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Chapter11(転生編)
Chapter11-⑩【リンネ】
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「待っていました。」
仔猫はジャンプすると、男の腕の中へ収まった。
「にぁー。」大きく欠伸をすると、瞼を閉じる。
居心地良い場所に戻り、安堵した様だ。
「アキノリ…。」仔猫を抱く男を呆然と見詰める。
どんよりとした岩場に男が座っていた。
フードを目深に被り、口元しか見えない。
「どうして…、ここに…。
逃げ切れたのか?」
混乱する思考とは別に口が勝手に動く。
「シオンさんのお陰で何とか。
フェリーや電車を乗り継いで、阿寒湖へ向かいました。
そしてここにいます。」
男の言っている意味を理解する。
それは自分も同じ世界にいる事を教えてくれた。
「やっと二人だけになれました。
ずっと、ずっと二人だけでいましょう。」
男が仔猫を撫でた。
あれ程、誰かを欲していたのに、何故か動揺する。
「あっ、いや、その…。」
口籠る言葉が衝いて出た。
「そうでした。この子もいるから三人でした。」
仔猫を抱く男が微笑んだ。
「さあ、行きましょう。」
男が手を伸ばす。
「いっ、行くって、何処へ?」
声が震える。
「二人だけの世界へです。
もう誰にも邪魔されない所です。」
男が歩み寄ってきた。
「独りで寂しかったでしょう?
これからは僕が何時も隣にいます。
安心して下さい。」
フードから覗く口が語り掛ける。
「そっか…、ずっと一緒にいてくれるのか…。」
シオンも一歩進んだ。
背中に温かい物を感じた。
ふと下を見ると、うっすらだが影が出来ている。
だが男は闇の中だ。
はっきりと二人の間に影の境界線が出来ている。
「さあ、早く。」
男の腕がピンと伸びた。
シオンも腕を伸ばし、暗闇の中へ掌を差し出す。
その時、何か泣き出した。
空から轟音が響く。
「さあ、急いで。」
男の手が境界線の直前で止まる。
シオンの伸ばした掌が空を切った。
「どうして…、握ってくれないのですか?」
切なげな声は消え入りそうだ。
「ごめん、待ってる人がいるんだ。」
手を引っ込め、空を仰ぐ。
轟音の正体に気付いたのだ。
『テツオが待っている。』
「もう直ぐ夢は覚める。
アキノリとはここでお別れだ。」
シオンは振り返ると背中を見せる。
「そうですか…、なら…。」
声はもう殆ど聞こえない。
眩しい陽射しを手の甲で遮る。
鬱蒼とした森が消えていく。
明るさが増し、鳴き声が耳をつんざく。
もう夢は終焉を迎えていた。
「おっ、意識が戻りそうだ。」
「シオンさん、しっかりして!
テツオはここよ!」
「奥さん、安心して下さい。
峠は越えた様です。」
眩しさに瞳が開かない。
夢中で手を伸ばす。
その先に小さな指が絡んだ。
鳴き声が笑い声に変わっていく。
「お子さんもお父さんの無事が分かったみたいですね。」
折れそうな小さな指から温もりが伝わってきた。
『なら…。』
その後に続く言葉を模索する。
温もりの中、再び闇の中へ落ちていく。
答が見付かった気がした。
「次に目が覚めた時に覚えているかな?」
瞼の裏のオレンジ色が退いていく。
「きっと覚えているさ。」
闇が支配する中へ落ちていく感覚が心地好い。
「テツオ…、大きくなったら一緒に海へ行こうな…。
ずっと、ずっと一緒にいような…。」
指が離れていく事にも気付かず、再び闇の中へ引き摺り込まれた。
「また夢の続きを見れるかな?」
(完)
仔猫はジャンプすると、男の腕の中へ収まった。
「にぁー。」大きく欠伸をすると、瞼を閉じる。
居心地良い場所に戻り、安堵した様だ。
「アキノリ…。」仔猫を抱く男を呆然と見詰める。
どんよりとした岩場に男が座っていた。
フードを目深に被り、口元しか見えない。
「どうして…、ここに…。
逃げ切れたのか?」
混乱する思考とは別に口が勝手に動く。
「シオンさんのお陰で何とか。
フェリーや電車を乗り継いで、阿寒湖へ向かいました。
そしてここにいます。」
男の言っている意味を理解する。
それは自分も同じ世界にいる事を教えてくれた。
「やっと二人だけになれました。
ずっと、ずっと二人だけでいましょう。」
男が仔猫を撫でた。
あれ程、誰かを欲していたのに、何故か動揺する。
「あっ、いや、その…。」
口籠る言葉が衝いて出た。
「そうでした。この子もいるから三人でした。」
仔猫を抱く男が微笑んだ。
「さあ、行きましょう。」
男が手を伸ばす。
「いっ、行くって、何処へ?」
声が震える。
「二人だけの世界へです。
もう誰にも邪魔されない所です。」
男が歩み寄ってきた。
「独りで寂しかったでしょう?
これからは僕が何時も隣にいます。
安心して下さい。」
フードから覗く口が語り掛ける。
「そっか…、ずっと一緒にいてくれるのか…。」
シオンも一歩進んだ。
背中に温かい物を感じた。
ふと下を見ると、うっすらだが影が出来ている。
だが男は闇の中だ。
はっきりと二人の間に影の境界線が出来ている。
「さあ、早く。」
男の腕がピンと伸びた。
シオンも腕を伸ばし、暗闇の中へ掌を差し出す。
その時、何か泣き出した。
空から轟音が響く。
「さあ、急いで。」
男の手が境界線の直前で止まる。
シオンの伸ばした掌が空を切った。
「どうして…、握ってくれないのですか?」
切なげな声は消え入りそうだ。
「ごめん、待ってる人がいるんだ。」
手を引っ込め、空を仰ぐ。
轟音の正体に気付いたのだ。
『テツオが待っている。』
「もう直ぐ夢は覚める。
アキノリとはここでお別れだ。」
シオンは振り返ると背中を見せる。
「そうですか…、なら…。」
声はもう殆ど聞こえない。
眩しい陽射しを手の甲で遮る。
鬱蒼とした森が消えていく。
明るさが増し、鳴き声が耳をつんざく。
もう夢は終焉を迎えていた。
「おっ、意識が戻りそうだ。」
「シオンさん、しっかりして!
テツオはここよ!」
「奥さん、安心して下さい。
峠は越えた様です。」
眩しさに瞳が開かない。
夢中で手を伸ばす。
その先に小さな指が絡んだ。
鳴き声が笑い声に変わっていく。
「お子さんもお父さんの無事が分かったみたいですね。」
折れそうな小さな指から温もりが伝わってきた。
『なら…。』
その後に続く言葉を模索する。
温もりの中、再び闇の中へ落ちていく。
答が見付かった気がした。
「次に目が覚めた時に覚えているかな?」
瞼の裏のオレンジ色が退いていく。
「きっと覚えているさ。」
闇が支配する中へ落ちていく感覚が心地好い。
「テツオ…、大きくなったら一緒に海へ行こうな…。
ずっと、ずっと一緒にいような…。」
指が離れていく事にも気付かず、再び闇の中へ引き摺り込まれた。
「また夢の続きを見れるかな?」
(完)
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