妄想日記1<<ORIGIN>>

YAMATO

文字の大きさ
上 下
325 / 354
Chapter27(青春編)

Chapter27-⑬【Time goes by】

しおりを挟む
こんな時なのに、安堵する自分がいた。
『これでカオルに迷惑を掛けずに済んだ。
またタケルに助けてもらった…。』
結局、タケルはいつも助けてくれた。
 
ユーキとタケルのマンションに行った日の晩に、メールが届いた。
『今日は嫌な思いさせて、ゴメンな。
三浦がヤマトさんを狙っている。
誰も信じるな。
誰にも本当の事を言うな。
適当に嘘を交ぜろ。
三浦の常套手段は身近な奴から崩す事だ。
絶対に気を許すな。
エイタの言った事は本当だ。
もう助けてあげれないが、何かあったらGPSをONにするんだ。
最高のヒーローを送り込む。
このメールは読んだら、削除してくれ。』
メールにはそう書かれていた。
タケルはいつでもヒーローだった。
それなのに俺は、タケルを選ばない…。
 
近寄る三浦の足が縺れて、転びそうになる。
両手で受け止めると、黄色味を帯びた皺くちゃの顔が目の前にあった。
「相変わらず、ヤマトさんは甘いですね。」
三浦はそう言うと、唇を押し付けてきた。
「あなたとは違う形で、出会いたかった。」
嗄れた声が震える。
「だったら、やり直せよ。」
不思議と、優しい気持ちになっていた。
支える頭が左右に揺れる。
「それには及びません。
私は私の美学を全うします。」
伸ばした舌に刃先を押し当てた。
舌が縦に割れ、そこから血が滲んだ。
「いい切れ味です。
苦しまないで死ねそうですよ。」
血の付いたナイフを電灯に翳す。
 
ピカピカに輝く刀身に老いた男の顔が映る。
三浦が一番嫌いな野卑な顔だ。
固く目を瞑り、呼吸を整える。
ゆっくり瞳を開けると、刀身に美しい女性が浮かんでいた。
「桃さん…。」懐かしい名前を呼ぶ。
高校生の時にいた家政婦だ。
これまでの人生で一番頼りにした人かもしれない。
ずっと忘れていた人が何故思い出されたのか、自分でも分からない。
ただ笑いが込み上げてきた。
それは久しく感じた事のない陽気な感情だ。
はっきりと思い出す。
『そうだ!私は化け物を退治したんだ!
あの時と同じ様にナイフを突き立てればいいのだ!!』
気持ちが高揚し、腹の底から笑いが込み上げてきた。
 
「ありがとう、桃さん!」
振りかぶったナイフが大腿に突き刺さる。
「ぐわぁ!」激痛が全身を貫く。
『ゴツッ!』刃先が骨に当たる鈍い音がした。
血が吹き出し、辺りが真っ赤に染まる。
その時、玄関のドアが激しく叩かれた。
「ヤマトさん!いるんだろ!」
ユーキの声だ。
「どうしたんだ?三浦、開けろ!」
タケルもいる。
「ユーキ、下がれ。
ぶっ壊すぞ!」
ミサキの叫び声も聞こえた。
「みんな来てくれたんだ。
いつも迷惑ばかり掛けて、ゴメン…。」
薄れ行く意識の中で、皆の顔が去来した。
「いや、それには時間が足りない。」
三浦が吐き出す様に言う。
ナイフを引き抜き、頭上に翳す。
真っ赤な刃先から、血が滴り落ちる。
思い切り振りかざしたナイフが、心臓に深く刺さった。
赤い床が深紅に染まっていく。
『ガシャン!!』ドアの壊れる音が虚しく轟いた。
 
 
(つづく)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性的イジメ

ポコたん
BL
この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。 作品説明:いじめの性的部分を取り上げて現代風にアレンジして作成。 全二話 毎週日曜日正午にUPされます。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

消防士の義兄との秘密

熊次郎
BL
翔は5歳年上の義兄の大輔と急接近する。憧れの気持ちが欲望に塗れていく。たくらみが膨れ上がる。

水球部顧問の体育教師

熊次郎
BL
スポーツで有名な公明学園高等部。新人体育教師の谷口健太は水球部の顧問だ。水球部の生徒と先輩教師の間で、谷口は違う顔を見せる。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

支配された捜査員達はステージの上で恥辱ショーの開始を告げる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【 よくあるバイト 】完

霜月 雄之助
BL
若い時には 色んな稼ぎ方があった。 様々な男たちの物語。

プライド

東雲 乱丸
BL
「俺は屈しない! 」男子高校生が身体とプライドを蹂躙され調教されていく… ある日突然直之は男達に拉致され、強制的に肉体を弄ばれてしまう。 監禁されレイプによる肉体的苦痛と精神的陵辱を受ける続ける直之。 「ヤメてくれー! 」そう叫びながら必死に抵抗するも、肉体と精神の自由を奪われ、徐々に快楽に身を委ねてしまう。そして遂に―― この小説はR-18です。 18歳未満の方の閲覧は固くお断りいたします。 エロのみのポルノ作品です。 過激な生掘り中出しシーン等を含む暴力的な性表現がありますのでご注意下さい。 詳しくはタグを確認頂き、苦手要素が含まれる方はお避け下さい。 この小説はフィクションです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 また皆様に於かれましては、性感染症防止の観点からもコンドームを着用し、セーファーセックスを心掛けましょう。

処理中です...