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Chapter8(がむしゃら編)
Chapter8-⑧【僕のこと】前編
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その夜は中々寝付けなかった。
アナルが火傷した様に痛み、微睡みは訪れて来ない。
帰り際に渡されたポイントカードを眺める。
スタンプが21個押してあった。
「これは来店ポイントっす。
来店する度に一つ、買い物は千円で一つ押すんで。」
「貯まると、買い物に使えるんですか?」
「もっと良い事っすよ。」
無表情のマスクマンが言った。
「もっと良い事って?」
「50個でワタルさんと撮影会、100個で動画もOK、200個でワタルを自由に出来る仕組
みっす。」
その条件を思い出す。
単純に計算すると、20万円分の買い物をすれば、ワタルを自由に出来る。
冬のボーナスはまだ使っていない。
シオンは慌てて顔を振る。
邪な考えを頭から追い出す様に。
千円毎に1ポイントのレートがいつまで持つか分からない。
購買客が増えれば、レートの悪化が考えられる。
「しかし…、もっと自分の事を知ってもらうには…。
今の内にワタルを自由にしたい。
最初に200ポイントに到達するのは自分だ。」
無謀な考えは膨らむ一方だ。
今日、ユウヤと会えた事はラッキーだった。
開店前の店で、ワタルのサービスを受けれた。
これはかなり大きなアドバンテージだ。
店がオープンすれば、ワタルが人気者になるのは間違いない。
そうなれば自分の願望をいつもアシストしてくれなくなるだろう。
他人の願望を叶えているワタルを指を咥えて見る羽目になる。
チャンスは開店前の今だ。
「お先に失礼します。」
主任に声を掛ける。
「えっ、何だって?
昨日、休んでおいて、今日は定時に帰んのか?
やる気あんのかよ。」
だみ声がオフィス中に響く。
「まだ調子悪いので…。
失礼します。」
シオンは逃げる様にオフィスを後にした。
やる事はやったと、言い返せなかった自分に腹が立つ。
だが争い事が嫌いなシオンは一度たりとも非難を口にした事はない。
自分を変えたいと、何度も考えた。
幾つかのセミナーにも通ってみたが、効果はない。
しかしあそこに行けば、何かが変わる気がした。
「いらっしゃい。」
その声を聞き、苛立ちが収まっていく。
「欲しい物があったので、また買いに来ました。」
シオンはコートを預け、ソファーに座る。
「飲み物は何にする?」
「ビールをお願いします。」
「用意している間に着替えちゃえ。
それとも先に買い物しちゃうか?
マッサージが先でもいいぞ。
まだ無料だし。」
「なら先に新しいの見てみます。」
棚の前に立ち、ウェアを広げる。
どれも魅惑的だ。
「絶対に予算以上は買わないぞ。」
自分に言い聞かす。
「おっ、それいいぞ。
流石に目が高いな。
今日、入荷したばかりだ。
オープンしたら即売り切れるぞ。」
ビールを置いたワタルが背後に立つ。
吐き出した息が首筋に当たる。
「なっ、なら、これにしようかな。」
値段も見ずに言ってしまう。
「なら、着てみてくれないか。
俺は着てみたんだが、まだお客さんが着たところを見てないんだ。
シオンが着たところを見たいんだ。」
後ろから伸びた手がボタンを外していく。
(つづく)
アナルが火傷した様に痛み、微睡みは訪れて来ない。
帰り際に渡されたポイントカードを眺める。
スタンプが21個押してあった。
「これは来店ポイントっす。
来店する度に一つ、買い物は千円で一つ押すんで。」
「貯まると、買い物に使えるんですか?」
「もっと良い事っすよ。」
無表情のマスクマンが言った。
「もっと良い事って?」
「50個でワタルさんと撮影会、100個で動画もOK、200個でワタルを自由に出来る仕組
みっす。」
その条件を思い出す。
単純に計算すると、20万円分の買い物をすれば、ワタルを自由に出来る。
冬のボーナスはまだ使っていない。
シオンは慌てて顔を振る。
邪な考えを頭から追い出す様に。
千円毎に1ポイントのレートがいつまで持つか分からない。
購買客が増えれば、レートの悪化が考えられる。
「しかし…、もっと自分の事を知ってもらうには…。
今の内にワタルを自由にしたい。
最初に200ポイントに到達するのは自分だ。」
無謀な考えは膨らむ一方だ。
今日、ユウヤと会えた事はラッキーだった。
開店前の店で、ワタルのサービスを受けれた。
これはかなり大きなアドバンテージだ。
店がオープンすれば、ワタルが人気者になるのは間違いない。
そうなれば自分の願望をいつもアシストしてくれなくなるだろう。
他人の願望を叶えているワタルを指を咥えて見る羽目になる。
チャンスは開店前の今だ。
「お先に失礼します。」
主任に声を掛ける。
「えっ、何だって?
昨日、休んでおいて、今日は定時に帰んのか?
やる気あんのかよ。」
だみ声がオフィス中に響く。
「まだ調子悪いので…。
失礼します。」
シオンは逃げる様にオフィスを後にした。
やる事はやったと、言い返せなかった自分に腹が立つ。
だが争い事が嫌いなシオンは一度たりとも非難を口にした事はない。
自分を変えたいと、何度も考えた。
幾つかのセミナーにも通ってみたが、効果はない。
しかしあそこに行けば、何かが変わる気がした。
「いらっしゃい。」
その声を聞き、苛立ちが収まっていく。
「欲しい物があったので、また買いに来ました。」
シオンはコートを預け、ソファーに座る。
「飲み物は何にする?」
「ビールをお願いします。」
「用意している間に着替えちゃえ。
それとも先に買い物しちゃうか?
マッサージが先でもいいぞ。
まだ無料だし。」
「なら先に新しいの見てみます。」
棚の前に立ち、ウェアを広げる。
どれも魅惑的だ。
「絶対に予算以上は買わないぞ。」
自分に言い聞かす。
「おっ、それいいぞ。
流石に目が高いな。
今日、入荷したばかりだ。
オープンしたら即売り切れるぞ。」
ビールを置いたワタルが背後に立つ。
吐き出した息が首筋に当たる。
「なっ、なら、これにしようかな。」
値段も見ずに言ってしまう。
「なら、着てみてくれないか。
俺は着てみたんだが、まだお客さんが着たところを見てないんだ。
シオンが着たところを見たいんだ。」
後ろから伸びた手がボタンを外していく。
(つづく)
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