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Chapter4(利達編)
Chapter4-⑪【左胸の勇気】前編
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「ねっ、どうなのよ!
何か言いなさい!」
児玉が振り返る。
「セイッ!」
直ぐ背後にいた中嶋が足を振り上げた。
児玉は左腕でガードする。
気合いの入った蹴りに堪えきれず、体勢を崩す。
踏ん張った足元が血で滑り、尻餅を搗く。
勢い余った児玉がナツキに向かって飛んできた。
このままではナツキがクッションになってしまう。
児玉の蹴りやパンチは素人の物ではない。
打撃系格闘技の経験者だ。
奇襲以外で、中嶋に勝ち目はない。
このチャンスを逃したら、逆転は無理だ。
身体が勝手に動く。
咄嗟に床を蹴り、椅子ごと後ろに倒れる。
後頭部にまた激しい痛みが走った。
目の前で星が瞬く。
『ゴツッ!』
児玉の頭が椅子の脚に当たり、鈍い音がした。
星の向こうには天井しか見えない。
朦朧とした意識の中で、次に誰が言葉を発するか待つ。
『児玉か?中嶋か?』
「大丈夫ですか?」
「大丈夫な訳ないだろ。」
言葉の主が中嶋である事に安堵する。
中嶋が縄を解こうとするが、力の入らない腕に顔を顰めた。
「ん?お前、手錠はどうしたんだ?」
ナツキは怪訝な声を出す。
先程、無惨に食い込んでいた手錠の片方が外れていた。
「これは安全装置で簡単に外れるのです。
鍵が壊れた時の為に。
ここの商品にそんな本格的な物はありませんよ。」
中嶋が笑顔で答えた。
解いた縄で児玉を縛る。
流石にここまでされては警察に通報するしかない。
「お前の蹴りは気合いが入ってたな。
何かしてたのか?」
電話を切った中嶋に聞く。
「ええ、空手を習ってました。
と言っても専門は型ですが。」
はにかんだ顔が答える。
「だっ、だったらもっと早くなんとかしろよ。」
思わず文句が口を衝いた。
「空手は己の鍛練であり、相手を傷付ける為ではなく…。
これが師の教えです。」
中嶋は平然と言う。
「お前…、真面目か…。」
ナツキはそう言うのがやっとだった。
「よっ、久し振りだな。」
ナツキの声に二人が振り向く。
タクヤとコウスケは瞬きひとつせず、ナツキを見詰めた。
「どっ、どうしたんだ?
その顔…?」
タクヤが言葉を絞り出す。
「いや、参ったぜ。
あのババア思いの外、重いパンチでよ。
俺が機転を利かせなかったら、万事休すだったぜ。」
ナツキは座るなり、紫に腫れた顔をお絞りで拭く。
「だからあれ程、相手にするなと言ったのに…。」
話を聞き終わったタクヤが溜め息交じりに言う。
「それよか、何処行くんだ?
流行りの店って、何処だ?」
ナツキはタクヤのビールを一気に飲み干す。
「あのな…、お前その顔で入れてくれる店なんて、あると思うか。
普通にしてても人相悪いのにさ、今はどう見ても逃走犯だぞ。」
タクヤが呆れ顔で言った。
「それに絆創膏から血が出てるぜ。
縫った方がいいんじゃねえか。」
コウスケも心配そうに傷口を見る。
「こんなの傷の内にはいらねぇ。
絆創膏貼っておけば、その内治るさ。」
今度はコウスケのビールに手を伸ばす。
タクヤは仕方なく手を挙げ、店員を呼んだ。
(つづく)
何か言いなさい!」
児玉が振り返る。
「セイッ!」
直ぐ背後にいた中嶋が足を振り上げた。
児玉は左腕でガードする。
気合いの入った蹴りに堪えきれず、体勢を崩す。
踏ん張った足元が血で滑り、尻餅を搗く。
勢い余った児玉がナツキに向かって飛んできた。
このままではナツキがクッションになってしまう。
児玉の蹴りやパンチは素人の物ではない。
打撃系格闘技の経験者だ。
奇襲以外で、中嶋に勝ち目はない。
このチャンスを逃したら、逆転は無理だ。
身体が勝手に動く。
咄嗟に床を蹴り、椅子ごと後ろに倒れる。
後頭部にまた激しい痛みが走った。
目の前で星が瞬く。
『ゴツッ!』
児玉の頭が椅子の脚に当たり、鈍い音がした。
星の向こうには天井しか見えない。
朦朧とした意識の中で、次に誰が言葉を発するか待つ。
『児玉か?中嶋か?』
「大丈夫ですか?」
「大丈夫な訳ないだろ。」
言葉の主が中嶋である事に安堵する。
中嶋が縄を解こうとするが、力の入らない腕に顔を顰めた。
「ん?お前、手錠はどうしたんだ?」
ナツキは怪訝な声を出す。
先程、無惨に食い込んでいた手錠の片方が外れていた。
「これは安全装置で簡単に外れるのです。
鍵が壊れた時の為に。
ここの商品にそんな本格的な物はありませんよ。」
中嶋が笑顔で答えた。
解いた縄で児玉を縛る。
流石にここまでされては警察に通報するしかない。
「お前の蹴りは気合いが入ってたな。
何かしてたのか?」
電話を切った中嶋に聞く。
「ええ、空手を習ってました。
と言っても専門は型ですが。」
はにかんだ顔が答える。
「だっ、だったらもっと早くなんとかしろよ。」
思わず文句が口を衝いた。
「空手は己の鍛練であり、相手を傷付ける為ではなく…。
これが師の教えです。」
中嶋は平然と言う。
「お前…、真面目か…。」
ナツキはそう言うのがやっとだった。
「よっ、久し振りだな。」
ナツキの声に二人が振り向く。
タクヤとコウスケは瞬きひとつせず、ナツキを見詰めた。
「どっ、どうしたんだ?
その顔…?」
タクヤが言葉を絞り出す。
「いや、参ったぜ。
あのババア思いの外、重いパンチでよ。
俺が機転を利かせなかったら、万事休すだったぜ。」
ナツキは座るなり、紫に腫れた顔をお絞りで拭く。
「だからあれ程、相手にするなと言ったのに…。」
話を聞き終わったタクヤが溜め息交じりに言う。
「それよか、何処行くんだ?
流行りの店って、何処だ?」
ナツキはタクヤのビールを一気に飲み干す。
「あのな…、お前その顔で入れてくれる店なんて、あると思うか。
普通にしてても人相悪いのにさ、今はどう見ても逃走犯だぞ。」
タクヤが呆れ顔で言った。
「それに絆創膏から血が出てるぜ。
縫った方がいいんじゃねえか。」
コウスケも心配そうに傷口を見る。
「こんなの傷の内にはいらねぇ。
絆創膏貼っておけば、その内治るさ。」
今度はコウスケのビールに手を伸ばす。
タクヤは仕方なく手を挙げ、店員を呼んだ。
(つづく)
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