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Chapter27(青春編)
Chapter27-⑬【Time goes by】
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こんな時なのに、安堵する自分がいた。
『これでカオルに迷惑を掛けずに済んだ。
またタケルに助けてもらった…。』
結局、タケルはいつも助けてくれた。
ユーキとタケルのマンションに行った日の晩に、メールが届いた。
『今日は嫌な思いさせて、ゴメンな。
三浦がヤマトさんを狙っている。
誰も信じるな。
誰にも本当の事を言うな。
適当に嘘を交ぜろ。
三浦の常套手段は身近な奴から崩す事だ。
絶対に気を許すな。
エイタの言った事は本当だ。
もう助けてあげれないが、何かあったらGPSをONにするんだ。
最高のヒーローを送り込む。
このメールは読んだら、削除してくれ。』
メールにはそう書かれていた。
タケルはいつでもヒーローだった。
それなのに俺は、タケルを選ばない…。
近寄る三浦の足が縺れて、転びそうになる。
両手で受け止めると、黄色味を帯びた皺くちゃの顔が目の前にあった。
「相変わらず、ヤマトさんは甘いですね。」
三浦はそう言うと、唇を押し付けてきた。
「あなたとは違う形で、出会いたかった。」
嗄れた声が震える。
「だったら、やり直せよ。」
不思議と、優しい気持ちになっていた。
支える頭が左右に揺れる。
「それには及びません。
私は私の美学を全うします。」
伸ばした舌に刃先を押し当てた。
舌が縦に割れ、そこから血が滲んだ。
「いい切れ味です。
苦しまないで死ねそうですよ。」
血の付いたナイフを電灯に翳す。
ピカピカに輝く刀身に老いた男の顔が映る。
三浦が一番嫌いな野卑な顔だ。
固く目を瞑り、呼吸を整える。
ゆっくり瞳を開けると、刀身に美しい女性が浮かんでいた。
「桃さん…。」懐かしい名前を呼ぶ。
高校生の時にいた家政婦だ。
これまでの人生で一番頼りにした人かもしれない。
ずっと忘れていた人が何故思い出されたのか、自分でも分からない。
ただ笑いが込み上げてきた。
それは久しく感じた事のない陽気な感情だ。
はっきりと思い出す。
『そうだ!私は化け物を退治したんだ!
あの時と同じ様にナイフを突き立てればいいのだ!!』
気持ちが高揚し、腹の底から笑いが込み上げてきた。
「ありがとう、桃さん!」
振りかぶったナイフが大腿に突き刺さる。
「ぐわぁ!」激痛が全身を貫く。
『ゴツッ!』刃先が骨に当たる鈍い音がした。
血が吹き出し、辺りが真っ赤に染まる。
その時、玄関のドアが激しく叩かれた。
「ヤマトさん!いるんだろ!」
ユーキの声だ。
「どうしたんだ?三浦、開けろ!」
タケルもいる。
「ユーキ、下がれ。
ぶっ壊すぞ!」
ミサキの叫び声も聞こえた。
「みんな来てくれたんだ。
いつも迷惑ばかり掛けて、ゴメン…。」
薄れ行く意識の中で、皆の顔が去来した。
「いや、それには時間が足りない。」
三浦が吐き出す様に言う。
ナイフを引き抜き、頭上に翳す。
真っ赤な刃先から、血が滴り落ちる。
思い切り振りかざしたナイフが、心臓に深く刺さった。
赤い床が深紅に染まっていく。
『ガシャン!!』ドアの壊れる音が虚しく轟いた。
(つづく)
『これでカオルに迷惑を掛けずに済んだ。
またタケルに助けてもらった…。』
結局、タケルはいつも助けてくれた。
ユーキとタケルのマンションに行った日の晩に、メールが届いた。
『今日は嫌な思いさせて、ゴメンな。
三浦がヤマトさんを狙っている。
誰も信じるな。
誰にも本当の事を言うな。
適当に嘘を交ぜろ。
三浦の常套手段は身近な奴から崩す事だ。
絶対に気を許すな。
エイタの言った事は本当だ。
もう助けてあげれないが、何かあったらGPSをONにするんだ。
最高のヒーローを送り込む。
このメールは読んだら、削除してくれ。』
メールにはそう書かれていた。
タケルはいつでもヒーローだった。
それなのに俺は、タケルを選ばない…。
近寄る三浦の足が縺れて、転びそうになる。
両手で受け止めると、黄色味を帯びた皺くちゃの顔が目の前にあった。
「相変わらず、ヤマトさんは甘いですね。」
三浦はそう言うと、唇を押し付けてきた。
「あなたとは違う形で、出会いたかった。」
嗄れた声が震える。
「だったら、やり直せよ。」
不思議と、優しい気持ちになっていた。
支える頭が左右に揺れる。
「それには及びません。
私は私の美学を全うします。」
伸ばした舌に刃先を押し当てた。
舌が縦に割れ、そこから血が滲んだ。
「いい切れ味です。
苦しまないで死ねそうですよ。」
血の付いたナイフを電灯に翳す。
ピカピカに輝く刀身に老いた男の顔が映る。
三浦が一番嫌いな野卑な顔だ。
固く目を瞑り、呼吸を整える。
ゆっくり瞳を開けると、刀身に美しい女性が浮かんでいた。
「桃さん…。」懐かしい名前を呼ぶ。
高校生の時にいた家政婦だ。
これまでの人生で一番頼りにした人かもしれない。
ずっと忘れていた人が何故思い出されたのか、自分でも分からない。
ただ笑いが込み上げてきた。
それは久しく感じた事のない陽気な感情だ。
はっきりと思い出す。
『そうだ!私は化け物を退治したんだ!
あの時と同じ様にナイフを突き立てればいいのだ!!』
気持ちが高揚し、腹の底から笑いが込み上げてきた。
「ありがとう、桃さん!」
振りかぶったナイフが大腿に突き刺さる。
「ぐわぁ!」激痛が全身を貫く。
『ゴツッ!』刃先が骨に当たる鈍い音がした。
血が吹き出し、辺りが真っ赤に染まる。
その時、玄関のドアが激しく叩かれた。
「ヤマトさん!いるんだろ!」
ユーキの声だ。
「どうしたんだ?三浦、開けろ!」
タケルもいる。
「ユーキ、下がれ。
ぶっ壊すぞ!」
ミサキの叫び声も聞こえた。
「みんな来てくれたんだ。
いつも迷惑ばかり掛けて、ゴメン…。」
薄れ行く意識の中で、皆の顔が去来した。
「いや、それには時間が足りない。」
三浦が吐き出す様に言う。
ナイフを引き抜き、頭上に翳す。
真っ赤な刃先から、血が滴り落ちる。
思い切り振りかざしたナイフが、心臓に深く刺さった。
赤い床が深紅に染まっていく。
『ガシャン!!』ドアの壊れる音が虚しく轟いた。
(つづく)
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