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Chapter2(復讐編)
Chapter2-④【Lifetime Respect】後編
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無罪放免となったが、渡部支配人から解雇を言い渡された。
「そんな、馬鹿な。
ナツキは少しも悪くないのに。」
シンゴが庇うが、渡部は黙って部屋から出て行く。
「仕方ないっすよ。
クビは支配人でなく、本部からの指示だと、ユウコさんから聞いたんで。」
ここは心証を良くしておいた方が得策だろう。
そう判断し、神妙な面持ちで支配人の肩を持つ。
「でもよ…。」
「バイトは幾らでもあるし。
それよりシンゴさんと離れるのが寂しいっすよ。」
「だよな。だったら餞別に何か買ってやろうか?」
シナリオ通りの台詞が返ってきた。
「だったらそのロンスパ貰えないっすか?
それシンゴさんだと思って、大事に穿くっす。」
シンゴの穿いている薄手のロングスパッツを見詰める。
黒い生地はラバーに似ていて、淫靡な光沢を放っていた。
「こっ、これか?
これ高かったんだよな。
ババア達にも評判良かったしさ。
他じゃダメか?」
目に見えて狼狽えていく。
「それがいいっす!」
「しょうがねぇな。
じゃあ、やるよ。」
その答えに内心舌を出す。
兒玉からバイトの誘いを受けていたのだ。
年配者の多いジムより、ゲイ向けの方が刺激的に思えた。
辞める口実を探していた矢先の出来事で、正に渡りに船だ。
ただ一つ不満なのが、兒玉ジムは夕方からのシフトだけだった。
「昼間はお客様が少ないから、早く来てトレーニングしたり、タンニングマシンを使
うのは自由よ。
但し、時給を払うのは夕方五時以降から。」
兒玉の言葉を思い返す。
ジムが使い放題はありがたい。
しかし30キロ迄のダンベルしか置いてないので、ナツキには不充分だ。
40キロのダンベルを買う様に言ってみる事を思い立つ。
「よっ、ちゃんと仕事してるか?」
バイト初日にタクヤが現れた。
「おいっ、もっと重いダンベルを買ってくれと、兒玉さんに言えよ。」
早々にナツキは言う。
「お前さ、俺と幾つ違うと思ってんだ。
五才違うんだぞ。
もっと丁寧に接しろ。」
タクヤが苦笑した。
「ああっ、分かった。
兎に角、頼んでくれよ。
客が言った方が効果あるからな。」
両手を合わせる。
「ちっ、勝手だな。
帰り際に言ってやるよ。
さて、今日も一番乗りか。
何するかな。」
タクヤがフロアを見渡す。
「所が、先客がいるぞ。」
奥のパワーラックを指差す。
目線の先で、男がスクワットをしていた。
「見掛けねぇ、顔だな。
この冴えないジムに新入りか。
でもよ、結構イケた格好してるな。」
隣で舌舐めずりするのを見て、ナツキも視線を送る。
小柄な猿顔の男が尻を突き出して、スクワットしていた。
身に付けているのは小さなアニマル地のTバックだけだ。
「キャー!なっちゃん、ちょっと来て!
早く、早く、大至急!」
兒玉の悲鳴が轟く。
「どっ、どうしたんすか?」
慌ててフロントへ駆けつける。
「ゴ、ゴキブリが出たの!
何とかして!」
両手で顔を覆った兒玉が訴えた。
「これは業務外だから、特別料金貰いますよ。」
「あげるわよ。
今日のバイト代に一時間足しておくから、早くやっつけて!」
ナツキは来客用のスリッパを持つと、ゴキブリ退治に汗を掻く。
(つづく)
「そんな、馬鹿な。
ナツキは少しも悪くないのに。」
シンゴが庇うが、渡部は黙って部屋から出て行く。
「仕方ないっすよ。
クビは支配人でなく、本部からの指示だと、ユウコさんから聞いたんで。」
ここは心証を良くしておいた方が得策だろう。
そう判断し、神妙な面持ちで支配人の肩を持つ。
「でもよ…。」
「バイトは幾らでもあるし。
それよりシンゴさんと離れるのが寂しいっすよ。」
「だよな。だったら餞別に何か買ってやろうか?」
シナリオ通りの台詞が返ってきた。
「だったらそのロンスパ貰えないっすか?
それシンゴさんだと思って、大事に穿くっす。」
シンゴの穿いている薄手のロングスパッツを見詰める。
黒い生地はラバーに似ていて、淫靡な光沢を放っていた。
「こっ、これか?
これ高かったんだよな。
ババア達にも評判良かったしさ。
他じゃダメか?」
目に見えて狼狽えていく。
「それがいいっす!」
「しょうがねぇな。
じゃあ、やるよ。」
その答えに内心舌を出す。
兒玉からバイトの誘いを受けていたのだ。
年配者の多いジムより、ゲイ向けの方が刺激的に思えた。
辞める口実を探していた矢先の出来事で、正に渡りに船だ。
ただ一つ不満なのが、兒玉ジムは夕方からのシフトだけだった。
「昼間はお客様が少ないから、早く来てトレーニングしたり、タンニングマシンを使
うのは自由よ。
但し、時給を払うのは夕方五時以降から。」
兒玉の言葉を思い返す。
ジムが使い放題はありがたい。
しかし30キロ迄のダンベルしか置いてないので、ナツキには不充分だ。
40キロのダンベルを買う様に言ってみる事を思い立つ。
「よっ、ちゃんと仕事してるか?」
バイト初日にタクヤが現れた。
「おいっ、もっと重いダンベルを買ってくれと、兒玉さんに言えよ。」
早々にナツキは言う。
「お前さ、俺と幾つ違うと思ってんだ。
五才違うんだぞ。
もっと丁寧に接しろ。」
タクヤが苦笑した。
「ああっ、分かった。
兎に角、頼んでくれよ。
客が言った方が効果あるからな。」
両手を合わせる。
「ちっ、勝手だな。
帰り際に言ってやるよ。
さて、今日も一番乗りか。
何するかな。」
タクヤがフロアを見渡す。
「所が、先客がいるぞ。」
奥のパワーラックを指差す。
目線の先で、男がスクワットをしていた。
「見掛けねぇ、顔だな。
この冴えないジムに新入りか。
でもよ、結構イケた格好してるな。」
隣で舌舐めずりするのを見て、ナツキも視線を送る。
小柄な猿顔の男が尻を突き出して、スクワットしていた。
身に付けているのは小さなアニマル地のTバックだけだ。
「キャー!なっちゃん、ちょっと来て!
早く、早く、大至急!」
兒玉の悲鳴が轟く。
「どっ、どうしたんすか?」
慌ててフロントへ駆けつける。
「ゴ、ゴキブリが出たの!
何とかして!」
両手で顔を覆った兒玉が訴えた。
「これは業務外だから、特別料金貰いますよ。」
「あげるわよ。
今日のバイト代に一時間足しておくから、早くやっつけて!」
ナツキは来客用のスリッパを持つと、ゴキブリ退治に汗を掻く。
(つづく)
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