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Chapter16(バンコク編)
Chapter16-⑭【揺れる想い】
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スワンナプーム空港は大変な混雑だった。
遊び回っていたユーキは土産を何も買ってない。
免税店で買い物をしたいユーキの要望で早めの到着が功を奏した。
「ねっ、機内のワインは赤にする?
白も捨てがたいけど。」
「お前、まだ飲み足りないのか?
昨夜、あれだけ飲んだくせに。」
二人の会話を聞きながら、昨夜の事を思い返す。
最後の晩だったので、三人でしこたま飲んだ。
「ヤマトさん、貞操具を取ってやる。」
部屋に戻ったタケルが言う。
リビングから聞こえてくる豪快な鼾にはすっかり慣れていた。
「二週間振りの開放感はどうだ?
ぶっ放したいだろう。」
肩を抱いた手がベッドへ導く。
足がふらつき、掌から肩が擦り抜けた。
目を擦り、ベッドに倒れ込む。
「呑み過ぎた…、眠い…。」
寝言の様に呟く。
タケルは布団を掛けると、シャワーを浴びに行った。
「ゴメン。」電気が点いたバスルームに向かって謝る。
酷い頭痛で目が覚めた。
完全に二日酔いだ。
何とかチェックアウトまでに、荷物を纏める。
全てが二重に見えた。
「ヤマトさん、大丈夫か?」
タケルが気遣う。
「んー。気持ち悪いけど、何とか大丈夫。」
ふらつく足で、スーツケースを押した。
カウンターでチェックインを済ませ、出国ゲートに向かう。
前をユーキとタケルが笑いながら、歩いている。
ポケットの中でスマホが震えた。
ディスプレイを見ると、メールマークが点滅している。
カオルからだ。
『後ろを見ろよ。』とだけ書かれている。
振り向くと、カオルが両手を振っていた。
「タケル、ちょっとお腹が痛いんだ。
先に行ってて。」腹を押さえながら、眉間に皺を寄せる。
「大丈夫か?待ってようか?」
タケルはあくまでも優しい。
「クソしてるの待たれたら、落ち着かないよ。
直に搭乗ゲートに向かうから、先に行ってて。」
顔を顰めながらも明るく答える。
「それもそうだな。
搭乗ゲート前の免税店にいるから。」
タケルは片手を上げると、歩き出した。
カオルの下に走る。
「やっぱり来ちゃった。」
はにかむ顔が愛おしい。
「凄く嬉しいよ。」
飾らずに言った。
二人肩を並べて歩く。
「これプレゼントだ。」
カオルが紙袋を差し出す。
「何、何?」受け取った袋の中を覗く。
「スーパーマンのスーツだ。
来月これを着たヤマトをめちゃくちゃに犯してやるから。」
カオルはそう言うと、肩に手をわます。
首筋に二の腕の血管が当たる。
心が安らぐ。
安心して、その腕に身を寄せる事が出来た。
「それとこれ。」
ポケットから小さい袋を取り出す。
袋を破ると、象のスマホストラップだった。
カオルは自分のスマホを取り出す。
同じ象がぶら下がっていた。
唇がフリーズし、言葉に詰まる。
感謝の台詞が出てこない。
「ダサいかな?」
無言の意味を取り違えて、カオルは頭を掻く。
「いや、カオルに似てるよ。」
涙は見せまいと、照れ隠しに強がる。
「じゃあ、そろそろ行かないと。」
立ち止まる脚が震えた。
「ああ、しっかり出国しろよ。」
最後の微笑みだ。
「ありがとう。」
今言えるのは、平凡な言葉だけだった。
最後に握手すると、もう振り返らない。
カオルの事は五感が全て記憶している。
象のストラップを握り締めると、出国ゲートに向かった。
免税店を覗くと、ユーキが両手にTシャツを持って悩んでいた。
「あっ、ヤマトさん。
どっちがいいと思う。」
両手のTシャツを翳す。
「どうせユーキはTシャツなんて、着ないじゃん。
着てるところ見た事ないし。
それよりタケルは?」
辺りを見回すが、タケルの姿がない。
「ああ、いつものアレに引っ掛かっているよ。マラビアス。
どうせ引っ掛かるの分かっているんだから、外せはいいのに。」
ユーキが二枚のTシャツを交互に見ながら言う。
「ポリシーなのかな?」
その正解は分からない。
「それにさ、おかしいと思わない。
ヤマトさんはともかく、俺の旅行代まで持つなんて。」
ユーキが首を捻る。
「タケルって、謎多き男だよな。
俺は凄い組織がバックにいると思っているんだ。」
突飛な推理を披露した。
「んな、バカな。
ユーキは絶対、探偵にはなれないな。」
乾いた口で笑って見せる。
そこにタケルが戻ってくる姿が見えた。
後ろに空港職員を二人引き連れている。
タケルが立ち止まると、職員達もピタッと止まった。
顔の前で手を振ると、二人は頭を下げ、平謝りだ。
「なっ!普通、空港職員が付いて来る?
絶対、バックから圧力を掛けたんだよ。
俺の推理冴えてない?」
ユーキはパイプを吹かす仕草をすると、試着室へ向かう。
「どうせ着ないんだから、買うだけ無駄だよ!名探偵!」
大声が空港の高い天井に飲み込まれた。
(完)
遊び回っていたユーキは土産を何も買ってない。
免税店で買い物をしたいユーキの要望で早めの到着が功を奏した。
「ねっ、機内のワインは赤にする?
白も捨てがたいけど。」
「お前、まだ飲み足りないのか?
昨夜、あれだけ飲んだくせに。」
二人の会話を聞きながら、昨夜の事を思い返す。
最後の晩だったので、三人でしこたま飲んだ。
「ヤマトさん、貞操具を取ってやる。」
部屋に戻ったタケルが言う。
リビングから聞こえてくる豪快な鼾にはすっかり慣れていた。
「二週間振りの開放感はどうだ?
ぶっ放したいだろう。」
肩を抱いた手がベッドへ導く。
足がふらつき、掌から肩が擦り抜けた。
目を擦り、ベッドに倒れ込む。
「呑み過ぎた…、眠い…。」
寝言の様に呟く。
タケルは布団を掛けると、シャワーを浴びに行った。
「ゴメン。」電気が点いたバスルームに向かって謝る。
酷い頭痛で目が覚めた。
完全に二日酔いだ。
何とかチェックアウトまでに、荷物を纏める。
全てが二重に見えた。
「ヤマトさん、大丈夫か?」
タケルが気遣う。
「んー。気持ち悪いけど、何とか大丈夫。」
ふらつく足で、スーツケースを押した。
カウンターでチェックインを済ませ、出国ゲートに向かう。
前をユーキとタケルが笑いながら、歩いている。
ポケットの中でスマホが震えた。
ディスプレイを見ると、メールマークが点滅している。
カオルからだ。
『後ろを見ろよ。』とだけ書かれている。
振り向くと、カオルが両手を振っていた。
「タケル、ちょっとお腹が痛いんだ。
先に行ってて。」腹を押さえながら、眉間に皺を寄せる。
「大丈夫か?待ってようか?」
タケルはあくまでも優しい。
「クソしてるの待たれたら、落ち着かないよ。
直に搭乗ゲートに向かうから、先に行ってて。」
顔を顰めながらも明るく答える。
「それもそうだな。
搭乗ゲート前の免税店にいるから。」
タケルは片手を上げると、歩き出した。
カオルの下に走る。
「やっぱり来ちゃった。」
はにかむ顔が愛おしい。
「凄く嬉しいよ。」
飾らずに言った。
二人肩を並べて歩く。
「これプレゼントだ。」
カオルが紙袋を差し出す。
「何、何?」受け取った袋の中を覗く。
「スーパーマンのスーツだ。
来月これを着たヤマトをめちゃくちゃに犯してやるから。」
カオルはそう言うと、肩に手をわます。
首筋に二の腕の血管が当たる。
心が安らぐ。
安心して、その腕に身を寄せる事が出来た。
「それとこれ。」
ポケットから小さい袋を取り出す。
袋を破ると、象のスマホストラップだった。
カオルは自分のスマホを取り出す。
同じ象がぶら下がっていた。
唇がフリーズし、言葉に詰まる。
感謝の台詞が出てこない。
「ダサいかな?」
無言の意味を取り違えて、カオルは頭を掻く。
「いや、カオルに似てるよ。」
涙は見せまいと、照れ隠しに強がる。
「じゃあ、そろそろ行かないと。」
立ち止まる脚が震えた。
「ああ、しっかり出国しろよ。」
最後の微笑みだ。
「ありがとう。」
今言えるのは、平凡な言葉だけだった。
最後に握手すると、もう振り返らない。
カオルの事は五感が全て記憶している。
象のストラップを握り締めると、出国ゲートに向かった。
免税店を覗くと、ユーキが両手にTシャツを持って悩んでいた。
「あっ、ヤマトさん。
どっちがいいと思う。」
両手のTシャツを翳す。
「どうせユーキはTシャツなんて、着ないじゃん。
着てるところ見た事ないし。
それよりタケルは?」
辺りを見回すが、タケルの姿がない。
「ああ、いつものアレに引っ掛かっているよ。マラビアス。
どうせ引っ掛かるの分かっているんだから、外せはいいのに。」
ユーキが二枚のTシャツを交互に見ながら言う。
「ポリシーなのかな?」
その正解は分からない。
「それにさ、おかしいと思わない。
ヤマトさんはともかく、俺の旅行代まで持つなんて。」
ユーキが首を捻る。
「タケルって、謎多き男だよな。
俺は凄い組織がバックにいると思っているんだ。」
突飛な推理を披露した。
「んな、バカな。
ユーキは絶対、探偵にはなれないな。」
乾いた口で笑って見せる。
そこにタケルが戻ってくる姿が見えた。
後ろに空港職員を二人引き連れている。
タケルが立ち止まると、職員達もピタッと止まった。
顔の前で手を振ると、二人は頭を下げ、平謝りだ。
「なっ!普通、空港職員が付いて来る?
絶対、バックから圧力を掛けたんだよ。
俺の推理冴えてない?」
ユーキはパイプを吹かす仕草をすると、試着室へ向かう。
「どうせ着ないんだから、買うだけ無駄だよ!名探偵!」
大声が空港の高い天井に飲み込まれた。
(完)
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