妄想日記6<<EVOLUTION>>

Chapter2(フラ編)

Chapter2-①【眠り姫】前編

「シンの言った事は本当だ。」
ランマがトレーニングのインターバルに呟いた。
「起たないって事？」
ワタルは恐る恐る聞く。
「ああ、そうだ。
長く貞操具を噛ませられた所為で、不能になった。」
その言葉を聞いて、自身の股間を見る。
歪な盛り上がりを見て、頬を汗が伝う。
「最初はお前も不能にしてやろうと企んだが、もう止めた。」
ランマが鍵を投げて寄越した。
それを受け取り、まじまじと見る。
「出したかったんだろ？
好きなだけ出せ。
まあ、ここでは駄目だがな。」
乾いた声で笑う。
「どうして？」
訳を聞かずにいられない。
気持ちはユーリに傾いていた。
だが失いそうになって、その重要性に初めて気付く。
ランマがいたから、つまらない心配事から逃避出来ていたのだ。
ずっと昔から見守ってくれた。
「まあ、潮時って事だ。」
「それじゃ、答になってないよ！
潮時って、再会したばかりじゃないか！」
珍しく語気を強める。
別れを察したのだ。
「なら正直に言う。
マスターの頼みだ。
断る事は出来ない。」
苦々しい顔で言い訳をした。
 
「マスターって中嶋さん…？
いい加減な事を言うな！」
「答が来たぜ。」
ランマの焦点がワタルを通り越す。
「えっ？」
後方から伸びた手がワタルの持つ鍵を奪った。
「これは僕が預かるよ。
僕が新しい主人さ。」
ユーリがにこやかに言った。
「ど、どういう事？」
天秤に掛けた二人の顔を交互に見る。
重みのあったユーリが少しづつ浮き上がり、天秤が均衡を保った。
 
「ユーリさんを宜しく頼む。
それがマスター、中嶋さんの遺言だ。」
ランマが語り出す。
「ユーリさんはマスターの兄弟だ。
しかし結婚していたユーリさんは俺を必要としなかった。
あの日までは…。」
言い淀んだランマがユーリを見た。
「そう、あんな事件さえなければね。」
ユーリが説明を引き継ぐ。
事件と聞き、ワタルは身構える。
「僕の少し変わった性癖に妻は戸惑いを覚え、別居を提案してきた。
どこの家庭も一緒が通じなくなったのです。」
ユーリは少しにアクセントを置く。
「ちょっと脅して、僕の性癖を封印したかったんだろう。
彼女にとって、かなりストレスだったみたい。
別れる気は無かったんだ。
何でだと思う？
僕を愛してたからさ。
僕も愛していたし。」
「じゃあ、出て行っただけなのか？」
死別は嘘だったのかと勘ぐる。
「ああ、ある日帰ったら、書き置きがあった。
ワンルームを借りたから、暫く考える時間が欲しいと。」
整った顔が歪んだ。
「なら奥さんは生きてるのか…。」
ワタルは安堵の息を吐く。
「いや、死んだよ。
ワンルームで自殺したんだ。」
「えっ！」
「血塗れのロフトを見て、初めてランマに頼った。
兄が死に際に言ったんだ。
何かあったら、人に言えない事が起こったら、ランマに相談しろって。
何度か会った事がある強面の男は弁護士かと思ったんだ。」
ワタルは血の気が失せる。
血塗れのロフト、ワンルーム、思い当たる部屋の情景が浮かんだ。
 
 
(つづく)