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Chapter27(青春編)
Chapter27-⑧【I Love you,SAYONARA】
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三浦は電話の内容に満悦する。
「役者が揃いました。
最高の脚本を用意してあげます。」
目に見えぬヤマトに語り掛ける。
クリスマスにカオルが帰国すると聞いて、笑いが止まらない。
『飛び切りのゲストの参加で、ロマンチックなクリスマスをプレゼントしてあげましょう。』
最も感動的で、最も残酷なシーンを思い描く。
極上のシナリオを念入りに練った。
「もしもし、クリスマスイヴの予約をお願いしたいのですが。」
都内の高級ホテルに電話を入れる。
「では、お願いします。」
電話を切ると、ジャケットを着て表に出た。
エイタが携帯電話を変え、逃げた事が腹立たしい。
ネックのタケルの動向を知る必要がある。
また肝心なところで邪魔されては、元も子もない。
マサフミに探させる事も可能だが、クリスマスまで時間がない。
仕方なく自分で動く事にする。
北風が巻き上げ、薄いジャケットを翻す。
寒空の下、マンションのエントランスを見守り続ける。
三本目の缶コーヒーを飲み終えた時、轟音と共に赤いZが現れた。
駐車場に入る手前で減速する。
助手席にエイタが座っていた。
「おやおや、こんな所にいましたか。
これは思わぬ収穫です。」
寒さも忘れ、笑みが零れる。
公園からマンション全体を見渡す。
数分後、照明の灯った部屋があった。
その部屋番号をメモ帳に書き留める。
公園の入り口にあった公衆電話に向かう。
小銭を入れると、119を押す。
「××公園前の××マンションの××号室から煙りが出ています。
火事のようなので、至急消防車をお願いします。」
それだけ言うと、電話を切る。
以前、ホテルでやられたお礼だ。
暫く待つと、サイレンが聞こえてきた。
徐々に音が大きくなる。
消防車がエントランスを塞ぐ。
マンションの住民が次々に出て来る。
その中にタケルとエイタの姿が見えた。
「××号室にお住まいの方いますか?」
消防隊員が叫ぶ。
手を上げたタケルが歩み寄った。
その隙にエイタの背後に忍び寄る。
「久し振りですね。」
後から声を掛ける。
恐怖に引き攣る顔が振り返った。
「これ以上、私に盾突くと、これ位では済みませんよ。」
持っていたナイフで背中を突き刺す。
刃先が骨で止まった。
柄から手を離し、人込みに紛れる。
造作もない仕事だった。
忠告が耳に届かなかった事が残念だ。
エイタが膝から崩れ、倒れ込む。
女性の悲鳴がサイレンを掻き消した。
人込みを抜け、公園に入る。
遊歩道を歩きながら、外した手袋をポケットに仕舞った。
少し早まったかとも思う。
タケルの情報元を失った。
しかしこの爽快感は他には替えがたい。
恐怖に怯えるエイタの表情が脳裏に蘇る。
下半身が熱くなり、欲望が抑え切れない。
「トモヒラを呼び出すか。」
駅に着くと、着信履歴から電話を掛けた。
エレベータで降りる階を間違えた。
珍しい事だ。
燻る焔が思考を鈍らせていた。
来月からホテルの工事が始まる。
そうなると東京に留まる事が出来ない。
しかしエイタ独りを残す訳にもいかなかった。
選択を悩む等、経験した事がない。
「見舞いを買って来たぞ。」
好物のコーヒーゼリーを差し出す。
「あっ、タケル!痛っ!」
慌てて起き上がろうとしたエイタが顔を顰めた。
「静かに寝てないと、ダメだろ!」
親の様に嗜め、布団を掛け直す。
そして優しく抱擁した。
見れば見る程、記憶の中のヤマトに似ている。
小学生に戻った錯覚を覚えた。
「これから着工前の最終調整で、伊豆に出掛けて来る。
週末に戻るから、ここで待っててくれないか。」
心配しない様、穏やかな視線を向ける。
ゼリーを運ぶ手が口の前で止まった。
不安げな視線が突き刺さる。
「ここなら、大丈夫だ。
そして退院したら、一緒に伊豆に行こう。
ずっと、一緒だ。」
悩んだ末の考えを口にした。
泣き笑いする顔を目の当たりにし、覚悟を決める。
額にキスをすると、病室を出た。
イグニッションキーを回し、アクセルを踏み込む。
Zが急発進をする。
もう後戻りは出来ない。
「ヤマトさん、さよなら。」
小さな呟きはエキゾーストノートが飲み込んだ。
(つづく)
「役者が揃いました。
最高の脚本を用意してあげます。」
目に見えぬヤマトに語り掛ける。
クリスマスにカオルが帰国すると聞いて、笑いが止まらない。
『飛び切りのゲストの参加で、ロマンチックなクリスマスをプレゼントしてあげましょう。』
最も感動的で、最も残酷なシーンを思い描く。
極上のシナリオを念入りに練った。
「もしもし、クリスマスイヴの予約をお願いしたいのですが。」
都内の高級ホテルに電話を入れる。
「では、お願いします。」
電話を切ると、ジャケットを着て表に出た。
エイタが携帯電話を変え、逃げた事が腹立たしい。
ネックのタケルの動向を知る必要がある。
また肝心なところで邪魔されては、元も子もない。
マサフミに探させる事も可能だが、クリスマスまで時間がない。
仕方なく自分で動く事にする。
北風が巻き上げ、薄いジャケットを翻す。
寒空の下、マンションのエントランスを見守り続ける。
三本目の缶コーヒーを飲み終えた時、轟音と共に赤いZが現れた。
駐車場に入る手前で減速する。
助手席にエイタが座っていた。
「おやおや、こんな所にいましたか。
これは思わぬ収穫です。」
寒さも忘れ、笑みが零れる。
公園からマンション全体を見渡す。
数分後、照明の灯った部屋があった。
その部屋番号をメモ帳に書き留める。
公園の入り口にあった公衆電話に向かう。
小銭を入れると、119を押す。
「××公園前の××マンションの××号室から煙りが出ています。
火事のようなので、至急消防車をお願いします。」
それだけ言うと、電話を切る。
以前、ホテルでやられたお礼だ。
暫く待つと、サイレンが聞こえてきた。
徐々に音が大きくなる。
消防車がエントランスを塞ぐ。
マンションの住民が次々に出て来る。
その中にタケルとエイタの姿が見えた。
「××号室にお住まいの方いますか?」
消防隊員が叫ぶ。
手を上げたタケルが歩み寄った。
その隙にエイタの背後に忍び寄る。
「久し振りですね。」
後から声を掛ける。
恐怖に引き攣る顔が振り返った。
「これ以上、私に盾突くと、これ位では済みませんよ。」
持っていたナイフで背中を突き刺す。
刃先が骨で止まった。
柄から手を離し、人込みに紛れる。
造作もない仕事だった。
忠告が耳に届かなかった事が残念だ。
エイタが膝から崩れ、倒れ込む。
女性の悲鳴がサイレンを掻き消した。
人込みを抜け、公園に入る。
遊歩道を歩きながら、外した手袋をポケットに仕舞った。
少し早まったかとも思う。
タケルの情報元を失った。
しかしこの爽快感は他には替えがたい。
恐怖に怯えるエイタの表情が脳裏に蘇る。
下半身が熱くなり、欲望が抑え切れない。
「トモヒラを呼び出すか。」
駅に着くと、着信履歴から電話を掛けた。
エレベータで降りる階を間違えた。
珍しい事だ。
燻る焔が思考を鈍らせていた。
来月からホテルの工事が始まる。
そうなると東京に留まる事が出来ない。
しかしエイタ独りを残す訳にもいかなかった。
選択を悩む等、経験した事がない。
「見舞いを買って来たぞ。」
好物のコーヒーゼリーを差し出す。
「あっ、タケル!痛っ!」
慌てて起き上がろうとしたエイタが顔を顰めた。
「静かに寝てないと、ダメだろ!」
親の様に嗜め、布団を掛け直す。
そして優しく抱擁した。
見れば見る程、記憶の中のヤマトに似ている。
小学生に戻った錯覚を覚えた。
「これから着工前の最終調整で、伊豆に出掛けて来る。
週末に戻るから、ここで待っててくれないか。」
心配しない様、穏やかな視線を向ける。
ゼリーを運ぶ手が口の前で止まった。
不安げな視線が突き刺さる。
「ここなら、大丈夫だ。
そして退院したら、一緒に伊豆に行こう。
ずっと、一緒だ。」
悩んだ末の考えを口にした。
泣き笑いする顔を目の当たりにし、覚悟を決める。
額にキスをすると、病室を出た。
イグニッションキーを回し、アクセルを踏み込む。
Zが急発進をする。
もう後戻りは出来ない。
「ヤマトさん、さよなら。」
小さな呟きはエキゾーストノートが飲み込んだ。
(つづく)
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