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Chapter3(楓編)
Chapter3-⑩【RED】前編
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ワタルは肝心な事を聞くのを忘れていた。
依頼人はどう様子がおかしいのか?
だが本人を前にして、ここでは聞けない。
この様子の変わった部屋に、何も聞かずに入ってしまった事を後悔した。
以前の夜景の見える洒落た部屋とは全く別物だ。
「簡単なおつまみを作りました。
今日は胡麻油で炒めてみました。」
ユーリがテーブルにワイングラスと皿を置く。
ウインナーとほうれん草の炒め物だ。
ワタルはユーリを見る。
微笑む視線は焦点が合っていない。
「態々来てもらって、申し訳ないです。
アシスタントさんの分もお支払いするので、今日は宜しくお願いします。」
ユーリが口にウインナーを運ぶ。
一度、中に入ったウインナーを卑猥に出し入れする。
それがサインだと分かった。
「今日、先生に見てもらいたいのはこの家なんです。
どうも居心地が悪いのです。
空気が淀んでいるとでも言うのかな。」
深く座り直したユーリが口を開いた。
「立派なお部屋ですが、確かに気が崩れてる様です。
では羅盤で見立ててみましょう。」
ユーリはバッグを引き寄せると、羅盤を取り出す。
「北はどちらですか?」
タクの質問にユーリが指差した。
その方向に合わせて羅盤を置く。
慌ただしいセッティングが始まったが、ワタルはする事がない。
手持ち無沙汰につい目線を上げてしまう。
「口に合わないですか?」
ユーリが顔を傾げた。
「いっ、いや、そういう訳ではないけど…。」
慌てて視線を下がる。
「残念だな。
前はあんなに喜んでくれたのに…。」
囁く声は消え入りそうだ。
仕方なく、箸を持つ。
そしてほうれん草に伸ばした。
「えっ、そっち…。」
落胆の声音に箸の向きを変え、ウインナーを掴む。
そして一気に飲み込んだ。
「よし、セッティングが完了しました。」
タクの声が力強く聞こえた。
ワタルは初めて見る羅盤を腰を浮かせ、覗き込む。
円の外周が何層に分かれていて、細かい文字が書いてある。
針が小刻みに揺れている。
「やはり安定しません。
気が崩れている証拠です。
少しお部屋を見ても宜しいですか?」
「あっ、どうぞ。
何処から見ますか?」
ユーリが立ち上がる。
「先ず風呂場を見せて下さい。」
ワタルは二人の後を慌てて追う。
風呂場は暗く、更に肌寒い。
天井の照明は取り除かれ、間接照明だけだ。
「随分暗いですね。」
タクは質問すると中へ入っていく。
「ええ、トレーニング後の半身浴が好きで、この方が落ち着くのです。」
ユーリがワタルの後方で答えた。
首筋に吐息が当たる。
ワタルも中に入り、事前の指示通りにデジカメで撮影を始めた。
バスタブ、シャワーヘッドと次々に画像を撮る。
そしてファインダーに鏡を収め、シャッターに指を置く。
手前に整然とボトルが並び、一番端に巨大なディルドが同間隔で置かれていた。
間接的に照らされ、赤く染まったディルドは酷く大きい。
シャッターを押す事を忘れ、ファインダーの中を見入った。
(つづく)
依頼人はどう様子がおかしいのか?
だが本人を前にして、ここでは聞けない。
この様子の変わった部屋に、何も聞かずに入ってしまった事を後悔した。
以前の夜景の見える洒落た部屋とは全く別物だ。
「簡単なおつまみを作りました。
今日は胡麻油で炒めてみました。」
ユーリがテーブルにワイングラスと皿を置く。
ウインナーとほうれん草の炒め物だ。
ワタルはユーリを見る。
微笑む視線は焦点が合っていない。
「態々来てもらって、申し訳ないです。
アシスタントさんの分もお支払いするので、今日は宜しくお願いします。」
ユーリが口にウインナーを運ぶ。
一度、中に入ったウインナーを卑猥に出し入れする。
それがサインだと分かった。
「今日、先生に見てもらいたいのはこの家なんです。
どうも居心地が悪いのです。
空気が淀んでいるとでも言うのかな。」
深く座り直したユーリが口を開いた。
「立派なお部屋ですが、確かに気が崩れてる様です。
では羅盤で見立ててみましょう。」
ユーリはバッグを引き寄せると、羅盤を取り出す。
「北はどちらですか?」
タクの質問にユーリが指差した。
その方向に合わせて羅盤を置く。
慌ただしいセッティングが始まったが、ワタルはする事がない。
手持ち無沙汰につい目線を上げてしまう。
「口に合わないですか?」
ユーリが顔を傾げた。
「いっ、いや、そういう訳ではないけど…。」
慌てて視線を下がる。
「残念だな。
前はあんなに喜んでくれたのに…。」
囁く声は消え入りそうだ。
仕方なく、箸を持つ。
そしてほうれん草に伸ばした。
「えっ、そっち…。」
落胆の声音に箸の向きを変え、ウインナーを掴む。
そして一気に飲み込んだ。
「よし、セッティングが完了しました。」
タクの声が力強く聞こえた。
ワタルは初めて見る羅盤を腰を浮かせ、覗き込む。
円の外周が何層に分かれていて、細かい文字が書いてある。
針が小刻みに揺れている。
「やはり安定しません。
気が崩れている証拠です。
少しお部屋を見ても宜しいですか?」
「あっ、どうぞ。
何処から見ますか?」
ユーリが立ち上がる。
「先ず風呂場を見せて下さい。」
ワタルは二人の後を慌てて追う。
風呂場は暗く、更に肌寒い。
天井の照明は取り除かれ、間接照明だけだ。
「随分暗いですね。」
タクは質問すると中へ入っていく。
「ええ、トレーニング後の半身浴が好きで、この方が落ち着くのです。」
ユーリがワタルの後方で答えた。
首筋に吐息が当たる。
ワタルも中に入り、事前の指示通りにデジカメで撮影を始めた。
バスタブ、シャワーヘッドと次々に画像を撮る。
そしてファインダーに鏡を収め、シャッターに指を置く。
手前に整然とボトルが並び、一番端に巨大なディルドが同間隔で置かれていた。
間接的に照らされ、赤く染まったディルドは酷く大きい。
シャッターを押す事を忘れ、ファインダーの中を見入った。
(つづく)
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