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Chapter19(合コン編)
Chapter19-⑩【BLUE BIRD】
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「ヤマトさんはタイチの名前を書かなかったんだ?」
帰り道、キョウヘイが聞いてきた。
カップルはユーキとセイジだけだ。
ユーキを残し、二人でホテルを出た。
「まあね。ユーキとのプレイを見てたら、セイジの方が良くなっちゃってさ。
あわよくば俺の名前を書いてくれる事を期待しちゃった。」
笑って答える。
「ふーん。」キョウヘイはその答えを信じてはいない様だ。
暫く沈黙が続く。
「おい、ちょっと待ってよ!」
背後から声がする。
タイチが小走りに追い掛けて来た。
追い付いたタイチは肩で息をしている。
「何で、ヤマトさんは俺の名前を書いてくれなかったんだ!」
タイチが怒鳴る。
「何でと言われても、困るんだけど…。」
言葉に詰まる。
商店街の真ん中で、ゲイの痴話喧嘩みたいで格好悪い。
とりあえず人気のない喫茶店に入る。
「俺には関係ないから帰るよ。」
店の前で、キョウヘイが言った。
「関係大ありだ。
一緒に来いよ。」
キョウヘイの腕を引っ張り、店に引き入れる。
ドアを開けると鈴が鳴る、昔ながらの喫茶店だ。
案の定、閑古鳥が鳴いていた。
マスターはコーヒーを置くと、奥に引っ込んだ。
「俺がタイチの名前を書かなかった理由だっけ?」
最初に口を開く。
「そうだよ!絶対、書いてくれると思ったのに!」
タイチがテーブルを叩く。
コーヒーに波紋が広がる。
「タイチの青い鳥は近くにいるからだよ。」
抽象的な答えを用意しておいた。
「青い鳥?近く?」
タイチは意味が分からず、単語を繰り返す。
キョウヘイには意味が通じた様で、視線が合う。
「キョウヘイも素直になれ。
きっと後悔するよ。」
お節介だと思うが、言わずにいられない。
キョウヘイが視線を逸らす。
「タイチのこと、今でも好きなんだろ?」
今度はストレートに言った。
タイチが目に見えて驚くのが分かる。
「もういいよ。終わったんだ。」
キョウヘイは吐き捨てる様に言うと、財布を出す。
「それはタイチが決めることだよ。」
今度はタイチに視線を移す。
タイチはコーヒーの水面を見たまま無言だ。
「もういい、帰るよ!」
キョウヘイはコインを置くと、立ち上がる。
コーヒーの水面に再び波紋が広がった。
「キョウヘイ、待てよ!」
タイチが口を開く。
「俺さ、ずっとキョウヘイに嫌われていると思っていたから…。」
タイチがボソッと呟く。
「別に嫌ってなんかいないよ。」
座り直したキョウヘイが真っすぐタイチを見た。
どうも良い方向に進みそうだ。
「じゃあ、後は二人でやれよ。」
腰を浮かすと、アナルが空腹を訴えた。
「ヤマトさん、ゴメン。」
タイチが頭を下げる。
「ヤマトさん、ありがとう。」
キョウヘイが手を握る。
「お互い素直になれよ。」
格好付けて伝票を抜き取り、出口に向かう。
「お客さん、会計はこっちだよ。」
マスターが奥から手招きすると、二人が爆笑した。
「結局、独りか。」
思わず口を吐く。
陽が沈むと、流石にまだまだ寒い。
無性にカオルの声が聞きたくなった。
時計を見る。
9時だから、バンコクは7時だ。
「もう仕事は終わっているかな?」
スマホの電話帳からカオルの番号を出す。
通話ボタンを押しかけて、やっぱり止める。
自分で決めた事だ。
『クリスマスまで300日を切っている。』
アナルへそう言い聞かす。
アウターの襟を立てて、駅へ急いだ。
(完)
帰り道、キョウヘイが聞いてきた。
カップルはユーキとセイジだけだ。
ユーキを残し、二人でホテルを出た。
「まあね。ユーキとのプレイを見てたら、セイジの方が良くなっちゃってさ。
あわよくば俺の名前を書いてくれる事を期待しちゃった。」
笑って答える。
「ふーん。」キョウヘイはその答えを信じてはいない様だ。
暫く沈黙が続く。
「おい、ちょっと待ってよ!」
背後から声がする。
タイチが小走りに追い掛けて来た。
追い付いたタイチは肩で息をしている。
「何で、ヤマトさんは俺の名前を書いてくれなかったんだ!」
タイチが怒鳴る。
「何でと言われても、困るんだけど…。」
言葉に詰まる。
商店街の真ん中で、ゲイの痴話喧嘩みたいで格好悪い。
とりあえず人気のない喫茶店に入る。
「俺には関係ないから帰るよ。」
店の前で、キョウヘイが言った。
「関係大ありだ。
一緒に来いよ。」
キョウヘイの腕を引っ張り、店に引き入れる。
ドアを開けると鈴が鳴る、昔ながらの喫茶店だ。
案の定、閑古鳥が鳴いていた。
マスターはコーヒーを置くと、奥に引っ込んだ。
「俺がタイチの名前を書かなかった理由だっけ?」
最初に口を開く。
「そうだよ!絶対、書いてくれると思ったのに!」
タイチがテーブルを叩く。
コーヒーに波紋が広がる。
「タイチの青い鳥は近くにいるからだよ。」
抽象的な答えを用意しておいた。
「青い鳥?近く?」
タイチは意味が分からず、単語を繰り返す。
キョウヘイには意味が通じた様で、視線が合う。
「キョウヘイも素直になれ。
きっと後悔するよ。」
お節介だと思うが、言わずにいられない。
キョウヘイが視線を逸らす。
「タイチのこと、今でも好きなんだろ?」
今度はストレートに言った。
タイチが目に見えて驚くのが分かる。
「もういいよ。終わったんだ。」
キョウヘイは吐き捨てる様に言うと、財布を出す。
「それはタイチが決めることだよ。」
今度はタイチに視線を移す。
タイチはコーヒーの水面を見たまま無言だ。
「もういい、帰るよ!」
キョウヘイはコインを置くと、立ち上がる。
コーヒーの水面に再び波紋が広がった。
「キョウヘイ、待てよ!」
タイチが口を開く。
「俺さ、ずっとキョウヘイに嫌われていると思っていたから…。」
タイチがボソッと呟く。
「別に嫌ってなんかいないよ。」
座り直したキョウヘイが真っすぐタイチを見た。
どうも良い方向に進みそうだ。
「じゃあ、後は二人でやれよ。」
腰を浮かすと、アナルが空腹を訴えた。
「ヤマトさん、ゴメン。」
タイチが頭を下げる。
「ヤマトさん、ありがとう。」
キョウヘイが手を握る。
「お互い素直になれよ。」
格好付けて伝票を抜き取り、出口に向かう。
「お客さん、会計はこっちだよ。」
マスターが奥から手招きすると、二人が爆笑した。
「結局、独りか。」
思わず口を吐く。
陽が沈むと、流石にまだまだ寒い。
無性にカオルの声が聞きたくなった。
時計を見る。
9時だから、バンコクは7時だ。
「もう仕事は終わっているかな?」
スマホの電話帳からカオルの番号を出す。
通話ボタンを押しかけて、やっぱり止める。
自分で決めた事だ。
『クリスマスまで300日を切っている。』
アナルへそう言い聞かす。
アウターの襟を立てて、駅へ急いだ。
(完)
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