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Chapter8(リスタート編)
Chapter8-⑥【I'm out】
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抵抗が弱まり、じわじわとディルドが消えていく。
「すっ、凄い…。」
もう躊躇はない。
偉大なアナルに崇拝の念を抱く。
壊れそうという思いは失せ、ただ力の限り押し込んだ。
雨粒が窓を打ち付ける。
アキノリがパワーポイントを使いながら、プロットを説明していく。
あの巨大なディルドを入れたまま淀みなく話す姿を見て、感心するばかりだ。
「タカユキとケンゴが手を繋ぎ、阿寒湖へ入水していくシーンで終わりです。」
担当者の矢作は黙って聞いていた。
「以上が次作の構成ですが、どうでしょうか?」
アキノリがエンターキーを押すと、表紙に戻る。
黒い背景に『愛ゆえに』の文字が浮かんだ。
「先生の作品にしては全うした純愛物ですね。
ファンは何時通りの裏切りを期待していると思うのですが。」
「たまには読者を裏切る事も必要かと思いまして。」
アキノリがソファーに腰を下ろす。
シオンはドキドキしながらアキノリの股間を凝視した。
「確かにそうですね。
私はこれで良いと思います。
パワポを送って貰えますか?
社に戻って、編集長の承認を得てきます。」
矢作は温くなったコーヒーを啜った。
「それだけですか?」
アキノリが身を乗り出して聞く。
「ええ、良く出来た構成だと思いました。
何か心配事でも?」
逆に矢作が聞き返す。
「いや、全編ゲイの話ですので、そこが受け入れられるか心配でした。」
アキノリが不安げな表情を浮かべる。
矢作がちらっとシオンを見た。
「それは問題ないでしょう。
アンケートでも『愛の形』では最後の短編が断トツの人気でしたし。
今の先生の人気なら多少の冒険は許容範囲です。」
矢作がカップを置く。
最後の短編はゲイの恋愛ストーリーだ。
「アニメでもボーイズラブが売れている時代です。
『愛の形』で10代から20代の若い女性の購買層が一気に増えました。
まあ、それは先生のルックスが大きく起因していると思いますがね。」
矢作は鞄を持つと立ち上がる。
「ご馳走でした。
私の初めて読んだ小説は『阿寒に果つ』です。
『愛ゆえに』を令和の『阿寒に果つ』にしましょう。」
矢作はがっちりとアキノリの手を握った。
「それと一つお願いがあります。
と言うより、出版に当たっての条件です。」
固い表情でアキノリが口を開く。
「どんな事ですか?」矢作が首を傾げる。
「ハードカバーの表紙は僕のイメージ通りにして下さい。」
「出来る限りご要望に添える様に頑張ります。
先生のイメージを聞かせて下さい。」
矢作は又ソファーに腰を下ろした。
「拍子抜けです。
大幅な軌道修正を言われるかと覚悟していたのですが、すんなり通りました。」
矢作が帰った後、雲間から陽が差し込んできた。
「雨が止んだ様だ。
これなら受賞したら、もっと自由が利くんじゃないの?」
コーヒーカップを片付けながら聞く。
「その逆です。
万が一受賞したら、制約だらけになります。
出版社から見たら、直木賞作家は売れる事が前提になります。
冒険等一切させてくれないでしょう。」
「売れる小説しか書かせない訳か。」
何となく理解出来た。
「そうです。打ち合わせも編集長が出て来るでしょうしね。
僕の書きたい物とは程遠くなるでしょう。
多くの受賞作家がその後ぱっとしないのはこれが理由です。」
「それが受賞したくない訳か。
でもさ、少なくても今回は好きな事を書けるのだから、良かったんじゃない?」
窓際に立つアキノリが前向きになる様な言葉を選ぶ。
「そうですね。これが僕の最後の作品だと思って、精力を傾けます。
シオンさんと僕の為に。」
赤いコスチュームに陽が当たり、背後に雨で濡れた街が見える。
その上空に大きな虹が掛かっていた。
(つづく)
「すっ、凄い…。」
もう躊躇はない。
偉大なアナルに崇拝の念を抱く。
壊れそうという思いは失せ、ただ力の限り押し込んだ。
雨粒が窓を打ち付ける。
アキノリがパワーポイントを使いながら、プロットを説明していく。
あの巨大なディルドを入れたまま淀みなく話す姿を見て、感心するばかりだ。
「タカユキとケンゴが手を繋ぎ、阿寒湖へ入水していくシーンで終わりです。」
担当者の矢作は黙って聞いていた。
「以上が次作の構成ですが、どうでしょうか?」
アキノリがエンターキーを押すと、表紙に戻る。
黒い背景に『愛ゆえに』の文字が浮かんだ。
「先生の作品にしては全うした純愛物ですね。
ファンは何時通りの裏切りを期待していると思うのですが。」
「たまには読者を裏切る事も必要かと思いまして。」
アキノリがソファーに腰を下ろす。
シオンはドキドキしながらアキノリの股間を凝視した。
「確かにそうですね。
私はこれで良いと思います。
パワポを送って貰えますか?
社に戻って、編集長の承認を得てきます。」
矢作は温くなったコーヒーを啜った。
「それだけですか?」
アキノリが身を乗り出して聞く。
「ええ、良く出来た構成だと思いました。
何か心配事でも?」
逆に矢作が聞き返す。
「いや、全編ゲイの話ですので、そこが受け入れられるか心配でした。」
アキノリが不安げな表情を浮かべる。
矢作がちらっとシオンを見た。
「それは問題ないでしょう。
アンケートでも『愛の形』では最後の短編が断トツの人気でしたし。
今の先生の人気なら多少の冒険は許容範囲です。」
矢作がカップを置く。
最後の短編はゲイの恋愛ストーリーだ。
「アニメでもボーイズラブが売れている時代です。
『愛の形』で10代から20代の若い女性の購買層が一気に増えました。
まあ、それは先生のルックスが大きく起因していると思いますがね。」
矢作は鞄を持つと立ち上がる。
「ご馳走でした。
私の初めて読んだ小説は『阿寒に果つ』です。
『愛ゆえに』を令和の『阿寒に果つ』にしましょう。」
矢作はがっちりとアキノリの手を握った。
「それと一つお願いがあります。
と言うより、出版に当たっての条件です。」
固い表情でアキノリが口を開く。
「どんな事ですか?」矢作が首を傾げる。
「ハードカバーの表紙は僕のイメージ通りにして下さい。」
「出来る限りご要望に添える様に頑張ります。
先生のイメージを聞かせて下さい。」
矢作は又ソファーに腰を下ろした。
「拍子抜けです。
大幅な軌道修正を言われるかと覚悟していたのですが、すんなり通りました。」
矢作が帰った後、雲間から陽が差し込んできた。
「雨が止んだ様だ。
これなら受賞したら、もっと自由が利くんじゃないの?」
コーヒーカップを片付けながら聞く。
「その逆です。
万が一受賞したら、制約だらけになります。
出版社から見たら、直木賞作家は売れる事が前提になります。
冒険等一切させてくれないでしょう。」
「売れる小説しか書かせない訳か。」
何となく理解出来た。
「そうです。打ち合わせも編集長が出て来るでしょうしね。
僕の書きたい物とは程遠くなるでしょう。
多くの受賞作家がその後ぱっとしないのはこれが理由です。」
「それが受賞したくない訳か。
でもさ、少なくても今回は好きな事を書けるのだから、良かったんじゃない?」
窓際に立つアキノリが前向きになる様な言葉を選ぶ。
「そうですね。これが僕の最後の作品だと思って、精力を傾けます。
シオンさんと僕の為に。」
赤いコスチュームに陽が当たり、背後に雨で濡れた街が見える。
その上空に大きな虹が掛かっていた。
(つづく)
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