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Chapter18(聖夜編)
Chapter18-⑪【Silent Eve】
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「苦しいのか?」
突っ伏したままでいると、ショウが聞いてきた。
「全然、平気。
それより…、もう一発イカせてくれ。」
再び腰を振るのが分かる。
饐えた臭いが部屋を満たしていく。
「ああ、濃厚なザーメンをもっと流し込んでくれ。」
閉じた瞳から涙が溢れ落ちた。
テーブルの上のスマホが音を出さずに震え続ける。
「もう10時か。」時計を見て呟く。
何度も電話したが、留守電のメッセージが流れるだけだ。
これが最後と思い、リダイアルする。
七回の呼び出し音が続き、切ろうと思った瞬間に繋がった。
「あっ、カオル!何かあったの?」
急き込んで聞く。
「俺、ショウだけど。」
予想外の声が聞こえてきた。
スマホを持つ手が震える。
「今、カオルと一緒なんだ。
悪いけど、カオルを自由にしてくれないか?
あいつが苦しんでいる姿を見てると、可哀相でさ。
頼むよ。」電話は一方的に切れた。
暫く脂ぎったディスプレイを眺める。
「そっか…。」独り言が口を吐く。
食べ物を片付け、部屋を出る。
フロントで鍵を渡す。
「外出でございますか?」
「いえ、チェックアウトで。」
「畏まりました。」
聖なる夜にすっぽかされた不憫な男にもホテルマンは顔色一つ変えない。
街はクリスマスのネオンで華やかだ。
その中をぼんやりと駅へ向かう。
ポケットの中でスマホが鳴る。
着信を見ると、カオルからだ。
そのまま出ずにいると、メッセージが吹き込まれた。
メッセージを聞くことなく、削除する。
ただ眠りたかった。
そして目を覚ますと、イヴの朝に戻っているだろう。
翌日起きると、着信履歴が二画面に跨がっていた。
カオルの名前が並ぶ。
全ての履歴を消す。
のんびり朝食を取り、出掛ける支度をする。
いつも通り、ジムに向かう。
これが普段と変わらない生活だ。
何も変わっていないと、自分に言い聞かす。
ジムから出ると、メールが一通届いていた。
『本当にゴメン。
謝った位で済まないことは分かってる。
だけどゴメン。
ショウが何言ったか知らないけど、俺の気持ちは変わってない。
ヤマトさんは俺が守る。
仕事があるので、予定通り明日の便で帰ります。
最後に会えることを期待しています。』
カオルからだった。
削除しようと操作するが、最後の決定ボタンが押せない。
暫く躊躇し、結局クリアボタンで操作を無効にした。
駅前の牛丼屋に入り、牛丼を頼む。
「並一丁!」サンタクロースの格好した店員が威勢良く言った。
悩みに悩んだ結果、空港へ向かう。
年末の休暇を海外で過ごす人達で、ごった返している。
『会えないかもしれないな。』
不安に駆られる。
しかしこれは賭けだった。
もし会えなければ、それまでの事だ。
一番見付け易い出国ゲートの前で待つ。
フライトの二時間前だった。
混雑時としては微妙な時間だ。
もしかするとショウと一緒かもしれない。
その時は声を掛けずに帰ろうと決める。
30分程待つと、キョロキョロしたカオルが遠くに見えた。
横を通り過ぎるが、前の外人の影になって気付いていない。
『後ろ見て。』メールを送る。
カオルが右手に持ってたスマホを慌てて覗く。
そして後ろを振り向く。
外人がカートを押して移動した。
視線が合う。
カオルが駆け寄って来た。
「来てくれてありがとう。」
頭を掻く姿が滲む。
「カオルと会うのは最後になるかもしれないから…。」
つい本心とは逆の事を言ってしまう。
「本当にそう思っているのか?」
カオルが大声を出す。
回りの人が驚いて、振り返る。
「ヤマトさんは本当にそれでいいのか?」
尚も語気を緩めない。
「少し歩こうか。」
カオルの手を引っ張る。
温もりを感じ、決心が揺らぐ。
(つづく)
突っ伏したままでいると、ショウが聞いてきた。
「全然、平気。
それより…、もう一発イカせてくれ。」
再び腰を振るのが分かる。
饐えた臭いが部屋を満たしていく。
「ああ、濃厚なザーメンをもっと流し込んでくれ。」
閉じた瞳から涙が溢れ落ちた。
テーブルの上のスマホが音を出さずに震え続ける。
「もう10時か。」時計を見て呟く。
何度も電話したが、留守電のメッセージが流れるだけだ。
これが最後と思い、リダイアルする。
七回の呼び出し音が続き、切ろうと思った瞬間に繋がった。
「あっ、カオル!何かあったの?」
急き込んで聞く。
「俺、ショウだけど。」
予想外の声が聞こえてきた。
スマホを持つ手が震える。
「今、カオルと一緒なんだ。
悪いけど、カオルを自由にしてくれないか?
あいつが苦しんでいる姿を見てると、可哀相でさ。
頼むよ。」電話は一方的に切れた。
暫く脂ぎったディスプレイを眺める。
「そっか…。」独り言が口を吐く。
食べ物を片付け、部屋を出る。
フロントで鍵を渡す。
「外出でございますか?」
「いえ、チェックアウトで。」
「畏まりました。」
聖なる夜にすっぽかされた不憫な男にもホテルマンは顔色一つ変えない。
街はクリスマスのネオンで華やかだ。
その中をぼんやりと駅へ向かう。
ポケットの中でスマホが鳴る。
着信を見ると、カオルからだ。
そのまま出ずにいると、メッセージが吹き込まれた。
メッセージを聞くことなく、削除する。
ただ眠りたかった。
そして目を覚ますと、イヴの朝に戻っているだろう。
翌日起きると、着信履歴が二画面に跨がっていた。
カオルの名前が並ぶ。
全ての履歴を消す。
のんびり朝食を取り、出掛ける支度をする。
いつも通り、ジムに向かう。
これが普段と変わらない生活だ。
何も変わっていないと、自分に言い聞かす。
ジムから出ると、メールが一通届いていた。
『本当にゴメン。
謝った位で済まないことは分かってる。
だけどゴメン。
ショウが何言ったか知らないけど、俺の気持ちは変わってない。
ヤマトさんは俺が守る。
仕事があるので、予定通り明日の便で帰ります。
最後に会えることを期待しています。』
カオルからだった。
削除しようと操作するが、最後の決定ボタンが押せない。
暫く躊躇し、結局クリアボタンで操作を無効にした。
駅前の牛丼屋に入り、牛丼を頼む。
「並一丁!」サンタクロースの格好した店員が威勢良く言った。
悩みに悩んだ結果、空港へ向かう。
年末の休暇を海外で過ごす人達で、ごった返している。
『会えないかもしれないな。』
不安に駆られる。
しかしこれは賭けだった。
もし会えなければ、それまでの事だ。
一番見付け易い出国ゲートの前で待つ。
フライトの二時間前だった。
混雑時としては微妙な時間だ。
もしかするとショウと一緒かもしれない。
その時は声を掛けずに帰ろうと決める。
30分程待つと、キョロキョロしたカオルが遠くに見えた。
横を通り過ぎるが、前の外人の影になって気付いていない。
『後ろ見て。』メールを送る。
カオルが右手に持ってたスマホを慌てて覗く。
そして後ろを振り向く。
外人がカートを押して移動した。
視線が合う。
カオルが駆け寄って来た。
「来てくれてありがとう。」
頭を掻く姿が滲む。
「カオルと会うのは最後になるかもしれないから…。」
つい本心とは逆の事を言ってしまう。
「本当にそう思っているのか?」
カオルが大声を出す。
回りの人が驚いて、振り返る。
「ヤマトさんは本当にそれでいいのか?」
尚も語気を緩めない。
「少し歩こうか。」
カオルの手を引っ張る。
温もりを感じ、決心が揺らぐ。
(つづく)
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