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Chapter7(女優編)
Chapter7-①【Seven Seas Of Rhye】前編
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「先程の電話が聞こえたのですが、ワタルさんは暫く休みなのですか?」
唇にオイルを付けたテツヤが聞いてきた。
山下が焼いてくれたパンケーキを食べている時だ。
たっぷり掛かったオリーブオイルの所為で、ワタルの口も油塗れだった。
「ええ、一週間程。」
ワタルは目を背けていた難問を思い出す。
只でさえ少ない給料がカットされたら死活問題だ。
短期のアルバイトを探すにしても、そんな簡単に見付かるとは思えない。
「良かったら、一緒に旅行へ行かないですか?
バイトを兼ねて。」
テツヤの提案に山下の持つフォークが止まる。
「僕達は同郷で明日から帰郷します。
嫌でなければ、同行しませんか?
日当はきちんと支払います。」
嬉しい誘いだが、簡単に頷けない。
動きの止まった山下を横目で見る。
その様子から、この誘いはテツヤの一方的な考えに寄る物に思えた。
「知り合いに伝があるので、バイトはそちらに頼もうかと。」
出任せを言う。
当て等ないが、気まずさが口を動かす。
「バイトは決まってないんだろ?
だったら一緒に行こうぜ。
平日だから飛行機はガラガラだ。」
フォークを置いた山下が口を開いた。
「飛行機って、出身は何処なんですか?」
山下に誘われた事で気持ちが傾く。
一緒に行けば貴重な汁を得る機会が増えそうだ。
「石垣だ。
行った事あるか?」
「いえ、ないです。」
「良い所だ。
海も飯も人もな。
うちなんちゅに悪い奴はいないからな。」
山下がテツヤを見る。
満足げに頷くテツヤを見て、気持ちは決まった。
大きなリュックを背負った二人が前を歩く。
陽炎の中、揺れている様に見えた。
山下の短くカットしたジーンズから尻が半分出ている。
日本人離れした風貌は南国の景色が似合う。
誰も日本人とは思わないだろう。
テツヤは真っ赤なタンクトップと同色のショートパンツを合わせている。
二人が連れ立っ姿はランウェイを歩くモデルの様だ。
後ろを歩く貧相な男がガラス窓に映る。
まだ黄金色と呼ぶには程遠い。
きっと世間の人は付き人と思っているのだろう。
自虐的な笑みを眩い太陽に向ける。
只で連れてきてもらった分、付き人に徹し様と思い直した。
レンタカーを借り、北上する。
山下は左手にスーパーの駐車場が見えると、ウインカーを出した。
テツヤがカートを押し、山下が次々に食材を入れていく。
二人が通った後は何も残らない。
オリーブオイルの棚はもぬけの殻だ。
ホテルに泊まる事はなさそうだ。
そうとすると、山下かテツヤの実家に行くのかもしれない。
二人の格好を見て、家族の驚くシーンを想像する。
「何、ニヤニヤしてるんですか?
アイスでも食べましょう。
味は何がいいですか?」
その問にショーケースに視線を向ける。
「折角だから、沖縄らしい紅芋にするよ。」
「おい、紅芋を三個くれ。」
横柄な言葉にレジの女性は思い切り不機嫌な顔をした。
(つづく)
唇にオイルを付けたテツヤが聞いてきた。
山下が焼いてくれたパンケーキを食べている時だ。
たっぷり掛かったオリーブオイルの所為で、ワタルの口も油塗れだった。
「ええ、一週間程。」
ワタルは目を背けていた難問を思い出す。
只でさえ少ない給料がカットされたら死活問題だ。
短期のアルバイトを探すにしても、そんな簡単に見付かるとは思えない。
「良かったら、一緒に旅行へ行かないですか?
バイトを兼ねて。」
テツヤの提案に山下の持つフォークが止まる。
「僕達は同郷で明日から帰郷します。
嫌でなければ、同行しませんか?
日当はきちんと支払います。」
嬉しい誘いだが、簡単に頷けない。
動きの止まった山下を横目で見る。
その様子から、この誘いはテツヤの一方的な考えに寄る物に思えた。
「知り合いに伝があるので、バイトはそちらに頼もうかと。」
出任せを言う。
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「バイトは決まってないんだろ?
だったら一緒に行こうぜ。
平日だから飛行機はガラガラだ。」
フォークを置いた山下が口を開いた。
「飛行機って、出身は何処なんですか?」
山下に誘われた事で気持ちが傾く。
一緒に行けば貴重な汁を得る機会が増えそうだ。
「石垣だ。
行った事あるか?」
「いえ、ないです。」
「良い所だ。
海も飯も人もな。
うちなんちゅに悪い奴はいないからな。」
山下がテツヤを見る。
満足げに頷くテツヤを見て、気持ちは決まった。
大きなリュックを背負った二人が前を歩く。
陽炎の中、揺れている様に見えた。
山下の短くカットしたジーンズから尻が半分出ている。
日本人離れした風貌は南国の景色が似合う。
誰も日本人とは思わないだろう。
テツヤは真っ赤なタンクトップと同色のショートパンツを合わせている。
二人が連れ立っ姿はランウェイを歩くモデルの様だ。
後ろを歩く貧相な男がガラス窓に映る。
まだ黄金色と呼ぶには程遠い。
きっと世間の人は付き人と思っているのだろう。
自虐的な笑みを眩い太陽に向ける。
只で連れてきてもらった分、付き人に徹し様と思い直した。
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二人が通った後は何も残らない。
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そうとすると、山下かテツヤの実家に行くのかもしれない。
二人の格好を見て、家族の驚くシーンを想像する。
「何、ニヤニヤしてるんですか?
アイスでも食べましょう。
味は何がいいですか?」
その問にショーケースに視線を向ける。
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