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Chapter10(続テツオ編)
Chapter10-⑩【宿命】
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「勿論、陽子さんじゃないと駄目だ。
君と一緒にいたいんだ。」
思い付きに思われたが、口に出した事でそれは絶対的な定めとなる。
「嬉しいわ。」
陽子はもう涙を拭わない。
大粒の雨が頬を流れ落ちていく。
「年内に後片付けして、年明けに迎えにくる。
大事な時に一緒にいれなくてゴメンな。」
「それは大丈夫よ。
元々一人で産もうと思っていたのだから。」
「子供が産まれたら、式を上げよう。
式の手配も頼んでいいかな?」
「それなら父に頼むわ。
喜んで役場を駆け回ってくれる筈よ。
シオンさんが婿に来てくれるなら。」
「そう言ってもらえると助かる。
翻訳の仕事を細々としていくから、贅沢はさせてあげられないけど。」
「それも大丈夫。
貧乏には慣れているから。
それよりこの子とシオンさんがいてくれるだけで、私は幸せだわ。」
陽子が膨らんだお腹を擦った。
「触ってもいい?」
「どうぞ。お父さんよ。」
恐る恐る手を触れてみた。
新しい命に触れ、鼓動が高まる。
『もう直ぐ次の世界へ旅立つ。』
テツオは言った。
この中の子はテツオに間違いない。
シオンは愛おしげにお腹を擦り、耳を当てた。
「大門さんも呼びましょうよ。」
「部長、沖縄迄来てくれるかな?」
「絶対に来てくれるわ。
だってシオンさんは大門さんのお気に入りだから。
たっぷりご祝儀を頂きましょう。」
陽子がスマホを出し、今後の予定を入れていく。
「そうすると、ツグムと兄弟になるのか。
何て呼ぼう?」
「お兄さんでいいんじゃない?
そういえばシオンさんのご両親はどちらにいるの?
ご挨拶しないと。」
「海外なんだ。
かなり僻地で結婚式にも来れるかどうか。
日程が決まったら、連絡してみるよ。」
いい加減な嘘がすらすら出た。
「親戚は日本にいないんだ。
参列者は陽子さん側だけにしておいてくれないか。」
「一人もですか?」
「ああ、それで頼む。」
窓を叩く風が強まる。
もう引き返せない事を覚悟した。
「ではお父さんとお母さんに宜しくお伝えて下さい。」
空港で人目を憚らず、陽子のお腹に口を寄せる。
「ええ、凄く喜んでいました。
今日も来ると聞かなかったのですが、少し体調を崩していて。」
覗き込む陽子が言い淀む。
「年が明けたら、毎日会えます。
もう少し待って下さい。」
笑顔を向けるが、想いは別だった。
意識を掌に集中する。
胎動を感じた。
『もう直ぐ会える。』
そう思い、陽子から離れる。
「直ぐに会えます。
呉々も無理しない様に。」
シオンは自分に言い聞かす。
「シオンさんもお元気で。
式の日取りが決まったら、連絡します。」
微笑む陽子に手を上げ、搭乗ゲートへ向かった。
シートベルトを締め、外へ目を向ける。
雨に濡れた滑走路が鮮やかに輝く。
やるべき事は残っていた。
アキノリにどう話を切り出すか。
迷惑は掛けたくない。
年末に出版披露パーティーかあると聞いていた。
その後、イツキと撮影をする筈だ。
そこ迄、残ろうと決める。
昨日の大雨が嘘の様に晴れ渡っていた。
掌に胎動の名残がある。
その手を窓に向け、朝陽を遮った。
太陽が好きだったテツオに思い切り陽射しを浴びせてあげる。
「大きくなったら、一緒に日焼けに行こうな。」
逆光になった手の甲に語り掛けた。
(完)
君と一緒にいたいんだ。」
思い付きに思われたが、口に出した事でそれは絶対的な定めとなる。
「嬉しいわ。」
陽子はもう涙を拭わない。
大粒の雨が頬を流れ落ちていく。
「年内に後片付けして、年明けに迎えにくる。
大事な時に一緒にいれなくてゴメンな。」
「それは大丈夫よ。
元々一人で産もうと思っていたのだから。」
「子供が産まれたら、式を上げよう。
式の手配も頼んでいいかな?」
「それなら父に頼むわ。
喜んで役場を駆け回ってくれる筈よ。
シオンさんが婿に来てくれるなら。」
「そう言ってもらえると助かる。
翻訳の仕事を細々としていくから、贅沢はさせてあげられないけど。」
「それも大丈夫。
貧乏には慣れているから。
それよりこの子とシオンさんがいてくれるだけで、私は幸せだわ。」
陽子が膨らんだお腹を擦った。
「触ってもいい?」
「どうぞ。お父さんよ。」
恐る恐る手を触れてみた。
新しい命に触れ、鼓動が高まる。
『もう直ぐ次の世界へ旅立つ。』
テツオは言った。
この中の子はテツオに間違いない。
シオンは愛おしげにお腹を擦り、耳を当てた。
「大門さんも呼びましょうよ。」
「部長、沖縄迄来てくれるかな?」
「絶対に来てくれるわ。
だってシオンさんは大門さんのお気に入りだから。
たっぷりご祝儀を頂きましょう。」
陽子がスマホを出し、今後の予定を入れていく。
「そうすると、ツグムと兄弟になるのか。
何て呼ぼう?」
「お兄さんでいいんじゃない?
そういえばシオンさんのご両親はどちらにいるの?
ご挨拶しないと。」
「海外なんだ。
かなり僻地で結婚式にも来れるかどうか。
日程が決まったら、連絡してみるよ。」
いい加減な嘘がすらすら出た。
「親戚は日本にいないんだ。
参列者は陽子さん側だけにしておいてくれないか。」
「一人もですか?」
「ああ、それで頼む。」
窓を叩く風が強まる。
もう引き返せない事を覚悟した。
「ではお父さんとお母さんに宜しくお伝えて下さい。」
空港で人目を憚らず、陽子のお腹に口を寄せる。
「ええ、凄く喜んでいました。
今日も来ると聞かなかったのですが、少し体調を崩していて。」
覗き込む陽子が言い淀む。
「年が明けたら、毎日会えます。
もう少し待って下さい。」
笑顔を向けるが、想いは別だった。
意識を掌に集中する。
胎動を感じた。
『もう直ぐ会える。』
そう思い、陽子から離れる。
「直ぐに会えます。
呉々も無理しない様に。」
シオンは自分に言い聞かす。
「シオンさんもお元気で。
式の日取りが決まったら、連絡します。」
微笑む陽子に手を上げ、搭乗ゲートへ向かった。
シートベルトを締め、外へ目を向ける。
雨に濡れた滑走路が鮮やかに輝く。
やるべき事は残っていた。
アキノリにどう話を切り出すか。
迷惑は掛けたくない。
年末に出版披露パーティーかあると聞いていた。
その後、イツキと撮影をする筈だ。
そこ迄、残ろうと決める。
昨日の大雨が嘘の様に晴れ渡っていた。
掌に胎動の名残がある。
その手を窓に向け、朝陽を遮った。
太陽が好きだったテツオに思い切り陽射しを浴びせてあげる。
「大きくなったら、一緒に日焼けに行こうな。」
逆光になった手の甲に語り掛けた。
(完)
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