妄想日記1<<ORIGIN>>

YAMATO

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Chapter7(ミサキ編)

Chapter7-⑭【You're My Best Friend】

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岩場の向こうからは何も聞こえてこない。
サンダルを履き、岩場の影から様子を伺う。
二人共、シートの上でぐったりしていた。
ギャラリーも見当たらない。
俺は荷物を片付ける。
「おら!帰るぞ!」
二人の顔を見下ろし、声を掛けた。
明日の飛行機で帰るミサキをホテル迄送る。
車の中、兄貴は鼾を掻いて爆睡していた。
「撮影中、どうしてマスクを取ったんだ?」
昨日から気になっていた事を聞いてみる。
「全面服従って、証拠だよ。」
ミサキが笑いながら答えた。
「どういう事だ?」
意味が分からず、尚も聞く。
「タクミさんとユーキさんの邪魔は決してしない。
ただ、たまにユーキさんと会う事を許して欲しいんだ。」
バックミラー越しの視線からミサキの真意を知る。
 
「…。」
上手い言葉が浮かばない。
「もし俺がタクミさんの気に入らない事をしたら…。」
「したら?」
先を促す。
「ジョーカーを使えば良いのさ。」
ミサキは了解を得ようと必死だ。
条件を受け入れるかどうか、分からない状態でミサキは誠意を見せた。
裏でバレない様に兄貴を誘い出す手段もあったのに。
それが俺の気持ちを動かした。
「東京に戻ったら、動画をコピーして兄貴に持って行かすよ。」
弟の様なミサキを落胆させたくない。
ミサキは生意気な位が丁度良い。
「マジ?」
真ん丸に開いた瞳に俺が映る。
「ああ、本当だ。」
俺は自分自身に言う。 
4つ違いのミサキの純粋さが羨ましい。
俺はいつしかそれを失っていた。
ハンドルを握りながら想いに耽る。
車内から鼾以外の音は失せていた。
 
最終日の空は厚い雲に覆われた。
毎日焼きまくった兄貴は想像以上に黒い。
東京で兄貴を見たら、誰も日本人だとは思わないだろう。
空港のレンタカーに着いた。
「いらっしゃいませ。」
元気良く声を掛けてきたのはアツシだ。
車を降りた兄貴は気まずそうに下を向く。
「こんにちは。車を返しに来ました。」
事務的に挨拶をする。
「先日はごめんな。」
近寄ってきたアツシが手を差し出した。
「いや、こちらこそ。」
拍子抜けした俺はその手を握り返す。
嫌味のひとつでも、言われると思っていた。
「あの日の帰り道、冷静になってクニと話したんだ。
あんな姑息な手段を使わず、素直にヤりたいと言えば良かったと。」
アツシはくったくのない笑顔で言う。
「こんな事で沖縄を嫌いにならないで欲しいんだ。」
それが本心だという事が伝わってきた。
「勿論、また近い内に来ます。」
半分、社交辞令だが希望を含めて答える。
また来たいというのは本心だ。
「その時は、是非連絡してくれ。」
アツシが名刺を差し出す。
「クニさんにも宜しくと、伝えて下さい。」
受け取った名刺を財布にしまうと、穏やかな気持ちに包まれた。
 
 
(つづく)
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