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Chapter3(楓編)
Chapter3-①【ツバメのように】後編
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「おい、何黄昏てんだ?
まさか紫陽花に欲情してんじゃねえよな。」
背後から声を掛けられ、ビックとする。
ニヤニヤ笑うシンが立っていた。
「あれっ、今日は遠征っすか?」
知っている顔に安堵する。
「何が遠征だ。
ここは俺のホームだ。」
その言葉でここがランマに連れられてきた公園だと分かった。
駅と反対側から入った為、知らない景色が続いていたのだ。
「ランマさんは元気っすか?」
芝に横たわり聞く。
以前はこのがさつなを警戒していたが、今は話し相手になるなら誰でも良い。
三日振りの会話の所為で、口は軽やかだ。
「先月末、挨拶に来たぜ。
管理人の仕事がなくなったから、ここにいる理由がないんだとよ。
田舎に引っ込むらしいぜ。」
煙を燻らせシンが答えた。
「そうか…。」
あわよくば相談に乗って貰おうと思っていた打算は呆気なく崩れ去る。
「梅雨の晴れ間は貴重だからよ、店閉めて来ちまった。
あーあ、これじゃあ、店が繁盛しねぇえ訳だよな。」
自虐的な自慢にしか聞こえない。
要は大して働かなくても生きて行けるという訳だ。
シンは煙草を揉み消すと、スパッツを脱ぐ。
自慢のぺニスが薄いビキニを擡げていた。
ワタルは生唾を飲み込む。
「おい、オイル塗ってくれ。」
投げられたオイルをキャッチし、キャップを外す。
ココナッツの香りがハワイを想起させ、淫らな日々が甦る。
「お前、こんな時期なのに焼けてんな。
どっか行ってたのか?」
横たわるシンが聞いてきた。
「ハワイに行ってたんだ。」
「えっ?ハワイって、何時だ?」
シンが半身を起こす。
「そんな驚く場所じゃないだろ。
先週だけど…。」
落としたボトルからオイルが溺れた。
「ならケイジと会わなかったか?
ゲイビーチで勃起させてる日本人いなかったか?
日本から来た奴を見付けては声掛けまくってるらしい。」
その質問に今度はワタルが驚く。
「ああ、確かに勃起して、寝てた。
同じコンドミニアムだったんだ。
知り合い?」
「その質問からすると、お前知らねぇな?
奴は死んだんだ。」
シンが再び煙草を咥えた。
「しっ、死んだって…、めちゃ元気だったけど…。」
プールサイドの卑猥な姿を思い出し、俄に信じ難い。
「そのコンドミニアムから飛び降りたんだ。
即死だったらしい。」
「えっ!あの建物から?
どうして?」
「そんなの知るか!
ただ、俺の知ってるケイジは自殺なんかする玉じゃねぇ。
人を殺したって、のうのうと生きていける奴だ。
きっと何かある筈だ。」
シンの下半身はすっかり威勢が削がれていた。
帰りの日を思い出す。
地下駐車場に迎えのタクシーが来て、それに乗った。
地上の風景は殆ど見てない。
しかし自殺があった翌日であれば、どんなにぼっとしていても気付きそうだ。
ワタルがスマホのカレンダーを睨み付ける。
「あっ!」
往路の間に空白の一日があった。
という事は記憶がないのは一晩ではなく、丸一日だったのだ。
(つづく)
まさか紫陽花に欲情してんじゃねえよな。」
背後から声を掛けられ、ビックとする。
ニヤニヤ笑うシンが立っていた。
「あれっ、今日は遠征っすか?」
知っている顔に安堵する。
「何が遠征だ。
ここは俺のホームだ。」
その言葉でここがランマに連れられてきた公園だと分かった。
駅と反対側から入った為、知らない景色が続いていたのだ。
「ランマさんは元気っすか?」
芝に横たわり聞く。
以前はこのがさつなを警戒していたが、今は話し相手になるなら誰でも良い。
三日振りの会話の所為で、口は軽やかだ。
「先月末、挨拶に来たぜ。
管理人の仕事がなくなったから、ここにいる理由がないんだとよ。
田舎に引っ込むらしいぜ。」
煙を燻らせシンが答えた。
「そうか…。」
あわよくば相談に乗って貰おうと思っていた打算は呆気なく崩れ去る。
「梅雨の晴れ間は貴重だからよ、店閉めて来ちまった。
あーあ、これじゃあ、店が繁盛しねぇえ訳だよな。」
自虐的な自慢にしか聞こえない。
要は大して働かなくても生きて行けるという訳だ。
シンは煙草を揉み消すと、スパッツを脱ぐ。
自慢のぺニスが薄いビキニを擡げていた。
ワタルは生唾を飲み込む。
「おい、オイル塗ってくれ。」
投げられたオイルをキャッチし、キャップを外す。
ココナッツの香りがハワイを想起させ、淫らな日々が甦る。
「お前、こんな時期なのに焼けてんな。
どっか行ってたのか?」
横たわるシンが聞いてきた。
「ハワイに行ってたんだ。」
「えっ?ハワイって、何時だ?」
シンが半身を起こす。
「そんな驚く場所じゃないだろ。
先週だけど…。」
落としたボトルからオイルが溺れた。
「ならケイジと会わなかったか?
ゲイビーチで勃起させてる日本人いなかったか?
日本から来た奴を見付けては声掛けまくってるらしい。」
その質問に今度はワタルが驚く。
「ああ、確かに勃起して、寝てた。
同じコンドミニアムだったんだ。
知り合い?」
「その質問からすると、お前知らねぇな?
奴は死んだんだ。」
シンが再び煙草を咥えた。
「しっ、死んだって…、めちゃ元気だったけど…。」
プールサイドの卑猥な姿を思い出し、俄に信じ難い。
「そのコンドミニアムから飛び降りたんだ。
即死だったらしい。」
「えっ!あの建物から?
どうして?」
「そんなの知るか!
ただ、俺の知ってるケイジは自殺なんかする玉じゃねぇ。
人を殺したって、のうのうと生きていける奴だ。
きっと何かある筈だ。」
シンの下半身はすっかり威勢が削がれていた。
帰りの日を思い出す。
地下駐車場に迎えのタクシーが来て、それに乗った。
地上の風景は殆ど見てない。
しかし自殺があった翌日であれば、どんなにぼっとしていても気付きそうだ。
ワタルがスマホのカレンダーを睨み付ける。
「あっ!」
往路の間に空白の一日があった。
という事は記憶がないのは一晩ではなく、丸一日だったのだ。
(つづく)
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