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Chapter6(港川編)
Chapter6-⑥【海の声】前編
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「ああ、空港でな。」
小さくなる後ろ姿に声を掛けた。
「奥まで行ってみるか。」
チカラは重い腰を上げる。
塩水が染み、痛みが絶え間なく続く。
こんな事なら薬を貰っておけば良かったと後悔する。
それに加え、タイムリミットが迫っていた。
痛みと焦りで脂汗が浮かぶ。
万が一、飛行機に乗り遅れたら、大惨事だ。
旅費は既に三倍以上掛かっていた。
潮が引いた所為で奥の浜辺は賑わっていた。
だがナツキの姿はない。
「何処にいんだよ!」
「もう三時半だよ。」
四時には出発しないと、間に合わない。
ナツキのしそうな事を考える。
海にはいない。
既に射精していれば、寝ている筈だ。
寝るには何処が最適か?
「あっ!」
答えが見えた。
「おい、戻るぞ!」
全速で浜を走り出す。
「ちょっと、何処行くの?」
「車だ!」
チカラの叫び声は入り江に飲み込まれた。
エアコンの効いた車内でナツキは寝ていた。
「悪かったな。」
汗だくのセイルに謝る。
「これで本当にお別れだね。」
「絶対、東京へ来い。
もうお前のじゃないと、満足出来ねぇみたいだ。」
アナルが訴えた。
「夏休みに行く様にするよ。
それまでキャットスーツ着て、悶々としてて。」
セイルがスキンヘッドに舌を這わす。
「しょっぱい!」
「おい、普通別れのキスは口にするもんだぜ。」
「俺達の何処が普通なんだよ。」
セイルの舌が鼻筋を通り、唇に移動する。
「お前達、いちゃつくなら、ドアを閉めてしろ。
暑くて、おちおち寝てもいられねぇ。」
寝てると思ったナツキのダミ声で、最後のキスはお預けとなった。
「なっ、ナツキさん!
何処行ってたんですか!」
久し振りにショップに顔を出すと、中嶋が走り寄ってきた。
「ちょい旅に出てた。」
「海外ですか?
何度も電話したのに、ずっと圏外でした。」
「そうだったな。
携帯の存在をすっかり忘れてた。
俺は充電コードなんて持ち歩かない主義だ。
電池が切れればそれ迄だ。
お前のコードを寄越せ。」
「それって、威張って言う事ですか!
大学生達が騙されたと騒いで、大変だったんです。
肝心のナツキさんと連絡付かないんじゃ、リスケも出来ないし。」
中嶋は微笑みながら電源ケーブルを差し出す。
ここに来た時のノイローゼの男とは別人だ。
短く切った髪を金髪に染め、生気が漲っていた。
「取り敢えず体調を崩しているから、出社次第連絡すると言ってありますが…。
でもこんなに日焼けしてたら、直ぐ嘘だってバレますね。」
「バカな奴等だ。
顔色が悪いと言えば信じるぜ。」
「まさか!でもお陰で、ストックは全部捌けました。
大学生達に連絡していいですか?
今日の予定は?」
「連絡してくれ。
明日には名古屋に戻るつもりだ。
今日がイベントの最終日だと言っとけ。」
店内をそぞろ歩く。
中嶋の性格らしく、良く整理整頓されいていた。
だがインパクトがない。
本屋や文具屋ならこれでいいだろう。
ここに来るのは欲望に駆られ、悶々とした奴等だ。
そいつらに一品でも多く買わせるには何かが足りない。
(つづく)
小さくなる後ろ姿に声を掛けた。
「奥まで行ってみるか。」
チカラは重い腰を上げる。
塩水が染み、痛みが絶え間なく続く。
こんな事なら薬を貰っておけば良かったと後悔する。
それに加え、タイムリミットが迫っていた。
痛みと焦りで脂汗が浮かぶ。
万が一、飛行機に乗り遅れたら、大惨事だ。
旅費は既に三倍以上掛かっていた。
潮が引いた所為で奥の浜辺は賑わっていた。
だがナツキの姿はない。
「何処にいんだよ!」
「もう三時半だよ。」
四時には出発しないと、間に合わない。
ナツキのしそうな事を考える。
海にはいない。
既に射精していれば、寝ている筈だ。
寝るには何処が最適か?
「あっ!」
答えが見えた。
「おい、戻るぞ!」
全速で浜を走り出す。
「ちょっと、何処行くの?」
「車だ!」
チカラの叫び声は入り江に飲み込まれた。
エアコンの効いた車内でナツキは寝ていた。
「悪かったな。」
汗だくのセイルに謝る。
「これで本当にお別れだね。」
「絶対、東京へ来い。
もうお前のじゃないと、満足出来ねぇみたいだ。」
アナルが訴えた。
「夏休みに行く様にするよ。
それまでキャットスーツ着て、悶々としてて。」
セイルがスキンヘッドに舌を這わす。
「しょっぱい!」
「おい、普通別れのキスは口にするもんだぜ。」
「俺達の何処が普通なんだよ。」
セイルの舌が鼻筋を通り、唇に移動する。
「お前達、いちゃつくなら、ドアを閉めてしろ。
暑くて、おちおち寝てもいられねぇ。」
寝てると思ったナツキのダミ声で、最後のキスはお預けとなった。
「なっ、ナツキさん!
何処行ってたんですか!」
久し振りにショップに顔を出すと、中嶋が走り寄ってきた。
「ちょい旅に出てた。」
「海外ですか?
何度も電話したのに、ずっと圏外でした。」
「そうだったな。
携帯の存在をすっかり忘れてた。
俺は充電コードなんて持ち歩かない主義だ。
電池が切れればそれ迄だ。
お前のコードを寄越せ。」
「それって、威張って言う事ですか!
大学生達が騙されたと騒いで、大変だったんです。
肝心のナツキさんと連絡付かないんじゃ、リスケも出来ないし。」
中嶋は微笑みながら電源ケーブルを差し出す。
ここに来た時のノイローゼの男とは別人だ。
短く切った髪を金髪に染め、生気が漲っていた。
「取り敢えず体調を崩しているから、出社次第連絡すると言ってありますが…。
でもこんなに日焼けしてたら、直ぐ嘘だってバレますね。」
「バカな奴等だ。
顔色が悪いと言えば信じるぜ。」
「まさか!でもお陰で、ストックは全部捌けました。
大学生達に連絡していいですか?
今日の予定は?」
「連絡してくれ。
明日には名古屋に戻るつもりだ。
今日がイベントの最終日だと言っとけ。」
店内をそぞろ歩く。
中嶋の性格らしく、良く整理整頓されいていた。
だがインパクトがない。
本屋や文具屋ならこれでいいだろう。
ここに来るのは欲望に駆られ、悶々とした奴等だ。
そいつらに一品でも多く買わせるには何かが足りない。
(つづく)
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