし犯罪を犯した訳ではない。
車内でマラを扱いていただけだ。
万が一、警官が来ても堂々としてればいい。
そう自分に言い聞かす。
駐車場は住宅街の中にあり、車が来れば直ぐに分かる。
左右を見渡し、ヘッドライトがない事を確認する。
雨粒が頬を濡らした。
ここからは歩いていくしかない。
雨宿りに車内へ戻る。
エンジンを切り、ライトを消す。
窓を叩く音が次第に大きくなっていく。
傘を探すが、車内に見当たらない。
雨脚は強まる一方で、止む気配はなさそうだ。
それより目先の問題はワタルだ。
何としても期限に間に合わせる必要がある。
この業界で、信頼を失ったらやっていけない。
二度と仕事は来ないだろう。
あんな昼行灯にこれ程、手を焼くとは思わなかった。
ワタルを裏で操る男がいる事は確かだ。
「確か…、なか…、中嶋だ。」
電話を掛けてきた男だ。
三浦は以前、隠し撮りしたスナップ写真を手帳から出す。
ワタルの左手にいる神経質そうな方が中嶋だろうと想像が付く。
右側の坊主は沖縄にいた筋肉馬鹿だ。
こいつは取るに足らんと、左側に視線を戻す。
短い髪を金色に染めているが、どこか垢抜けていない。
大学にいたガリ勉をカモフラージュする奴と同じだ。
『俺って勉強出来るけど、気さくなんだぜ。』
とでも言いそうな風貌に苛立ちを覚える。
そろそろ閉店の時間だ。
大粒の雨に加え、風も強まっていた。
ドアが酷く重い。
三浦は写真を握り潰すと、表に出た。
突風にコートを持っていかれそうになる。
フードを被ると、どしゃ降りの中歩き出した。
吹き付ける雨が視界を奪う。
逆に言えば、誰にも自分の存在が分からない。
打ち付ける雨の先にほんやりと看板が見える。
その光が消えた。
もどかしい思いで出てくる人影を待つ。
「すげぇ雨だな。
どしゃ降りだぜ。」
「予報によると、爆弾低気圧の通過で台風並みに荒れると言ってましたからね。」
「今日は飯に寄らないで、帰った方が良さそうだな。」
「風が強いから、落下物に気を付けて下さい。
では、おやすみなさい。」
「ナツキさん、お疲れっす。」
人影が一人と二人に別れた。
三浦は二つの影を追う。
「この雨だと、発展公園に人が集まりそうだな。」
前方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
雨音に負けない大声はワタルに違いない。
「この大雨の中ですか?」
大きく揺れる傘を持つ影が聞く。
こちらは中嶋だと見当が付いた。
「こんな雨だから集まるんですよ。
きっと台風クラブのメンバーは今頃ウズウズしてますよ。
ほらっ、おちょこになった。
これじゃ、傘は役に立たないな。」
もう一つの影が傘を閉じる。
「奇特な人がいるもんですね。」
「ちょっと寄って行こうかな?
どうせ、びしょ濡れだし。」
その言葉に三浦は笑みを溢した。
(つづく)
三浦は駐車場へ車を入れると、思い切りドアを蹴飛ばした。
後方に回り、ナンバープレートを確認する。
煤で汚れていて読み取り難い。
『警官が事前にナンバーを控えていなければいいが。』
一抹の不安は残る。
しかし犯罪を犯した訳ではない。
車内でマラを扱いていただけだ。
万が一、警官が来ても堂々としてればいい。
そう自分に言い聞かす。
駐車場は住宅街の中にあり、車が来れば直ぐに分かる。
左右を見渡し、ヘッドライトがない事を確認する。
雨粒が頬を濡らした。
ここからは歩いていくしかない。
雨宿りに車内へ戻る。
エンジンを切り、ライトを消す。
窓を叩く音が次第に大きくなっていく。
傘を探すが、車内に見当たらない。
雨脚は強まる一方で、止む気配はなさそうだ。
それより目先の問題はワタルだ。
何としても期限に間に合わせる必要がある。
この業界で、信頼を失ったらやっていけない。
二度と仕事は来ないだろう。
あんな昼行灯にこれ程、手を焼くとは思わなかった。
ワタルを裏で操る男がいる事は確かだ。
「確か…、なか…、中嶋だ。」
電話を掛けてきた男だ。
三浦は以前、隠し撮りしたスナップ写真を手帳から出す。
ワタルの左手にいる神経質そうな方が中嶋だろうと想像が付く。
右側の坊主は沖縄にいた筋肉馬鹿だ。
こいつは取るに足らんと、左側に視線を戻す。
短い髪を金色に染めているが、どこか垢抜けていない。
大学にいたガリ勉をカモフラージュする奴と同じだ。
『俺って勉強出来るけど、気さくなんだぜ。』
とでも言いそうな風貌に苛立ちを覚える。
そろそろ閉店の時間だ。
大粒の雨に加え、風も強まっていた。
ドアが酷く重い。
三浦は写真を握り潰すと、表に出た。
突風にコートを持っていかれそうになる。
フードを被ると、どしゃ降りの中歩き出した。
吹き付ける雨が視界を奪う。
逆に言えば、誰にも自分の存在が分からない。
打ち付ける雨の先にほんやりと看板が見える。
その光が消えた。
もどかしい思いで出てくる人影を待つ。
「すげぇ雨だな。
どしゃ降りだぜ。」
「予報によると、爆弾低気圧の通過で台風並みに荒れると言ってましたからね。」
「今日は飯に寄らないで、帰った方が良さそうだな。」
「風が強いから、落下物に気を付けて下さい。
では、おやすみなさい。」
「ナツキさん、お疲れっす。」
人影が一人と二人に別れた。
三浦は二つの影を追う。
「この雨だと、発展公園に人が集まりそうだな。」
前方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
雨音に負けない大声はワタルに違いない。
「この大雨の中ですか?」
大きく揺れる傘を持つ影が聞く。
こちらは中嶋だと見当が付いた。
「こんな雨だから集まるんですよ。
きっと台風クラブのメンバーは今頃ウズウズしてますよ。
ほらっ、おちょこになった。
これじゃ、傘は役に立たないな。」
もう一つの影が傘を閉じる。
「奇特な人がいるもんですね。」
「ちょっと寄って行こうかな?
どうせ、びしょ濡れだし。」
その言葉に三浦は笑みを溢した。
(つづく)
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