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Chapter27(青春編)
Chapter27-⑮【es~Theme of es~】
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背後からクラクションが鳴った。
ワンボックスの助手席からユーキが手を振っている。
車体に書かれた旅館名を見て、笑ってしまう。
「やっぱり抜け出して来たか。」
タケルが呆れる。
「ゴメン。どうしても約束の場所で会いたかったんだ。」
視線を落とすと、ジーンズに血が滲んでいた。
「俺達に謝ることはない。
ただ自分の身体をもっと大切にしろ。
会ったら、すぐに病院へ戻るぞ。」
タケルが怒りを露わにする。
「まあ、それほど好きだってことだよね。」
ユーキが茶化す。
それを聞いたタケルは黙ってしまった。
「さあ、着いたぞ。
とっとと会って来い!」
タケルが怒鳴る。
車を降り立つと、運転席に回り込む。
ウインドウが下がり、タケルの顔が覗く。
「タケル、ユーキ、本当にありがとう。」
他にも言いたい事は沢山あるのに、それ以上の言葉が浮かばない。
「何だよ!やけに神妙じゃん。
早く行って来なよ。」
ユーキも後部座席から顔を出す。
踵を返し、エントランスへ向かう。
自動ドアの向こうに、懐かしいクリスマスツリーが見える。
「タケルも複雑な心境だね。
最愛の人を恋人の下に送り出すなんて。
まあ、そんなタケルが好きなんだけどさ!」
ユーキがウインクする。
「うるさい!」タケルが照れ隠しに吠えた。
「俺は感動の再会シーンを見物してくるよ。
タケルはどうする?」
ユーキが顔を覗き込む。
「仕方ねぇな。俺も付き合うか!」
アクセルを踏み込むと、急発進してパーキングへ続く坂を駆け降りた。
足がやけに重い。
ツリーがなかなか近付かない。
大きなツリーの下に、正装したカオルが見えた。
ネクタイをして、花束を持っている。
日に焼け、頬が少し削げていた。
精悍に変貌したカオルに、一年前の苦悩していた面影は微塵も感じない。
足を引きずり、先を急ぐ。
背後から忍び寄る男に、全く気付かなかった。
「まだカオル君はヤマトさんに気付いてないみたいだね。」
柱の陰から見ていたユーキが興奮気味に言う。
「あれっ、ヤマトさんの後ろにいる男、キョウヘイじゃないか?」
タケルは男を目で追う。
男はポケットに手を突っ込んだまま、ヤマトに近付く。
「まさか!キョウヘイ!」
ユーキが叫ぶ。
男は後一歩で手が届く位置まで近寄ると、ポケットから手を出した。
手に持ったナイフが、ツリーのイルミネーションを反射する。
パーテーションを飛び越えて、駆け出す。
背中に痛みを感じた。
『どうしたんだろう?
痛いのは足じゃなかったっけ?
でも、どうでもいいや。
今は急がなくちゃ。』
小さな疑問に構っている暇はない。
後方が騒がしかった。
その騒ぎにカオルが振り向き、視線が合いそうになる。
後一歩踏み出せば、きっと俺に気付く筈だ。
だが、足に力が入らない。
曲がった膝が元に戻らない。
『あれっ?』そのまま前方に倒れた。
遠くで悲鳴が聞こえる。
『折角のイヴなのに騒がしいな。
カオルは俺に気付いてくれたかな?』
意識が薄れる中で、誰かが『ヤマト!』と呼んだ。
しかし最後まで誰が呼んだのか分からなかった。
(おしまい)
ワンボックスの助手席からユーキが手を振っている。
車体に書かれた旅館名を見て、笑ってしまう。
「やっぱり抜け出して来たか。」
タケルが呆れる。
「ゴメン。どうしても約束の場所で会いたかったんだ。」
視線を落とすと、ジーンズに血が滲んでいた。
「俺達に謝ることはない。
ただ自分の身体をもっと大切にしろ。
会ったら、すぐに病院へ戻るぞ。」
タケルが怒りを露わにする。
「まあ、それほど好きだってことだよね。」
ユーキが茶化す。
それを聞いたタケルは黙ってしまった。
「さあ、着いたぞ。
とっとと会って来い!」
タケルが怒鳴る。
車を降り立つと、運転席に回り込む。
ウインドウが下がり、タケルの顔が覗く。
「タケル、ユーキ、本当にありがとう。」
他にも言いたい事は沢山あるのに、それ以上の言葉が浮かばない。
「何だよ!やけに神妙じゃん。
早く行って来なよ。」
ユーキも後部座席から顔を出す。
踵を返し、エントランスへ向かう。
自動ドアの向こうに、懐かしいクリスマスツリーが見える。
「タケルも複雑な心境だね。
最愛の人を恋人の下に送り出すなんて。
まあ、そんなタケルが好きなんだけどさ!」
ユーキがウインクする。
「うるさい!」タケルが照れ隠しに吠えた。
「俺は感動の再会シーンを見物してくるよ。
タケルはどうする?」
ユーキが顔を覗き込む。
「仕方ねぇな。俺も付き合うか!」
アクセルを踏み込むと、急発進してパーキングへ続く坂を駆け降りた。
足がやけに重い。
ツリーがなかなか近付かない。
大きなツリーの下に、正装したカオルが見えた。
ネクタイをして、花束を持っている。
日に焼け、頬が少し削げていた。
精悍に変貌したカオルに、一年前の苦悩していた面影は微塵も感じない。
足を引きずり、先を急ぐ。
背後から忍び寄る男に、全く気付かなかった。
「まだカオル君はヤマトさんに気付いてないみたいだね。」
柱の陰から見ていたユーキが興奮気味に言う。
「あれっ、ヤマトさんの後ろにいる男、キョウヘイじゃないか?」
タケルは男を目で追う。
男はポケットに手を突っ込んだまま、ヤマトに近付く。
「まさか!キョウヘイ!」
ユーキが叫ぶ。
男は後一歩で手が届く位置まで近寄ると、ポケットから手を出した。
手に持ったナイフが、ツリーのイルミネーションを反射する。
パーテーションを飛び越えて、駆け出す。
背中に痛みを感じた。
『どうしたんだろう?
痛いのは足じゃなかったっけ?
でも、どうでもいいや。
今は急がなくちゃ。』
小さな疑問に構っている暇はない。
後方が騒がしかった。
その騒ぎにカオルが振り向き、視線が合いそうになる。
後一歩踏み出せば、きっと俺に気付く筈だ。
だが、足に力が入らない。
曲がった膝が元に戻らない。
『あれっ?』そのまま前方に倒れた。
遠くで悲鳴が聞こえる。
『折角のイヴなのに騒がしいな。
カオルは俺に気付いてくれたかな?』
意識が薄れる中で、誰かが『ヤマト!』と呼んだ。
しかし最後まで誰が呼んだのか分からなかった。
(おしまい)
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