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Chapter11(物怪編)
Chapter11-⑥【Mr.ブラック・ジャック~裸の王様~】後編
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「延期は二ヶ月、いや一ヶ月あれば充分です。
必ず期限は厳守しますので…。
そうは仰らず、私にお任せ下さい。
はい、ご意向に添う様に致します。
ええ、勿論です。
メインモデルが少し体調を崩しただけですので。
既に撮影の手配は整っております。
ご安心下さい。」
電話を切る前にここを出なくてはと焦る。
「ええ、先日プレゼン致しました通りリアルな強姦物に変更はありません。
前作を越える映像になる事をお約束します。
はい、それは肝に銘じております。
では失礼します。」
リュックに手を伸ばした瞬間、電話が切れた。
万事休すだ。
引っ込めた掌を睨み付ける。
豆の数はワタルと変わらない筈だ。
だがその人生は大きく違う。
俺に陽が射す事はない。
ずっと日陰を歩く。
遅かれ早かれ、自分は地獄を味わう。
それが撮影時か、今かの違いだけだ。
少し早まっただけと、自分に言い聞かす。
『ルックスで劣る分、過激さが必須です。』
それは理解している。
俺の容姿でメインモデルになれる訳はない。
手に取る者は過激さだけを求めている。
陽を浴びるには奈落と引き換えにするしかないのだ。
「時間に余裕がなくなりました。
今から迎えに行きなさい。」
低い声で三浦が言う。
「と言われてもアイツ携帯番号を変えて、連絡取れないんだ…。
少し、時間くれよ…。」
手を引っ込めたサクはか細い声で訴える。
「聞こえなかったのですか?
時間がないと言ったでしょ!
二時間後、貴方をさっき拾った場所に連れてきなさい。
たったそれだけで貴方は名声と金が手に入るのです。
簡単な事ではないですか。
ここにいるワタルを連れ出すだけですから。
子供でも出来る造作もないおつかいですよ。」
三浦がポケットから紙を出す。
受け取った紙面を見る。
『今、話題のラバーがここで買える!』
ゲイショップのチラシだった。
「ここにアイツはいるのか?」
「貴方に運があればいるでしょう。
早く行かないと、残り時間は後一時間と50分ですよ。」
サクはリュックを引ったくると、慌てて部屋を出た。
「ここで逃げたらどうなるかな?」
自問自答する。
急な引越等、出来る訳がない。
囲まってくれる友人もいない。
最初から答えは分かっていた。
やるしかない事を。
裏面に書かれた住所を頼りに店を探す。
店は簡単に見付かった。
灯りが点いている事に安堵する。
男が出てきた。
咄嗟に物陰に身を隠す。
「では宜しくお願いします。」
中へ声を掛けるのが聞こえた。
男は駅に向かって歩き出す。
「買い物か?
帰ってくれりゃいいのに。」
時計を見ると、まだ一時間以上有余がある。
サクは男を追う。
駅に入ってくれれば、仕事が楽になる。
男が突然しゃがみ込む。
靴紐を直している様だ。
だがその動作に違和感を覚えた。
『気付かれた!』
本能が訴える。
男は小路に入るが、後を追わずに手前の電柱の影に身を寄せた。
息を潜ませ、呼吸を我慢する。
暫くすると、携帯を持つ男が戻ってきた。
真っ赤な顔をして、男が改札に入るのを見届ける。
やっと新鮮な空気を吸い込んだ。
(つづく)
必ず期限は厳守しますので…。
そうは仰らず、私にお任せ下さい。
はい、ご意向に添う様に致します。
ええ、勿論です。
メインモデルが少し体調を崩しただけですので。
既に撮影の手配は整っております。
ご安心下さい。」
電話を切る前にここを出なくてはと焦る。
「ええ、先日プレゼン致しました通りリアルな強姦物に変更はありません。
前作を越える映像になる事をお約束します。
はい、それは肝に銘じております。
では失礼します。」
リュックに手を伸ばした瞬間、電話が切れた。
万事休すだ。
引っ込めた掌を睨み付ける。
豆の数はワタルと変わらない筈だ。
だがその人生は大きく違う。
俺に陽が射す事はない。
ずっと日陰を歩く。
遅かれ早かれ、自分は地獄を味わう。
それが撮影時か、今かの違いだけだ。
少し早まっただけと、自分に言い聞かす。
『ルックスで劣る分、過激さが必須です。』
それは理解している。
俺の容姿でメインモデルになれる訳はない。
手に取る者は過激さだけを求めている。
陽を浴びるには奈落と引き換えにするしかないのだ。
「時間に余裕がなくなりました。
今から迎えに行きなさい。」
低い声で三浦が言う。
「と言われてもアイツ携帯番号を変えて、連絡取れないんだ…。
少し、時間くれよ…。」
手を引っ込めたサクはか細い声で訴える。
「聞こえなかったのですか?
時間がないと言ったでしょ!
二時間後、貴方をさっき拾った場所に連れてきなさい。
たったそれだけで貴方は名声と金が手に入るのです。
簡単な事ではないですか。
ここにいるワタルを連れ出すだけですから。
子供でも出来る造作もないおつかいですよ。」
三浦がポケットから紙を出す。
受け取った紙面を見る。
『今、話題のラバーがここで買える!』
ゲイショップのチラシだった。
「ここにアイツはいるのか?」
「貴方に運があればいるでしょう。
早く行かないと、残り時間は後一時間と50分ですよ。」
サクはリュックを引ったくると、慌てて部屋を出た。
「ここで逃げたらどうなるかな?」
自問自答する。
急な引越等、出来る訳がない。
囲まってくれる友人もいない。
最初から答えは分かっていた。
やるしかない事を。
裏面に書かれた住所を頼りに店を探す。
店は簡単に見付かった。
灯りが点いている事に安堵する。
男が出てきた。
咄嗟に物陰に身を隠す。
「では宜しくお願いします。」
中へ声を掛けるのが聞こえた。
男は駅に向かって歩き出す。
「買い物か?
帰ってくれりゃいいのに。」
時計を見ると、まだ一時間以上有余がある。
サクは男を追う。
駅に入ってくれれば、仕事が楽になる。
男が突然しゃがみ込む。
靴紐を直している様だ。
だがその動作に違和感を覚えた。
『気付かれた!』
本能が訴える。
男は小路に入るが、後を追わずに手前の電柱の影に身を寄せた。
息を潜ませ、呼吸を我慢する。
暫くすると、携帯を持つ男が戻ってきた。
真っ赤な顔をして、男が改札に入るのを見届ける。
やっと新鮮な空気を吸い込んだ。
(つづく)
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