妄想日記8<<FLOWERS>>

YAMATO

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Chapter10(霹靂編)

Chapter10-⑧【ビキニは似合わない】

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「ただいま戻りました。」
汗だくのリョウキが帰ってきた。
直に顔を見るのは久し振りだ。
ランニングシャツとパンツはかなり濡れている。
「気持ち良さそうに寝ていたので、邪魔しない様に走ってきました。
雲一つなく、暑い位です。
日焼けに行きましょうか?」
「えっ、着替えないの?」
まさか、その格好で電車に乗るのかと、訝がる。
「この暑さなら、行く途中で汗を掻きます。」
「なら、準備しないと。
それとトイレ借りました。」
「リヒトさんは何も持たなくて大丈夫です。
全て私が用意しました。
さあ、これに着替えて。」
断る回答は用意されていなかった。
 
駅を抜け、アーケードへ入る。 
横断歩道を渡り、ガソリンスタンド手前の路地を曲がった。
どうやら日焼けの場所は海でなさそうだ。
私道の様な細い道を進むと、大きな川が見えた。
川沿いの道はランナーや自転車が多い。
汗だくのリョウキが景色に馴染んだ。
「このジョギングコースが気に入って、最近越してきたのです。」
確かにここなら、こんな大胆な格好でも不審に思う人は居ない。
リョウキと揃いのランニングシャツとパンツが風に靡く。
「少し走りましょうか。」
「うん。」
閉めてあった部屋はまだ片付いてない荷物が置いてあるのだろう。
世話になった礼に片付けの手伝いをしようと思い立った。
 
グランド脇を進むと、一見しておかしな一角へ出た。
そこだけ許可された如く、男だけの世界だ。
若者から年配者まで、様々な格好で日焼けに興じている。
リョウキと同じ位焼けている男も何人かいた。
厳しい眼差しが後を追ってきた。
ここでは一番黒い者がヒエラルキーの頂点に君臨するのだ。
自分より焼けた男の登場はトップからの陥落を意味する。
道行く黒き者に男達は興味深げな視線を向けた。
「さあ、ここにしましょう。
こちら側が日焼けに向いています。」
川を望む方ではなく、道路を眺める側へシートを敷いた。
川側より人が少なく、こちらの方が気が楽だ。
 
遠くでスジ筋の男が立ち上がった。
1/3程しか尻が隠れていない水着から元の肌が覗いている。
その黒さはリョウキと変わらない。
態とらしく伸びをして、こちらを伺っていた。
リョウキの黒さに敵対心を持ったのだろう。
「あのー、水着は持ってないけど。」
「大丈夫、ちゃんと用意してあります。
どちらがお好みですか?」
シートの上に二着の水着が並んだ。
どちらもレディースで、セパレートのビキニとワンピースの競泳用だ。
「他にはないの?」
「出来れば、着て欲しいのです。
どうしても嫌でしたら、無理強いはいませんが…。」
目に見えて落胆した様子に心が痛む。
昨日からの心遣いを仇で返す様で忍びない。
二人だけの時に着る分には問題ない。
しかしこの多くの人の前で着るには抵抗があった。
「昔、これを着てくれた人がいました。
ずっと、ずっと、私はその人を求めています。
リヒトさんは彼のイメージと重なったのです。
無理言って、すみません。」
「顔が似ているの?」
「その人はエキゾチックな顔立ちです。
似ているのはそのグラマラスなボディです。」
やっと理解した。
リョウキが望んでいるのはリヒトではない。
レディースを着た思い出の男に似ているリヒトなのだ。
 
(つづく)
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