妄想日記6<<EVOLUTION>>

YAMATO

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Chapter1(光明編)

Chapter1-②【人間交差点】後編

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携帯はいつしかスマホに変わり、メールの頻度は次第に空く様になった。
メールはラインに、投稿サイトはツイッターに代わっている。
ワタルの拠り所だったツールは既にオワコンになりつつあった。
もうメールアプリを使う事は極端に少ない。
それでも10年位、マッスルビートとのやり取りは続いた。
しかしここ数年はメールは届いていない。
その存在自体も忘れていた。
何故、突然その事を思い出したのだろう。
今朝、ホテルの部屋で点滅するスマホを見た所為か?
東京に戻って来ても、会う人はいない。
ナツキも中島も連絡が付かない。
雑踏の中で立ち止まる。
こんなに沢山の人が行き交うのに、知ってる人は一人もいない。
ワタルはスクランブル交差点の真ん中で空を見上げた。
どんよりした雲と霞んだ太陽が見える。
雨晴がはっきりしたガーナにはない天気だ。
グレーな天気に益々気分が落ち込む。
クラクションが鳴らされ、信号が変わっていた事に気付く。
 
ナツキの店のあった場所が変わり果てていた。
巨大なショッピングセンターが聳え立ち、当時の面影はない。
肩を落とし、町を迷走する。
行く宛のない東京は広過ぎた。
ホテルに戻ってもする事がない。
もうガーナに戻る気はなかった。
退職届を出せば、世間との繋がりは全くなくなる。
ワタルが死んでも気付く者はいないだろう。
タオルを持ち、部屋を出る。
最上階の浴場へ向かう。
それ位しかする事がないのだ。
先の事を考えなくてはと思う。
だがつい何とかなるさと、結論を先延ばしにしてしまう。
 
風呂場は中国人で混んでいた。
ツアー客だろうか、あちこちで輪になり喋り込んでいる。
ガーナにも中国資本が入り、至る所で中国人を見掛けた。
従業員を引き抜かれた事もあり、余り良い印象は持っていない。
仕方なくスチームサウナに入る。
重い扉を開けると、やはり中国語が飛び交っていた。
うんざりしながらも、人を掻き分け奥へ進む。
よくこの暑い中で、立ち話が出来るもんだと感心する。
15年貯めた金で、当面生活は出来そうだ。
それに幾許かの退職金も出るだろう。
40歳を前にした再出発だった。
 
「兄ちゃんは日本人か?」
突然、声を掛けられた。
蒸気の中で大きな影が動く。
「ええ…。」
「隣に座っていいか?
こう煩いと、のんびり汗も掻けねぇよな。
昔はこんな事なかったのにな。
懐かしいもんだ。」
返事をする前に男は座った。
肉厚の二の腕が身体に触れる。
「随分黒いな。
黒人かと思ったぜ。」
至近距離になり、男の風貌がはっきりした。
スキンヘッドの巨漢はレスラーを想起させる。
何処か懐かしさを覚えた。
「ガーナで働いていたので、すっかり焼けてしまって。」
「ガーナって、南米のか?」
「いや、アフリカです。」
「まあどっちでもいい。
兎に角、遠い外国だ。
で、何時戻るんだ?」
「いや、辞めて戻って来たんです。
でも東京はすっかり変わってて、浦島太郎になった気分です。
本当に昔が懐かしいです。」
久し振りの話し相手に言葉が溢れ出る。
 
 
(つづく)
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