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Chapter24(沖縄バトル編)
Chapter24-①【真夏の果実】
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ユーキとの奇妙な共同生活が始まって、二週間が経った。
「ただいま。」キッチンに立っているユーキに声を掛ける。
「おかえり。ご飯作っておいたよ。
俺はこれからバイト行って来るから、ゆっくり食べな。」
エプロン姿のユーキがウインクした。
「ありがとう。」
今、ユーキの存在は大きい。
この二週間、ユーキは敢えてフトシの話はしなかった。
フトシのDVDも見当たらない。
それが嬉しくもあり、悲しくもあった。
フトシがいなくなった直後は四六時中その姿を追っていたが、今は数時間に満たない。
記憶が風化していく事に虚しさを覚えた。
「ただいまぁ!デザート買って来たよ。」
ユーキが終電で帰って来た。
「今日、久し振りにトレーニング行っってきたよ。」
冷蔵庫を明けている後姿に報告する。
「ちょっとはやる気が出てきたみたいだね。
お祝いしよう!」
テーブルにケーキが並ぶ。
「今日さ、スーさんが来て、沖縄旅行に誘われたんだ。」
ユーキの視線はコーヒーを注ぐカップに向いていた。
目を合わせない理由を知り、心苦しい。
「良かったじゃん。
俺はもう平気だから、行って来なよ。」
ケーキを口いっぱいに頬張り、元気さをアピールする。
「でさ、スーさんがヤマトさんも誘えって、言うんだ。
俺もその方がいいと思うんだけど、どうかな?」
珍しくフォークを使って食べていた。
慣れない所為か、鼻に生クリームが付いている。
「クリーム付いてるよ。
俺はいいよ。
二人で沖縄のバカンスを楽しんで…。」
言い掛けて、何かが引っ掛かった。
「どうしたの?」
怪訝な顔が聞く。
『沖縄』のキーワードで、リクの顔を思い出す。
慌ててスマホを操作すると、未読のメールが大量に表示された。
その中にリクからのメールもあった。
『沖縄のリクだ。
盆の時期は混むから、早い内に航空券押さえちゃえ。
朝一、最終便が狙い目だ。
取れたら連絡くれ。
休み合わせるぜ。』
『リクだ。連絡ないのは来れないって事か?』
二通目のメールは切れ気味だ。
急いでメールを打ち込む。
『ちょっと体調崩して、連絡遅くなってすみません。
明日、手配したら連絡します。』
慌てて送信ボタンを押す。
改めてリクの話をする。
「だったら行って来な。
のんびりしてくるといいよ。」
ユーキの舌が鼻先に伸びる。
「うん、ありがとう。
絶対、向こうで会おうよ。」
願望を込めて言った。
翌日の退社後、旅行会社に寄ってみる。
お盆時期は終日、キャンセル待ちだった。
少しずらしてお盆休み後半に出発して、平日に戻るフライトをブッキングする。
往路は最終便、復路は始発便という、最悪のスケジュールだが致し方ない。
カフェに立ち寄り、リクにメールする。
『フライトの予約が出来ました。
日程が合う日がありましたら、宜しくお願いします。』
送信ボタンを押すと、タバコに火を点ける。
ユーキにも日程を送ってみた。
袋から買ってきたガイドブックを取り出す。
暫くすると、メールを受信した。
『リクだ。前半は休みが合うが、後半は平日だから仕事だ。
まあ昼間は適当に焼いてろ。
夜は相手してやる。
ホテルは必要ないぜ。
俺の家に泊まれ。
変態同士、盛り上がろぜ。』
メールを読んで、思わずニンマリしてしまう。
開いたページの一枚の写真に目が留まる。
真っ白な砂浜と真っ青な海が果てしなく続く。
初めての沖縄旅行に想いを馳せる。
那覇空港に着いたのは11時に近かい。
開いた自動ドアから熱気がむっと押し寄せる。
ユーキ達は先週沖縄から戻って来ていて、入れ違いになった。
「おーい、ここだ!」
リクが手を振っているのが見えた。
懐かしさに駆け寄る。
「おう、良く来たな!」
焼けた手が肩を叩く。
「お世話になります。」
羽田で買った土産を渡す。
「腹減ってないか?」
リクが労ってくれた。
見掛けに寄らず、気遣いの出来る男の様だ。
「羽田でカレー食っただけなんで、腹ペコなんだ。」
言うと同時に腹が鳴り、二人で笑った。
(つづく)
「ただいま。」キッチンに立っているユーキに声を掛ける。
「おかえり。ご飯作っておいたよ。
俺はこれからバイト行って来るから、ゆっくり食べな。」
エプロン姿のユーキがウインクした。
「ありがとう。」
今、ユーキの存在は大きい。
この二週間、ユーキは敢えてフトシの話はしなかった。
フトシのDVDも見当たらない。
それが嬉しくもあり、悲しくもあった。
フトシがいなくなった直後は四六時中その姿を追っていたが、今は数時間に満たない。
記憶が風化していく事に虚しさを覚えた。
「ただいまぁ!デザート買って来たよ。」
ユーキが終電で帰って来た。
「今日、久し振りにトレーニング行っってきたよ。」
冷蔵庫を明けている後姿に報告する。
「ちょっとはやる気が出てきたみたいだね。
お祝いしよう!」
テーブルにケーキが並ぶ。
「今日さ、スーさんが来て、沖縄旅行に誘われたんだ。」
ユーキの視線はコーヒーを注ぐカップに向いていた。
目を合わせない理由を知り、心苦しい。
「良かったじゃん。
俺はもう平気だから、行って来なよ。」
ケーキを口いっぱいに頬張り、元気さをアピールする。
「でさ、スーさんがヤマトさんも誘えって、言うんだ。
俺もその方がいいと思うんだけど、どうかな?」
珍しくフォークを使って食べていた。
慣れない所為か、鼻に生クリームが付いている。
「クリーム付いてるよ。
俺はいいよ。
二人で沖縄のバカンスを楽しんで…。」
言い掛けて、何かが引っ掛かった。
「どうしたの?」
怪訝な顔が聞く。
『沖縄』のキーワードで、リクの顔を思い出す。
慌ててスマホを操作すると、未読のメールが大量に表示された。
その中にリクからのメールもあった。
『沖縄のリクだ。
盆の時期は混むから、早い内に航空券押さえちゃえ。
朝一、最終便が狙い目だ。
取れたら連絡くれ。
休み合わせるぜ。』
『リクだ。連絡ないのは来れないって事か?』
二通目のメールは切れ気味だ。
急いでメールを打ち込む。
『ちょっと体調崩して、連絡遅くなってすみません。
明日、手配したら連絡します。』
慌てて送信ボタンを押す。
改めてリクの話をする。
「だったら行って来な。
のんびりしてくるといいよ。」
ユーキの舌が鼻先に伸びる。
「うん、ありがとう。
絶対、向こうで会おうよ。」
願望を込めて言った。
翌日の退社後、旅行会社に寄ってみる。
お盆時期は終日、キャンセル待ちだった。
少しずらしてお盆休み後半に出発して、平日に戻るフライトをブッキングする。
往路は最終便、復路は始発便という、最悪のスケジュールだが致し方ない。
カフェに立ち寄り、リクにメールする。
『フライトの予約が出来ました。
日程が合う日がありましたら、宜しくお願いします。』
送信ボタンを押すと、タバコに火を点ける。
ユーキにも日程を送ってみた。
袋から買ってきたガイドブックを取り出す。
暫くすると、メールを受信した。
『リクだ。前半は休みが合うが、後半は平日だから仕事だ。
まあ昼間は適当に焼いてろ。
夜は相手してやる。
ホテルは必要ないぜ。
俺の家に泊まれ。
変態同士、盛り上がろぜ。』
メールを読んで、思わずニンマリしてしまう。
開いたページの一枚の写真に目が留まる。
真っ白な砂浜と真っ青な海が果てしなく続く。
初めての沖縄旅行に想いを馳せる。
那覇空港に着いたのは11時に近かい。
開いた自動ドアから熱気がむっと押し寄せる。
ユーキ達は先週沖縄から戻って来ていて、入れ違いになった。
「おーい、ここだ!」
リクが手を振っているのが見えた。
懐かしさに駆け寄る。
「おう、良く来たな!」
焼けた手が肩を叩く。
「お世話になります。」
羽田で買った土産を渡す。
「腹減ってないか?」
リクが労ってくれた。
見掛けに寄らず、気遣いの出来る男の様だ。
「羽田でカレー食っただけなんで、腹ペコなんだ。」
言うと同時に腹が鳴り、二人で笑った。
(つづく)
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