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Chapter3(立身編)
Chapter3-⑩【僕以外の誰か】前編
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四時半に駐車場へ行くと、既に塚田が待機していた。
昨夜、奴が解放されたのは深夜零時を回って筈だ。
『こいつは何時寝てるんだ?』
ビシッと固められたオールバックの髪を見て、ナツキは首を傾げる。
「ジムへ直行して宜しいでしょうか?」
信号に照らされた赤い顔の塚田が聞く。
神志那は黙ったままだ。
「そうしてくれ。」
神志那の言いそうな事を代わりに答える。
「畏まりました。」
塚田が返事をすると、車内は沈黙が続く。
静寂を神志那が破った。
「今日からナツキの指示は俺の物と思え。
他の支配人にも徹底しておけ。」
ナツキはその言葉に瞳を閉じる。
高揚が悟られぬ様に寝た振りをした。
ナツキはスーツを脱ぎ、プロテクター付きのシングレット姿になる。
以前、トモヤが着ていたウェアだ。
トレーニングエリアに降りていくと、神志那は既にベンチプレスをしていた。
赤色タイツにメッシュのロングスリーブを着ている。
浮かび上がった血管が今にも切れそうだ。
「格闘時に多少は役立つ筈だ。」
立ち上がった神志那がプロテクターを叩く。
「そうか…。」
その言葉を発したナツキは違和感を覚えた。
「やはり社長の前では普段通りに話しますよ。
他の者の前ではちゃんと喋るんで。」
ナツキは宣言する。
「そうか、勝手にしろ。
次はお前の番だ。」
怒鳴られると思ったが、簡単に納得した。
ナツキは意気揚々とベンチに横たわると、バーを握る。
『お前の予想は外れたな。』
心の中でカズユキに語り掛けた。
久し振りの筋トレに筋肉が歓喜した。
80キロを軽々と持ち上げる。
普段ならマックス重量から始めるナツキにとって、ウォーミングアップ等不要だ。
見下ろす視線を睨み返す。
「次はマックス頼む。」
バーを下ろし、胸を張る。
覗き込む口角が上がった。
同時に拳が急所を狙う。
バーを離す訳にはいかず、避ける事が出来なかった。
痛みはさほどでもない。
プロテクターが衝撃を緩衝してくれた様だ。
「トレーニング中も気を抜くな。
人に背を見せるな。
これからはお前の足を引っ張る奴ばかりが寄って来るぞ。
決して油断するな。
誰が味方で、誰が敵か見極めろ。」
神志那がバーを引き上げてくれた。
『敵ばかりか。』
溜息が零れる。
ゆっくり起き上がると、正面に立つ塚田と視線が合った。
胸ばかりの筋トレが90分続く。
「早番の社員が来ました。
そろそろお着替えをお願いします。」
塚田が声を掛けてきた。
「そうか、もうそんな時間か。
パートナーがいると、時間が過ぎるのが早い。
時を忘れた。」
神志那は汗を拭いたタオルを塚田に渡す。
「俺は午前中、雑務をこなしてくる。
お前はまだトレーニングしてるか?」
塚田が渡すシャツに手を通しながら聞いてきた。
「そうだな。
俺はもう暫くやっていく。」
塚田の手前、神志那を真似て言う。
ネクタイを持つ塚田の手が止まる。
「なら終わったら支配人室へ来い。」
ネクタイを締めた神志那は経営者の顔に戻っていた。
(つづく)
昨夜、奴が解放されたのは深夜零時を回って筈だ。
『こいつは何時寝てるんだ?』
ビシッと固められたオールバックの髪を見て、ナツキは首を傾げる。
「ジムへ直行して宜しいでしょうか?」
信号に照らされた赤い顔の塚田が聞く。
神志那は黙ったままだ。
「そうしてくれ。」
神志那の言いそうな事を代わりに答える。
「畏まりました。」
塚田が返事をすると、車内は沈黙が続く。
静寂を神志那が破った。
「今日からナツキの指示は俺の物と思え。
他の支配人にも徹底しておけ。」
ナツキはその言葉に瞳を閉じる。
高揚が悟られぬ様に寝た振りをした。
ナツキはスーツを脱ぎ、プロテクター付きのシングレット姿になる。
以前、トモヤが着ていたウェアだ。
トレーニングエリアに降りていくと、神志那は既にベンチプレスをしていた。
赤色タイツにメッシュのロングスリーブを着ている。
浮かび上がった血管が今にも切れそうだ。
「格闘時に多少は役立つ筈だ。」
立ち上がった神志那がプロテクターを叩く。
「そうか…。」
その言葉を発したナツキは違和感を覚えた。
「やはり社長の前では普段通りに話しますよ。
他の者の前ではちゃんと喋るんで。」
ナツキは宣言する。
「そうか、勝手にしろ。
次はお前の番だ。」
怒鳴られると思ったが、簡単に納得した。
ナツキは意気揚々とベンチに横たわると、バーを握る。
『お前の予想は外れたな。』
心の中でカズユキに語り掛けた。
久し振りの筋トレに筋肉が歓喜した。
80キロを軽々と持ち上げる。
普段ならマックス重量から始めるナツキにとって、ウォーミングアップ等不要だ。
見下ろす視線を睨み返す。
「次はマックス頼む。」
バーを下ろし、胸を張る。
覗き込む口角が上がった。
同時に拳が急所を狙う。
バーを離す訳にはいかず、避ける事が出来なかった。
痛みはさほどでもない。
プロテクターが衝撃を緩衝してくれた様だ。
「トレーニング中も気を抜くな。
人に背を見せるな。
これからはお前の足を引っ張る奴ばかりが寄って来るぞ。
決して油断するな。
誰が味方で、誰が敵か見極めろ。」
神志那がバーを引き上げてくれた。
『敵ばかりか。』
溜息が零れる。
ゆっくり起き上がると、正面に立つ塚田と視線が合った。
胸ばかりの筋トレが90分続く。
「早番の社員が来ました。
そろそろお着替えをお願いします。」
塚田が声を掛けてきた。
「そうか、もうそんな時間か。
パートナーがいると、時間が過ぎるのが早い。
時を忘れた。」
神志那は汗を拭いたタオルを塚田に渡す。
「俺は午前中、雑務をこなしてくる。
お前はまだトレーニングしてるか?」
塚田が渡すシャツに手を通しながら聞いてきた。
「そうだな。
俺はもう暫くやっていく。」
塚田の手前、神志那を真似て言う。
ネクタイを持つ塚田の手が止まる。
「なら終わったら支配人室へ来い。」
ネクタイを締めた神志那は経営者の顔に戻っていた。
(つづく)
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