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Chapter2(フラ編)
Chapter2-⑭【RAIN】後編
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重い頭を振る。
酷い二日酔いだ。
そんなに飲んだ覚えはないが、昨夜の記憶が飛んでいた。
「おはよう、気分はどう?
一晩中寝てたから心配したよ。」
リビングへ入っていくと、ユーリがキッチンに立っていた。
「最悪に近い感じ。」
「もう少しで出来るから、先にシャワー浴びて来ちゃいな。
さっぱりしたら、多少良くなるんじゃない。」
その言葉で自分の体臭に気付き、バスルームへ駆け込む。
水を張ったシンクの中でレイが揺れていた。
熱湯を幾ら浴びても、汚臭が拭えない。
バスタブへ湯を溜め、ボディソープを注ぎ込んだ。
「少しマシになったよ。」
バスタオルで頭を拭きながらリビングに戻る。
「さあ、食べちゃおう。
そしたら帰ろう。」
「えっ、帰るって、東京へ?」
ワタルは驚いてタオルを落とした。
東京は雨で煙っていた。
乾燥した機内の所為で、レイは大分生気が失せている。
チェックアウト際、ユーリが掛けてくれた。
「梅雨真っ盛りだね。」
ユーリの引くスーツケースを雨粒が流れ落ちていく。
「でもこの雨が終われば、こっちも夏に突入だ。
今度は何処へ行く?」
ワタルは雨が嫌いではない。
雨に濡れながらも、気持ちは軽やかだ。
「ごめん…。
夏は一緒に迎えられそうもないんだ。」
ユーリが前を向いたまま言う。
「えっ、どういう事?」
立ち止まって、聞く。
「夏はワタルと一緒にいれないって事さ。」
ユーリの背中がどんどん遠くなる。
やはりケイジとキスした事を怒っているんだ。
「えっ、だって、あれは…。」
「別に怒っているから言ってる訳じゃないんだ。
だだ…。」
「ただ、何だ?」
語気を荒げる。
「ただ、ワタル以上に大切なモノが見付かった…。
いや、気付いたんだ。」
頭の中にケイジとパットの顔が浮かぶ。
記憶のない夜に何かがあったのだ。
「なら、仕方ないか…。
ここで別れる?」
大して荷物もないワタルにはマンションへ戻る必要はない。
「そうだね。
その方がありがたい。」
ユーリは歩みを止めない。
「そっか…。
色々ありがとう。」
最後に握手位と思ったが、ユーリはその気もないらしい。
「じゃ…。」
ワタルは踵を返し、逆側を向く。
「そうだ、最後にお願いがあるんだ。」
振り向くが、ユーリは背を見せたままだ。
「必ずシャワーは朝浴びてくれ。
どんなに汚れてても、夜は身体を洗わないで欲しいんだ。」
言ってる意味が理解出来ない。
「これだけは守って欲しいんだ。
頼む!」
語尾の強さに、ふざけてないことは分かった。
「分かった。
なるべくそうするよ。」
「なるべくじゃ駄目だ!絶対だ!
そしてそのレイをドアノブに掛けてくれ。
きっとワタルを守ってくれるから。」
肩を震わせてユーリが怒鳴る。
「ああ、約束する。
でも…、どうして?」
ユーリは答える事なく雨の中へ消えていく。
ワタルは電車乗り場へ向かう。
「さて、何処へ行こうか?」
声に出してみるが、答がない事は明白だ。
逆に言えば何処にでも行ける。
「何とかなるさ。」
路線図を見上げ、最初に目に入った所にしようと決めた。
(完)
酷い二日酔いだ。
そんなに飲んだ覚えはないが、昨夜の記憶が飛んでいた。
「おはよう、気分はどう?
一晩中寝てたから心配したよ。」
リビングへ入っていくと、ユーリがキッチンに立っていた。
「最悪に近い感じ。」
「もう少しで出来るから、先にシャワー浴びて来ちゃいな。
さっぱりしたら、多少良くなるんじゃない。」
その言葉で自分の体臭に気付き、バスルームへ駆け込む。
水を張ったシンクの中でレイが揺れていた。
熱湯を幾ら浴びても、汚臭が拭えない。
バスタブへ湯を溜め、ボディソープを注ぎ込んだ。
「少しマシになったよ。」
バスタオルで頭を拭きながらリビングに戻る。
「さあ、食べちゃおう。
そしたら帰ろう。」
「えっ、帰るって、東京へ?」
ワタルは驚いてタオルを落とした。
東京は雨で煙っていた。
乾燥した機内の所為で、レイは大分生気が失せている。
チェックアウト際、ユーリが掛けてくれた。
「梅雨真っ盛りだね。」
ユーリの引くスーツケースを雨粒が流れ落ちていく。
「でもこの雨が終われば、こっちも夏に突入だ。
今度は何処へ行く?」
ワタルは雨が嫌いではない。
雨に濡れながらも、気持ちは軽やかだ。
「ごめん…。
夏は一緒に迎えられそうもないんだ。」
ユーリが前を向いたまま言う。
「えっ、どういう事?」
立ち止まって、聞く。
「夏はワタルと一緒にいれないって事さ。」
ユーリの背中がどんどん遠くなる。
やはりケイジとキスした事を怒っているんだ。
「えっ、だって、あれは…。」
「別に怒っているから言ってる訳じゃないんだ。
だだ…。」
「ただ、何だ?」
語気を荒げる。
「ただ、ワタル以上に大切なモノが見付かった…。
いや、気付いたんだ。」
頭の中にケイジとパットの顔が浮かぶ。
記憶のない夜に何かがあったのだ。
「なら、仕方ないか…。
ここで別れる?」
大して荷物もないワタルにはマンションへ戻る必要はない。
「そうだね。
その方がありがたい。」
ユーリは歩みを止めない。
「そっか…。
色々ありがとう。」
最後に握手位と思ったが、ユーリはその気もないらしい。
「じゃ…。」
ワタルは踵を返し、逆側を向く。
「そうだ、最後にお願いがあるんだ。」
振り向くが、ユーリは背を見せたままだ。
「必ずシャワーは朝浴びてくれ。
どんなに汚れてても、夜は身体を洗わないで欲しいんだ。」
言ってる意味が理解出来ない。
「これだけは守って欲しいんだ。
頼む!」
語尾の強さに、ふざけてないことは分かった。
「分かった。
なるべくそうするよ。」
「なるべくじゃ駄目だ!絶対だ!
そしてそのレイをドアノブに掛けてくれ。
きっとワタルを守ってくれるから。」
肩を震わせてユーリが怒鳴る。
「ああ、約束する。
でも…、どうして?」
ユーリは答える事なく雨の中へ消えていく。
ワタルは電車乗り場へ向かう。
「さて、何処へ行こうか?」
声に出してみるが、答がない事は明白だ。
逆に言えば何処にでも行ける。
「何とかなるさ。」
路線図を見上げ、最初に目に入った所にしようと決めた。
(完)
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