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Chapter27(青春編)
Chapter27-⑫【UZA】
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「23日ですか?明後日ですね。
それでは今晩迎えに行きます。
鍵を開けておくように。
準備が整ったら、照明を消しなさい。」
三浦は電話を切ると、ベッドにひっくり返る。
『この胸の高鳴りはいつ以来だろうか?
大学に受かった時か、初めて海外旅行に行った時か…。』
どちらにせよ20年以上の月日が経過していた。
『また来る!』
身体が痙攣し、のた打ち回る。
『嵐は直に過ぎる。』
自分に言い聞かす。
啖さえ吐き出してしまえば、嵐は過ぎる。
しかし半年前に比べると、勢力は格段に大きく長時間に渡って猛威を振るう。
渾身の力を振り絞って、啖を吐き出す。
目を閉じ、呼吸を整える。
「さて…、出掛けましょうか。」
誰に言う訳でもなく、声に出す。
ふらつく足で、出掛ける支度をする。
ホテルを出ると、近所のレンタカーに向かった。
「仔犬に追い掛けられたユーキが肥溜めに落ちてさ、めちゃくちゃ臭いんだ。」
キョウヘイが子供の頃の話をする。
今日は精神が安定しているのか、饒舌だった。
缶ビールが次々に空になる。
「でさ、すぐ泣くんだよ。
いつも俺がユーキを守ってたんだ。」
昔話は止まらない。
丸で何かから逃げている様だ。
「彼氏がタイから帰って来るんだって?」
キョウヘイが新しい缶ビールを開けた。
「そうなんだ。明後日の便で成田に着くんだ。」
何故か嘘が口から出た。
本当は羽田だが、本能が嘘をつかせた。
「迎えに行くの?」
質問する表情が曇る。
「いや、空港には行かない。
イヴに待ち合わせているんだ…。
その方が…、ロマンティックだろ…。」
睡魔が押し寄せる。
まだビールを三缶しか飲んでいないのに。
眠気に抗い、スマホを操作する。
「一年振りに会うなら…。」
キョウヘイの声が遠ざかっていく。
リビングの照明が消えたのと瞼が閉じたのは同時だった。
「いつまで寝ている気ですか?」
蹴りが鳩尾に命中した。
息苦しさの中、徐々に意識が戻る。
次第にピントが合い、ぼやけた輪郭がはっきりとしてきた。
目の前に老人が立っている。
それが三浦だと分かるのに、時間を要した。
咄嗟に立ち上がろうとする。
首輪に繋がれたチェーンがピンと張り、反動で尻餅をつく。
首筋に強烈な痛みが走った。
「相変わらず元気そうで、何よりです。」
笑う顔に一層皺が増える。
声は嗄れ、張りがない。
「もう終わりにしないか?」
落ち着いた口調で言う。
首の痛みが冷静にさせた。
「何を勝手なことを言っているんですか?
私の人生をめちゃくちゃにしておいて。」
皺だらけの顔が引き攣る。
「だったら、俺を殺せば済むだろ。
周りの人を巻き込むな。」
既に覚悟は出来ていた。
「そうは行きません。
私のポリシーは三倍返しです。
ただでは殺しませんよ。」
狂気を浮かべた視線が貫く。
「明日キョウヘイ君に、あなたの大切な人を迎えに行ってもらいます。
確か成田でしたよね。」
三浦が歌う様に言う。
部屋の隅に立っているキョウヘイに視線を移す。
虚ろな眼差しと搗ち合う。
『ゴメンな。俺のせいで、辛い目に逢わせて。』
頭を下げる。
怒りが沸々と込み上げてきた。
冷静を保つ事はもう限界だ。
「キョウヘイもカオルも関係ないだろ!」
ムキになって訴える。
「いや、大有りですよ。
あなたに関わった人は、皆不幸に巻き込まれるのです。
まあ、大好きな人と一緒に死なせてあげるのは、私の慈悲が故ですがね。」
甲高い声が部屋に響く。
急に喉を押さえて、苦しみだした。
見る見る内に、皺が真っ赤に染まる。
「ど、どうしたんだ?」
手を伸ばすが、三浦には届かない。
指の先で悶え、苦しむ。
「ぐおっ!」絶叫と共に、真っ赤な啖を吐き出した。
身体が痙攣していて、息が荒い。
「発作のインターバルが短くなりました。
どうやら時間に限りがあるようです。
カオル君と再会させてあげる事が、出来なくなりました。」
嗄れた声を絞り出す。
「さあ、最期にキスをしましょう。」
覚束ない足取りで近付いて来た。
(つづく)
それでは今晩迎えに行きます。
鍵を開けておくように。
準備が整ったら、照明を消しなさい。」
三浦は電話を切ると、ベッドにひっくり返る。
『この胸の高鳴りはいつ以来だろうか?
大学に受かった時か、初めて海外旅行に行った時か…。』
どちらにせよ20年以上の月日が経過していた。
『また来る!』
身体が痙攣し、のた打ち回る。
『嵐は直に過ぎる。』
自分に言い聞かす。
啖さえ吐き出してしまえば、嵐は過ぎる。
しかし半年前に比べると、勢力は格段に大きく長時間に渡って猛威を振るう。
渾身の力を振り絞って、啖を吐き出す。
目を閉じ、呼吸を整える。
「さて…、出掛けましょうか。」
誰に言う訳でもなく、声に出す。
ふらつく足で、出掛ける支度をする。
ホテルを出ると、近所のレンタカーに向かった。
「仔犬に追い掛けられたユーキが肥溜めに落ちてさ、めちゃくちゃ臭いんだ。」
キョウヘイが子供の頃の話をする。
今日は精神が安定しているのか、饒舌だった。
缶ビールが次々に空になる。
「でさ、すぐ泣くんだよ。
いつも俺がユーキを守ってたんだ。」
昔話は止まらない。
丸で何かから逃げている様だ。
「彼氏がタイから帰って来るんだって?」
キョウヘイが新しい缶ビールを開けた。
「そうなんだ。明後日の便で成田に着くんだ。」
何故か嘘が口から出た。
本当は羽田だが、本能が嘘をつかせた。
「迎えに行くの?」
質問する表情が曇る。
「いや、空港には行かない。
イヴに待ち合わせているんだ…。
その方が…、ロマンティックだろ…。」
睡魔が押し寄せる。
まだビールを三缶しか飲んでいないのに。
眠気に抗い、スマホを操作する。
「一年振りに会うなら…。」
キョウヘイの声が遠ざかっていく。
リビングの照明が消えたのと瞼が閉じたのは同時だった。
「いつまで寝ている気ですか?」
蹴りが鳩尾に命中した。
息苦しさの中、徐々に意識が戻る。
次第にピントが合い、ぼやけた輪郭がはっきりとしてきた。
目の前に老人が立っている。
それが三浦だと分かるのに、時間を要した。
咄嗟に立ち上がろうとする。
首輪に繋がれたチェーンがピンと張り、反動で尻餅をつく。
首筋に強烈な痛みが走った。
「相変わらず元気そうで、何よりです。」
笑う顔に一層皺が増える。
声は嗄れ、張りがない。
「もう終わりにしないか?」
落ち着いた口調で言う。
首の痛みが冷静にさせた。
「何を勝手なことを言っているんですか?
私の人生をめちゃくちゃにしておいて。」
皺だらけの顔が引き攣る。
「だったら、俺を殺せば済むだろ。
周りの人を巻き込むな。」
既に覚悟は出来ていた。
「そうは行きません。
私のポリシーは三倍返しです。
ただでは殺しませんよ。」
狂気を浮かべた視線が貫く。
「明日キョウヘイ君に、あなたの大切な人を迎えに行ってもらいます。
確か成田でしたよね。」
三浦が歌う様に言う。
部屋の隅に立っているキョウヘイに視線を移す。
虚ろな眼差しと搗ち合う。
『ゴメンな。俺のせいで、辛い目に逢わせて。』
頭を下げる。
怒りが沸々と込み上げてきた。
冷静を保つ事はもう限界だ。
「キョウヘイもカオルも関係ないだろ!」
ムキになって訴える。
「いや、大有りですよ。
あなたに関わった人は、皆不幸に巻き込まれるのです。
まあ、大好きな人と一緒に死なせてあげるのは、私の慈悲が故ですがね。」
甲高い声が部屋に響く。
急に喉を押さえて、苦しみだした。
見る見る内に、皺が真っ赤に染まる。
「ど、どうしたんだ?」
手を伸ばすが、三浦には届かない。
指の先で悶え、苦しむ。
「ぐおっ!」絶叫と共に、真っ赤な啖を吐き出した。
身体が痙攣していて、息が荒い。
「発作のインターバルが短くなりました。
どうやら時間に限りがあるようです。
カオル君と再会させてあげる事が、出来なくなりました。」
嗄れた声を絞り出す。
「さあ、最期にキスをしましょう。」
覚束ない足取りで近付いて来た。
(つづく)
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