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Chapter8(がむしゃら編)
Chapter8-⑩【約束 × No title】前編
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「ほらっ、これを一気に飲め。
来週からワタルの店がオープンする。
そうするとここにも人を常駐させる必要がある。
一緒に働いてみないか?」
「俺が…、ここで…、働くんですか?」
黄金色に輝くジョッキを見ながら聞く。
「さっきも言ったが、お前とは馬が合いそうだ。
ウチで働けば、金と筋肉が一石二鳥で手に入るぞ。」
ジョッキを口に運ぶと、一気に傾ける。
身体中の細胞が歓喜した。
この特製オイルプロテインが今後も必要不可欠だと知る。
答はもう決まった。
足下のスマホのディスプレイが点灯した。
職場からの着信を知らせる。
それを無視して、トレーニングを続けた。
「おい、午前中から飛ばし過ぎだ。
少しはセーブしろ。」
山下が呆れ顔で言う。
「これでもセーブしてます。
ただ力が有り余って、じっとしていられないんです。」
シオンは訴える。
体内で核融合が起こり、エネルギーを産み出している様だ。
「気持ちは分かるが、身体が付いていかない。
これを飲んだら外へ行って、身体を冷やしてこい。」
特製プロテインを飲むと、更に力が漲った。
それを堪えて、一旦出掛ける事にする。
今日中に片付けたい事が幾つかあった。
とっとと片付けて、トレーニングを再開したい。
「少し待ってくれ。
夢を正夢にしてくるから。」
膨らんだ二頭筋を宥めるのに苦労した。
オフィスに入り、自席で整理を始める。
主任が呆然と見ているのが分かった。
「おい、遅刻してきて、挨拶もなしか?
何度、電話したと思ってんだ!」
堰を切ったダミ声が捲し立てる。
「無断欠勤にしたからな!」
ノイズは更に大きくなった。
「今日で退社します。」
敢えて『お世話になりました』は言わない。
「た、退社って、俺に言わずにか?
お前は正気か?」
「辞表はコンプライアンスに提出してきました。
後程、人事に回してくれると言ってくれました。」
茹で蛸の如く真っ赤になった顔が笑える。
「こっ、コンプライアンス?」
「ええ、残業を改竄する上司の元では働けないと伝えました。
引継ぎは拒否しましたので、あしからず。」
オフィス中の視線が二人に注がれた。
「かっ、改竄って人聞きが悪いな。
俺はちょっと調整した迄だ。」
注視された事を悟った主任は声のトーンを落とす。
悪行の自覚はある様だ。
主任は労務費を抑えて出した収益を自分の成績にしていた。
その所為で部下達は残業代を半分程度に減らされている。
シオンに至っては殆どカットされていた。
「直ぐにコンプライアンスから連絡が来ると思います。
ちょっとか、どうかはそちらで判断します。
主任も整理を始めた方が良いのでは?」
シオンは空になった引き出しに鍵を掛ける。
鍵を庶務の女性に渡すと、大量の資料を持ってシュレッダーへ向う。
背中に感じる燃え滾る視線は夢ではない。
Yシャツのボタンを外し、ネクタイを緩める。
このシュレッダーが終われば、もうダミ声を聞く事はなかった。
(つづく)
来週からワタルの店がオープンする。
そうするとここにも人を常駐させる必要がある。
一緒に働いてみないか?」
「俺が…、ここで…、働くんですか?」
黄金色に輝くジョッキを見ながら聞く。
「さっきも言ったが、お前とは馬が合いそうだ。
ウチで働けば、金と筋肉が一石二鳥で手に入るぞ。」
ジョッキを口に運ぶと、一気に傾ける。
身体中の細胞が歓喜した。
この特製オイルプロテインが今後も必要不可欠だと知る。
答はもう決まった。
足下のスマホのディスプレイが点灯した。
職場からの着信を知らせる。
それを無視して、トレーニングを続けた。
「おい、午前中から飛ばし過ぎだ。
少しはセーブしろ。」
山下が呆れ顔で言う。
「これでもセーブしてます。
ただ力が有り余って、じっとしていられないんです。」
シオンは訴える。
体内で核融合が起こり、エネルギーを産み出している様だ。
「気持ちは分かるが、身体が付いていかない。
これを飲んだら外へ行って、身体を冷やしてこい。」
特製プロテインを飲むと、更に力が漲った。
それを堪えて、一旦出掛ける事にする。
今日中に片付けたい事が幾つかあった。
とっとと片付けて、トレーニングを再開したい。
「少し待ってくれ。
夢を正夢にしてくるから。」
膨らんだ二頭筋を宥めるのに苦労した。
オフィスに入り、自席で整理を始める。
主任が呆然と見ているのが分かった。
「おい、遅刻してきて、挨拶もなしか?
何度、電話したと思ってんだ!」
堰を切ったダミ声が捲し立てる。
「無断欠勤にしたからな!」
ノイズは更に大きくなった。
「今日で退社します。」
敢えて『お世話になりました』は言わない。
「た、退社って、俺に言わずにか?
お前は正気か?」
「辞表はコンプライアンスに提出してきました。
後程、人事に回してくれると言ってくれました。」
茹で蛸の如く真っ赤になった顔が笑える。
「こっ、コンプライアンス?」
「ええ、残業を改竄する上司の元では働けないと伝えました。
引継ぎは拒否しましたので、あしからず。」
オフィス中の視線が二人に注がれた。
「かっ、改竄って人聞きが悪いな。
俺はちょっと調整した迄だ。」
注視された事を悟った主任は声のトーンを落とす。
悪行の自覚はある様だ。
主任は労務費を抑えて出した収益を自分の成績にしていた。
その所為で部下達は残業代を半分程度に減らされている。
シオンに至っては殆どカットされていた。
「直ぐにコンプライアンスから連絡が来ると思います。
ちょっとか、どうかはそちらで判断します。
主任も整理を始めた方が良いのでは?」
シオンは空になった引き出しに鍵を掛ける。
鍵を庶務の女性に渡すと、大量の資料を持ってシュレッダーへ向う。
背中に感じる燃え滾る視線は夢ではない。
Yシャツのボタンを外し、ネクタイを緩める。
このシュレッダーが終われば、もうダミ声を聞く事はなかった。
(つづく)
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