妄想日記1<<ORIGIN>>

YAMATO

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Chapter27(青春編)

Chapter27-⑪【優しい嘘】

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ススムが妻子のいる事を告白したのは、一ヶ月前だった。
ユーキにとっては正に青天の霹靂だ。
実直な笑みが仮面だったと信じ難い。
離婚するかもしれないと告げられたが、身を引いた。
「俺の所為で離婚されたんじゃ、肩の荷が重いよ。
今度は年下の精力有り余ってる奴にするか。」
気丈に振る舞っているが、テンションが低めの日々が続く。
気分転換に引っ越しは好都合だった。
 
「やあ、ヤマトさん、久し振りです。」
先に座っていたススムが立ち上って挨拶した。
「ご好意に甘えて、ユーキに付いて来ました。」
差し出された手を握る。
指輪はしていない。
デートの度に外してくるのかと、勘ぐってしまう。
「食事は大勢の方が楽しいですから、気を遣わないで下さい。」
武骨な手が席を勧めてくれた。
食事会はユーキのトークを中心に、和やかに進んだ。
しかし気持ちはイヴに占領されていた。
機械的に相槌を打つが、話は入ってこない。
昨晩、カオルからメールが届いた。
『ご無沙汰してます。
約束、忘れてないか?
23日に帰国します。
あれから一年、バンコクで頑張りました。
イヴに迎えに行きます。』
もう空で言える程、何度も読んだ。
 
「今更遅いよ!」
大声で現実に引き戻された。
ススムの表情に困惑が浮かぶ。
「ヤマトさん、帰ろ!」
ユーキが勢いよく立ち上がると、椅子が倒れた。
慌てて椅子を起こす。
後姿は既に出口に向かっている。
「す、すいません。」
頭を下げ、後を追う。
「ちょっと待って下さい。
折角なので、これをどうぞ。」
ススムが手提げ袋を差し出す。
「ありがとうございます。
それとご馳走様でした。」
早口で礼を言い、開いたままの自動ドアをすり抜けた。
「ちょっと待ってよ!」
ユーキに追い付き、肩を掴む。
上下に震えている。
「勝手だよな!
離婚したから、縒りを戻そうなんて。」
俯いたユーキが吐き捨てる様に言う。
黙って、横を歩く。
「だいたい既婚を黙ったまま付き合うような奴、信用出来ないよ!」
怒りは収まらない様子だ。
「で、もうスーさんと会わないのか?」
正面を見たまま聞いてみる。
「…。」答えはない。
「だったら今決めないで、徐々に見極めればいいじゃん。
スーさんだって、好き好んで嘘ついた訳じゃないと思うし。
ユーキを失いたくないから、仕方なく嘘を言ったんだよ。」
ススムを弁護した。
 
『優しい嘘』便利な言葉だ。
優しい男ははっきりと物を言わない。
相手を困らせないために、曖昧な言葉でその場を凌ぐ。
そして結局、相手を傷付けてしまう。
「本当にそう思う?」
顔を上げたユーキが聞く。
「ああ。」
これも嘘だった。
『優しい嘘』をつく男はまた別の嘘を言う。
要はそれを許せるか、どうかだろう。
「行って来なよ。」
震える背中を押す。
「うん。ありがとう。」
ユーキが袖で、涙を拭く。
「鼻水も出てるよ。」
駅前で貰ったポケットティッシュを渡す。
ユーキは思い切り鼻を噛むと、レストランに向かって走り出した。
「泊まりだったら、連絡しろよ。」
小さくなる背中に声を掛ける。
走り出したユーキが手を挙げた。
 
独りで暮らすには、広すぎた。
『もしかしたら、ユーキは出て行くかもしれない。』
電話を切ると、漠然と思った。
その時は背中を押してあげようと思う。
玄関の呼び鈴が鳴った。
「ちょっと探しちゃった。
こんな立派なマンションだと思わなくて、素通りしてた。」
キョウヘイが照れ笑いする。
ぎこちない笑みだった。
「ユーキは?」
ソファーに座ったが、貧乏揺すりが絶えない。
「今日は泊まりだよ。
キョウヘイは泊まっていく?」
キッチンのカウンター越しから声を掛ける。
「あっ、うん。泊めてもらおうかな。」
落ち着きがない声だ。
「だったら、飯食うだろう?
何か買って来るよ。
玄関は鍵締めないでおくから。」
財布を持って出掛ける。
 
ドアが閉まった。
カウンターに置いてあるスマホに目を向ける。
上に置いてある鍵を退けると、画面が明るくなった。
開いたままの電話アプリで通話履歴を確認する。
少し前にユーキからの着信があった。
次にメールを開く。
受信ボックスの中に『カオル』の文字があった。
 
 
(つづく)
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