妄想日記5<<DISPARITY>>

YAMATO

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Chapter3(立身編)

Chapter3-⑨【僕がいる場所】後編

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点滅する携帯が陽気な気分を一気に壊した。
未読メールが27と表示されている。
一瞬、矢吹からかと思ったが、そうではない事が直ぐに分かった。
全てのメールの送信者は児玉の名前だ。
一件目を開いてみる。
『ちょっと急に辞めるって、どういう事よ!
しかもメールで知らせるなんて、人として失格よ。
あんたがいるからシドニーのチケット取っちゃったのよ。
康生ちゃんの応援どうしてくれるの!
兎に角、連絡してきなさい!』
ナツキは笑うしかない。
読む事なく、全てのメールを削除する。
不在通知も10を残していた。
「メールが駄目って事は手紙が良かったのか?」
凄い執念だと、身震いする。
ナツキは児玉を見くびっていたのだ。
 
携帯を操作してると、着信音が響き渡った。
また児玉かと思って電話に出る。
「よっ、新しい職場はどうだ?」
意外にも相手はタクヤだった。
「ああ、まあまあだ。」
「お前のまあまあは最上級の誉め言葉だな。
そんな幸先の時に言い憎いんだが…。」
タクヤが言い淀む。
「どうした?
お前らしくねぇな。」
「実はさ、児玉さんが凄い剣幕なんだ。
お前の居場所を教えろって、押し掛けて来たんだ。」
「お前の家にか?」
「そうだ。入会時に書いた住所を調べて来たんだ。
奴はかなり執念深いぞ。」
「ああ、知ってる。」
ナツキは軽く笑う。
 
「お前、笑い事じゃないぞ。
これは噂だが、別れ話を切り出した恋人をノイローゼに追い込んだらしいぜ。」
「単なる噂だろ。」
ナツキはまだ児玉の恐ろしさを知らない。
「満更そうでもないらしいぜ。
親の遺産で悠々自適に暮らして、あの流行らないジムを遊び半分でやってんだ。
もう何十年も好き放題に暮らしてる。
思い通りにならない事があると、我慢出来ないだな。
時間と金を掛けて、ねちねち嫌がらせしてるらしいぞ。」
「あんな奴に大した事出来ねぇさ。
腕でもへし折って、追っ払ってやるさ。
ゴキブリ退治は得意なんだ。」
ナツキは笑い飛ばす。
 
「兎に角、絶対に電話に出るな!
メールも返すな!
居場所を知らせるなんて、もっての他だぞ!
分かったか!」
タクヤの大声に思わず携帯を耳から離す。
ナツキは黒光りした児玉の顔を思い出した。
ここにも狂人がいたかと、笑みを溢す。
「ああ、分かったよ。
だがその前に居場所も何も、ここの住所なんて知らねぇしな。」
「マジか!お前、自分の住所も知らないのか?」
「ああ、別に必要ねぇしな。」
ナツキは事もなく言う。
そんな些細な事より、神志那に言われた影武者という単語が頭から離れない。
「俺もさ、ジム変えようと思ってんだけど、簡単に辞めさせてくれるか…。」
最後は溜め息で掻き消された。
「そんなの簡単だ。
ぶん殴って、もう来るなと言わせりゃいいのさ。
じゃあな。」
ナツキは電話を切ると、ベッドに倒れ込む。
一気に睡魔が襲ってきた。
眠り際にカズユキの夢を見た。
「あまり調子に乗ると、痛い目に遭うよ。」
カズユキが心配げに微笑んだ。
 
 
(つづく)
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