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Chapter10(倒影編)
Chapter10-⑨【にくまれそうな NEWフェイス】前編
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「この先走りなら大丈夫でしょう。
6ミリを寄越して。」
中嶋がゴム手袋をした掌を開く。
ラバーマンが開封した袋から出した真新しいカテーテルを渡す。
医療ドラマで見る医者とナースの様だ。
「念のために、グリセリンゼリーを使います。
初回なので、たっぷり付けて。」
ラバーマンがチューブを押すと、透明なゼリーが先端を覆う。
重みの増した細いカテーテルが空中でゆらゆらと揺れた。
「これで痛みの心配はありません。
力を抜いて。
さあ、私に身を預けて。
禁断の圧迫感が待ってますよ。」
禁断、耳障りのいい単語だ。
人は禁じられると、一層欲する物だ。
ましてやミナトがそれを望んでいるのならば尚更だ。
「あれっ、携帯を変えたのですか?」
新しい携帯を触っているワタルに声を掛ける。
「もうゴーゴーを辞めたので、心機一転しようかと思ってキャリアも変えました。
新しい番号を送ります。」
直ぐに中嶋の携帯が震えた。
「今日は少し早く上がるので、最後店番を頼みます。」
その言葉にワタルの顔が曇る。
「とすると、今日は拡張なしですか?」
「カメラマンと撮影の打ち合わせがあるので、残念ながら。」
中嶋は少し気持ちが浮き立つ。
楽しみを奪われた子供の様な表情が自尊心を満たす。
「もし暇だったら、家に行ってても良いですよ。
ランマが相手してくれます。」
陽気さからそう付け加えた。
「レジを締めたら、現金はそのままにしておいて下さい。
入金は明日します。
では宜しくお願いします。」
中嶋は声を掛けると、店を後にする。
自転車は置いて、駅へ向かう。
ふと違和感を覚えた。
立ち止まり靴紐を直す。
瞳を閉じ、神経を集中する。
「目で見るな。
心で感じなさい。」
道場に通ってた頃、稽古の後に座禅の時間があった。
瞑想している中嶋に師はそう言ったのだ。
背後に微かな気配を感じる。
それは邪悪な気を伴っていた。
中嶋は立ち上がると、細い路地に入る。
そして電柱に身を寄せた。
だが追って来る者はいない。
「勘違いか。
鈍ったもんだ。
久し振りに道場へ顔を出してみるかな。」
中嶋は元の道に戻ると、携帯を耳に当て歩き出す。
その後ろ姿を見送る影が電柱の影と重なっていた。
「あっ、すいません。
もう閉店なんです。」
開いたドアに向かって声を掛ける。
パーカーを目深に被った男が立っていた。
その背格好に見覚えがある。
「おっ、サクか。
どうしたんだ?
珍しいな。」
不意の来訪に鼓動が高まる。
三浦の影を窺わせた。
「お前こそ、冷てぇな。
電話番号、変えたなら連絡しろよ。」
抑揚のない声に来訪の理由は含まれてない。
「悪いな。昨日、変えたばかりで、使い勝手がまだ分からないんだ。
で、どうしたんだ?」
「いや、何かあったのかと思ってな。
元気なら別にいいんだ。」
「心配してくれたのか?
もう店閉めるから、飯でも食わないか?」
中嶋の家に行くのは諦めて、サクを誘った。
(つづく)
6ミリを寄越して。」
中嶋がゴム手袋をした掌を開く。
ラバーマンが開封した袋から出した真新しいカテーテルを渡す。
医療ドラマで見る医者とナースの様だ。
「念のために、グリセリンゼリーを使います。
初回なので、たっぷり付けて。」
ラバーマンがチューブを押すと、透明なゼリーが先端を覆う。
重みの増した細いカテーテルが空中でゆらゆらと揺れた。
「これで痛みの心配はありません。
力を抜いて。
さあ、私に身を預けて。
禁断の圧迫感が待ってますよ。」
禁断、耳障りのいい単語だ。
人は禁じられると、一層欲する物だ。
ましてやミナトがそれを望んでいるのならば尚更だ。
「あれっ、携帯を変えたのですか?」
新しい携帯を触っているワタルに声を掛ける。
「もうゴーゴーを辞めたので、心機一転しようかと思ってキャリアも変えました。
新しい番号を送ります。」
直ぐに中嶋の携帯が震えた。
「今日は少し早く上がるので、最後店番を頼みます。」
その言葉にワタルの顔が曇る。
「とすると、今日は拡張なしですか?」
「カメラマンと撮影の打ち合わせがあるので、残念ながら。」
中嶋は少し気持ちが浮き立つ。
楽しみを奪われた子供の様な表情が自尊心を満たす。
「もし暇だったら、家に行ってても良いですよ。
ランマが相手してくれます。」
陽気さからそう付け加えた。
「レジを締めたら、現金はそのままにしておいて下さい。
入金は明日します。
では宜しくお願いします。」
中嶋は声を掛けると、店を後にする。
自転車は置いて、駅へ向かう。
ふと違和感を覚えた。
立ち止まり靴紐を直す。
瞳を閉じ、神経を集中する。
「目で見るな。
心で感じなさい。」
道場に通ってた頃、稽古の後に座禅の時間があった。
瞑想している中嶋に師はそう言ったのだ。
背後に微かな気配を感じる。
それは邪悪な気を伴っていた。
中嶋は立ち上がると、細い路地に入る。
そして電柱に身を寄せた。
だが追って来る者はいない。
「勘違いか。
鈍ったもんだ。
久し振りに道場へ顔を出してみるかな。」
中嶋は元の道に戻ると、携帯を耳に当て歩き出す。
その後ろ姿を見送る影が電柱の影と重なっていた。
「あっ、すいません。
もう閉店なんです。」
開いたドアに向かって声を掛ける。
パーカーを目深に被った男が立っていた。
その背格好に見覚えがある。
「おっ、サクか。
どうしたんだ?
珍しいな。」
不意の来訪に鼓動が高まる。
三浦の影を窺わせた。
「お前こそ、冷てぇな。
電話番号、変えたなら連絡しろよ。」
抑揚のない声に来訪の理由は含まれてない。
「悪いな。昨日、変えたばかりで、使い勝手がまだ分からないんだ。
で、どうしたんだ?」
「いや、何かあったのかと思ってな。
元気なら別にいいんだ。」
「心配してくれたのか?
もう店閉めるから、飯でも食わないか?」
中嶋の家に行くのは諦めて、サクを誘った。
(つづく)
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