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Chapter7(防砂編)
Chapter7-②【あの教室】前編
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「やりたい事って、就職の事か?」
コウキの声が追ってきた。
「まあな、俺は縄師になるんだ。
就職の役に立たない部活をダラダラ続けても、意味ないだろ。」
思わず嫌味を言ってしまう。
「ま、わ、し?」
素っ頓狂な声でヒロシが聞き返す。
「な、わ、し、だよ。
まあ、お子ちゃまの君達には分からないだろうがな。
兎に角、決めたんだ。
じゃあな。」
ヒナタは振り返る事なく、表に出た。
脛椎に少し痛みはあるが、気分は悪くない。
今日はタカユキと待ち合わせをしていた。
講義の内容等、全く頭に入らない。
机の上の携帯がメール受信を知らせる。
『一度、真面目に話さないか?』
タイトルだけ見て、コウキからのメールを削除した。
そっと後ろに目を向ける。
発信者の視線は黒板とノートを往復していた。
『授業に集中しながらも、俺の心配か。』
イライラは募る一方だ。
うざい気分を振り払う為に、昨夜のタカユキからの電話を思い返す。
「本当に、競パンを破ってしまいすみません。
代わりに新しいの買ったのですが…。」
ヒナタは苦笑いする。
水泳部を退部した奴に競パンをプレゼントするとは。
「あの競パンは凄く気に入ってたんすよ。
あー、惜しいな。
新品は山程持ってるっすよ。
あのクタった競パンじゃないと、意味ないっす。」
出来るだけ、無念さを全面に出す。
「でっ、出来る事は何でもします。
ほっ、他に欲しい物はないですか?
と、言ってもそんな高い物は無理ですが…。」
「本当に何でもするっすか?
口先だけじゃないでしょうね。
誠意を見せてくれれば、俺も諦めるっすけど。
物じゃなくて、態度で示して欲しいっすね。」
「はいっ、何でもします!」
「なら、明日会った時に『出来ません』はNGっよ。」
「あっ、はい…、決して言いません。」
困り顔が目に浮かぶ。
その表情を見ると、更に意地悪を言いたくなる。
従順な年上の存在が面白くて堪らない。
今時、下級生にもこんな奴はいない。
会話を思い出し、思わず笑ってしまう。
その拍子に肘がシャーペンに当たった。
机を転がったシャーペンが床に落ちる。
「おい、落ちたぞ。」
シャーペンを拾ったコウキが隣に座った。
講師が咎める視線を向ける。
「すみません。
黒板の字が小さくて見え難いので、席を替わります。」
コウキは見返す様に言った。
「ったく、しつけぇな。
ストーカーか、お前は?」
楽しい気分を害されて、ヒナタは悪態を吐く。
「お前、一体どうしたんだ?
おかしいぞ。
ヒロシも心配してる。」
ノートを取りながらコウキが言う。
最後に黒板を撮影する学生が増えた中、コウキは生真面目に書き写す。
『その真面目さがうぜぇんだよ。』
ヒナタはコウキを無視する。
「もう水泳部に戻れとは言わない。
お前が将来を見据えて退部するなら、仕方ない。
だが水泳を止める必要はないだろ。
これからもヒロシと三人で仲良くやっていこうぜ。」
その言葉を吐くコウキを見る。
『よくこんな胡散臭い事を平然と言えるもんだ。
お前は仲間を踏み台としか考えていねぇ癖に。
このペテン師が!』
(つづく)
コウキの声が追ってきた。
「まあな、俺は縄師になるんだ。
就職の役に立たない部活をダラダラ続けても、意味ないだろ。」
思わず嫌味を言ってしまう。
「ま、わ、し?」
素っ頓狂な声でヒロシが聞き返す。
「な、わ、し、だよ。
まあ、お子ちゃまの君達には分からないだろうがな。
兎に角、決めたんだ。
じゃあな。」
ヒナタは振り返る事なく、表に出た。
脛椎に少し痛みはあるが、気分は悪くない。
今日はタカユキと待ち合わせをしていた。
講義の内容等、全く頭に入らない。
机の上の携帯がメール受信を知らせる。
『一度、真面目に話さないか?』
タイトルだけ見て、コウキからのメールを削除した。
そっと後ろに目を向ける。
発信者の視線は黒板とノートを往復していた。
『授業に集中しながらも、俺の心配か。』
イライラは募る一方だ。
うざい気分を振り払う為に、昨夜のタカユキからの電話を思い返す。
「本当に、競パンを破ってしまいすみません。
代わりに新しいの買ったのですが…。」
ヒナタは苦笑いする。
水泳部を退部した奴に競パンをプレゼントするとは。
「あの競パンは凄く気に入ってたんすよ。
あー、惜しいな。
新品は山程持ってるっすよ。
あのクタった競パンじゃないと、意味ないっす。」
出来るだけ、無念さを全面に出す。
「でっ、出来る事は何でもします。
ほっ、他に欲しい物はないですか?
と、言ってもそんな高い物は無理ですが…。」
「本当に何でもするっすか?
口先だけじゃないでしょうね。
誠意を見せてくれれば、俺も諦めるっすけど。
物じゃなくて、態度で示して欲しいっすね。」
「はいっ、何でもします!」
「なら、明日会った時に『出来ません』はNGっよ。」
「あっ、はい…、決して言いません。」
困り顔が目に浮かぶ。
その表情を見ると、更に意地悪を言いたくなる。
従順な年上の存在が面白くて堪らない。
今時、下級生にもこんな奴はいない。
会話を思い出し、思わず笑ってしまう。
その拍子に肘がシャーペンに当たった。
机を転がったシャーペンが床に落ちる。
「おい、落ちたぞ。」
シャーペンを拾ったコウキが隣に座った。
講師が咎める視線を向ける。
「すみません。
黒板の字が小さくて見え難いので、席を替わります。」
コウキは見返す様に言った。
「ったく、しつけぇな。
ストーカーか、お前は?」
楽しい気分を害されて、ヒナタは悪態を吐く。
「お前、一体どうしたんだ?
おかしいぞ。
ヒロシも心配してる。」
ノートを取りながらコウキが言う。
最後に黒板を撮影する学生が増えた中、コウキは生真面目に書き写す。
『その真面目さがうぜぇんだよ。』
ヒナタはコウキを無視する。
「もう水泳部に戻れとは言わない。
お前が将来を見据えて退部するなら、仕方ない。
だが水泳を止める必要はないだろ。
これからもヒロシと三人で仲良くやっていこうぜ。」
その言葉を吐くコウキを見る。
『よくこんな胡散臭い事を平然と言えるもんだ。
お前は仲間を踏み台としか考えていねぇ癖に。
このペテン師が!』
(つづく)
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