妄想日記1<<ORIGIN>>

YAMATO

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Chapter18(聖夜編)

Chapter18-⑫【恋人がサンタクロース】

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かなり歩いたところに人気のないベンチがあり、そこに座る。
「ショウとは一年前に長距離恋愛の末、自然消滅したと話しただろう。
あの日、俺はショウを驚かそうと、黙ってアパートに行ったんだ。」
カオルが苦虫を噛み潰す様な顔で語り出した。
「別に話さなくてもいいよ。
それより土産を…。」
カオルを労い、話題を変える。
「いや、ヤマトさんには聞いて欲しいんだ。
あの日…。呼び鈴を押すと、タオルを巻いたショウが現れた。
全身汗を拭き、見るからにセックスの途中だった。
怒って帰ろうとした俺に、悪びれた様子も見せずに3Pしようと言ったんだ。」
語り口は次第に怒気を帯びていく。
黙ったままカオルの握り拳を見詰めた。
 
「ショウは所詮、そんな奴さ。
俺はそんな奴と縒りを戻す気はない。」
カオルが言い放つ。
「俺が大切なのは、ヤマトだけだ。
分かってくれよ!」
太い二の腕に両肩を揺さ振られる。
揺さ振られた分だけ、決心が崩れていく。
「じゃあ、こうしないか?」
朽ちかけた決心が口を動かす。
「暫く時間を置かない?
お互いの気持ちが変わらなかったら、来年のイヴの夜7時に会おう。
一昨日のホテルのロビーのクリスマスツリーの前で。」
苦渋の思いから僅かな希望を見出す。
タケルの凄さを改めて知る。
「ヤマトはタケルさんの元に戻るのか?」
不安な顔が覗き込む。
「それはないよ。タケルに対して失礼だ。
タケルと付き合う時は…、世界中で一番タケルを好きになった時。
今、一番好きなのは…。」
重い口が言い淀む。
「一番好きなのは?」
カオルが催促する。
「目の前にいる、優柔不断な奴だよ。」
答えながら頭を掻く。
 
「分かった。
後一年、バンコクで頑張って、男を磨くよ。
そして胸を張って、ヤマトを迎えに来る。」
カオルが手を差し出す。
「来年、イヴをやり直そう。」
ガッチリと握手を交わす。
「サンタクロースになって、恋人をさらいに来る。
そろそろ時間だ。行かないと…。」
搭乗便のアナウンスが流れた。
「あそこまで送るよ。」
保安検査場は直ぐそこだ。
後ろから肩を捕まれた。
バンコク便の出発が迫る。
「急がないと…。」
振り返ると、カオルの真顔が迫っていた。
二人の唇が重なる。
持っていた紙袋を落としてしまう。
永遠に思える時間だった。
どちらともなく唇を離す。
「これ、落としたよ。」
カオルが紙袋を拾ってくれた。
「それ、お土産。
来年のイヴにそれを着て、迎えに来てくれたら嬉しいよ。」
照れ笑いを浮かべ、歩き始める。
「俺さ、二度と約束を破らないと、約束するよ。」
肩を並べて歩くカオルが言う。
「何かそれって、変じゃない?」
二人で声をあげて笑った。
来年のイヴを考えると、足取りが軽い。
丸でダンスを踊っている様に。
たった363日だ。
晴れやかな気持ちの中、ユーキにラインを出す。
『年明けのタイ行きの話、ダメになっちゃった。ゴメンね。』
暫くすると、返事が返ってきた。
『タイの話って、何だっけ?
誰か行くの?』
 
 
(完)
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