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Chapter11(物怪編)
Chapter11-⑦【ミッドナイト・シャッフル】前編
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陽射しが眩しい。
もう少し寝ていたい。
怖い夢を見た気がするが、今はすっかり忘れている。
だったらもう少し寝ても構わないだろう。
香ばしいコーヒーの薫りが鼻を擽る。
睡魔を掻き分けて、食欲が顔を擡げた。
「ふわぁー。」
両腕を広げ、伸びをする。
「おはようございます。
良く眠れましたか?」
その声で眠気が一気に退いていく。
驚いて声の方向を向く。
中嶋がキッチンに立っていた。
辺りを見回し、中嶋のマンションだと気付く。
「おっ、おはよう…。
俺、昨夜ここに来たんだっけ?」
ワタルはソファーから立ち上がると、記憶の欠片を掻き集める。
『昨夜は確か、独りで店を閉めて…、誰かが来た様な…。
サクだ!』
だが今の状況から判断すると、それは夢だったのかもしれない。
「昨日はここへ来て、ランマに尿道拡張をねだったそうですよ。
その貪欲さにランマも音を上げて、まだ寝てます。
さあ、そろそろ出掛けないと。
朝食を食べてしまいましょう。」
中嶋が茶碗をテーブルに置く。
しかしそれが嘘だと直ぐに分かる。
下腹部の痛みが、サクが店に現れた事を事実だと告げた。
「違約金を払うか、撮影するか、どっちにするんだ!」
ドスの効いた声と目の前で光る刃先をはっきりと思い出す。
「ナツキさんはいつ戻ってくるんですか?」
道すがら中嶋に聞く。
「明後日の予定です。」
その返事を聞いて、ワタルは憂鬱になる。
昨夜、どうやって危機を回避したのか覚えていない。
一つ分かっているのはその再訪が確実にやってくる事だ。
ナツキがいない事に不安が募る。
「あれっ、右手どうしたんですか?」
中嶋の右腕に包帯が巻かれていた。
「昨日、少し捻ってしまって。
念の為に湿布を貼りました。
少し大袈裟でしたね。」
もしかして自分を運ぶ所為ではないかと、益々気持ちが落ち込んだ。
ランマに監視を頼んだのが正解だった。
危うく拉致される所だ。
だがこれで終わりでない事を中嶋は承知している。
手段を選ばない奴等は相当焦っている筈だ。
間髪置かずに次の手を打ってくるだろう。
今日、明日が山だ。
ナツキが不在になって、初めてその存在感を痛感した。
昨夜、帰宅してリビングに点在する血痕に驚いた。
ソファーで寝ているワタルを見て安堵する。
脇でランマがうたた寝していた。
その右腕に真っ赤な絆創膏が貼ってある。
出血が酷く、絆創膏は何の意味もなしていない。
「どうしたんだ!」
思わず大声を出してしまう。
その声に目を覚ましたランマが中嶋と血痕を交互に見た。
「すいません、至急拭きます。」
「そんなのはどうでもいい!
その傷はどうしたんだと、聞いているんだ。」
中嶋は救急箱を取りに行く。
「ナイフを持っているとは知らず、油断しました。」
「腕を出せ。」
湿った絆創膏は抵抗なく剥がれた。
傷口はぱっくり開き、血が溢れ出る。
「こんな傷、唾を付けとけば直に止まります。」
中嶋は傷口に消毒液を注ぐ。
かなり滲みる筈だが、顔色一つ変えない。
ランマは痛覚が欠如していた。
「明日も出血が止まらなかったら、病気へ行け。」
包帯が巻き終わった所でランマに言う。
無駄だとは分かっているが。
(つづく)
もう少し寝ていたい。
怖い夢を見た気がするが、今はすっかり忘れている。
だったらもう少し寝ても構わないだろう。
香ばしいコーヒーの薫りが鼻を擽る。
睡魔を掻き分けて、食欲が顔を擡げた。
「ふわぁー。」
両腕を広げ、伸びをする。
「おはようございます。
良く眠れましたか?」
その声で眠気が一気に退いていく。
驚いて声の方向を向く。
中嶋がキッチンに立っていた。
辺りを見回し、中嶋のマンションだと気付く。
「おっ、おはよう…。
俺、昨夜ここに来たんだっけ?」
ワタルはソファーから立ち上がると、記憶の欠片を掻き集める。
『昨夜は確か、独りで店を閉めて…、誰かが来た様な…。
サクだ!』
だが今の状況から判断すると、それは夢だったのかもしれない。
「昨日はここへ来て、ランマに尿道拡張をねだったそうですよ。
その貪欲さにランマも音を上げて、まだ寝てます。
さあ、そろそろ出掛けないと。
朝食を食べてしまいましょう。」
中嶋が茶碗をテーブルに置く。
しかしそれが嘘だと直ぐに分かる。
下腹部の痛みが、サクが店に現れた事を事実だと告げた。
「違約金を払うか、撮影するか、どっちにするんだ!」
ドスの効いた声と目の前で光る刃先をはっきりと思い出す。
「ナツキさんはいつ戻ってくるんですか?」
道すがら中嶋に聞く。
「明後日の予定です。」
その返事を聞いて、ワタルは憂鬱になる。
昨夜、どうやって危機を回避したのか覚えていない。
一つ分かっているのはその再訪が確実にやってくる事だ。
ナツキがいない事に不安が募る。
「あれっ、右手どうしたんですか?」
中嶋の右腕に包帯が巻かれていた。
「昨日、少し捻ってしまって。
念の為に湿布を貼りました。
少し大袈裟でしたね。」
もしかして自分を運ぶ所為ではないかと、益々気持ちが落ち込んだ。
ランマに監視を頼んだのが正解だった。
危うく拉致される所だ。
だがこれで終わりでない事を中嶋は承知している。
手段を選ばない奴等は相当焦っている筈だ。
間髪置かずに次の手を打ってくるだろう。
今日、明日が山だ。
ナツキが不在になって、初めてその存在感を痛感した。
昨夜、帰宅してリビングに点在する血痕に驚いた。
ソファーで寝ているワタルを見て安堵する。
脇でランマがうたた寝していた。
その右腕に真っ赤な絆創膏が貼ってある。
出血が酷く、絆創膏は何の意味もなしていない。
「どうしたんだ!」
思わず大声を出してしまう。
その声に目を覚ましたランマが中嶋と血痕を交互に見た。
「すいません、至急拭きます。」
「そんなのはどうでもいい!
その傷はどうしたんだと、聞いているんだ。」
中嶋は救急箱を取りに行く。
「ナイフを持っているとは知らず、油断しました。」
「腕を出せ。」
湿った絆創膏は抵抗なく剥がれた。
傷口はぱっくり開き、血が溢れ出る。
「こんな傷、唾を付けとけば直に止まります。」
中嶋は傷口に消毒液を注ぐ。
かなり滲みる筈だが、顔色一つ変えない。
ランマは痛覚が欠如していた。
「明日も出血が止まらなかったら、病気へ行け。」
包帯が巻き終わった所でランマに言う。
無駄だとは分かっているが。
(つづく)
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